5ストロークエンジン──5行程目とは何か、なぜ奇数なのか[内燃機関超基礎講座]

世の中には現状に決して満足せず、さらにいいものができるはずだと模索する人が絶えずあらわれる。長い歴史と経験を有する4ストロークオットー機関の改良ではなく、そのものに疑念を抱いた、ユニークな機関を紹介しよう。
FIGURES:5-STROKE ENGINE / Gerhard SCHMITZ

4ストロークガソリンエンジンは、燃焼エネルギーの大半を熱損失として捨てている。再利用の手段として一般的なのがターボチャージャーだが、間にデバイスを用いずに直接排気エネルギーを使おうと考えたのが、この5ストロークエンジンである。開発者のシュミット氏は、「出力のためには低圧縮に、効率のためには高膨張にしたい。しかし従来のオットーサイクルでは圧縮=膨張ではないか」と課題を掲げた。圧縮<膨張としては近年ミラーサイクルが有効策だが、熱損失の回復には結びついていない。これらの要件をすべて満たす機関として、5ストロークエンジンは考案された。

シリンダーブロック。ご覧のように直列とも言いがたい、どちらかといえば狭角V型のような気筒配列を持つ。両側が高圧側シリンダーで、中央が低圧側シリンダー。低圧側はボア/ストロークともに低圧側よりも数値を大きくしている。
シリンダーヘッド。高圧側は吸気1/排気1の2バルブ構造。低圧側には4つのバルブが備わり、排気流入2/排気2のレイアウトだが、左右の高圧側シリンダーからの排気流入は交互になされるため、2本のバルブは同時に動くことはない。
高圧側の燃焼室。手前の大きなバルブシートが吸気バルブ、奥の小径が排気バルブ。ねじの切ってあるホールのうち、ひとつは点火プラグ、もうひとつは筒内の圧力を検知するためのセンサー用。圧縮比は、当然高圧側のほうが高い。

中間に挟まれる低圧側シリンダーは膨張と排気行程のみのため、圧縮比は低いものの、フリクションは当然ながら増えている。また、低圧側をのぞけば360度クランクの直列2気筒構造であり、自動車への搭載には騒音と振動対策が要されるだろう。

いっぽうで仕様をみれば、最大トルクは5000rpm、最高出力にいたっては7000rpmもの高回転で得られていて、どのような設計としているのか興味は尽きない。現在は2+1気筒構造のプロトタイプであり、さらなるステージとしては吸気ポートの2本化、エキゾーストバルブにスイッチタペットを用いることによるターボの高効率利用、そして直噴化などを将来展望として掲げている。これらを踏まえ、BSFCを215g/kWhとし、プロトタイプからさらに20%の軽量化、そしてリッター当たり出力として150hpをねらっている。

【1st stroke:Intake】話を簡単にするため、左側の高圧側シリンダーのみで構造を理解しよう。吸気バルブを開き、ピストンの下降~筒内負圧によって混合気を吸入する。欧州の技術らしく、過給もシステムの視野に入っているようだ。
【2nd stroke:Compression】下死点を過ぎて吸気バルブを閉じ、混合気を圧縮。通常の4ストロークと同様の行程。吸気弁径のほうが大きいが、低圧側の弁径と高圧側の排気弁径を同じにするため、結果として吸気弁径が大きくなったということだろう。
【3rd stroke:Power】高圧側シリンダーは通常の火花点火機関のため、上死点近傍で着火して燃焼。膨張行程に入る。熱効率を追求する機関だけに、高圧側シリンダーでは名称どおりにノッキング限界ぎりぎりまで攻めた設計になっていると思われる。
【4th stroke:Exhaust / Extended Expantion】この機関の最大の特徴である4行程目。高圧側の排気バルブを開き排ガスを押し出すが、その行き先は隣の低圧側シリンダー。排ガスのエネルギーを用いて低圧縮のピストンを押し下げ、回転エネルギーを得る。
【5th stroke:Exhaust】低圧側のピストンが下死点を超えると低圧側排気バルブを開き、4行程目で回転ネルギーとして用いた排ガスをシリンダー外に吐出する。先述のとおり、その行き先はタービンホイールであり、1行程目へのアシストとして用いる。

■ specifications
Configuration:狭角V型3気筒
高圧側シリンダー
・Bore×Stroke:78×73mm
・Displacement:350cc×2
・Compression:7:1
低圧側シリンダー
・Bore×Stroke:106.9×88mm
・Displacement:778cc
・Compression:25:1
トータルでの膨張比:14
最大トルク:166Nm/5000rpm
最高出力:96.94kW/7000rpm
BSFC:226g/kWh

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