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ディーゼルエンジンは、CO2低排出として欧州を中心に大勢を占めている。かつては、汚い/うるさい/重いとして嫌われていたが、急速な技術革新によって、一気に主流に躍り出ているのはご存じのとおりである。
立役者は、コモンレールをはじめとした燃料噴射システムの高度化。そしてターボチャージャーによる過給。圧縮によって高温高圧となった空気に、いかに燃料を噴くか、どのように燃やすかという追究によって生まれた、現代のディーゼルには決して欠かせないデバイスである。
ディーゼルは高出力を追求すると高温燃焼によるNOxが、燃え残りが生じればPMが発生する宿命がある。かつてはNOxとPMの発生がトレードオフとされて、自動車メーカーはいずれかの処理に軸を置き、燃焼室を設計していた。しかし近年のトレードオフ関係は、NOxとCO2。後処理装置の進化に支えられ、ディーゼルの作り方も変化を迎えている。現代のディーゼルは、規制を受けて今後、どのような方向に進んでいくのだろうか。
1986:世界初の直噴ターボディーゼル
少々意外、といってはイタリアに失礼だが直噴式のディーゼルエンジンを市販乗用車に最初に搭載したのはフィアットだった。当初からターボ過給を備えた意欲作である。当時のDセグメント車・クロマに設けられたTD i.d.(Turbo Diesel iniezione diretta:直接噴射の意)が該当グレードで、ボッシュのシステムを用いていた。直列4気筒のSOHC直打式8バルブで排気量は1929cc、吸排気バルブ間にインジェクターを配置する構造。最高出力は70kW(95ps)/4200rpmを発揮していた。
1989:アウディ・TDIの登場
現在のディーゼルエンジンの主流の一翼を担う、VW/AUDIのTDI第一弾は、1989年の登場。完全電子制御式直噴ターボの嚆矢である。Turbocharged Direct Injectionの略称。アウディが得意とする直列5気筒で直打式SOHC10バルブ、2461ccの排気量で圧縮比は19.0としていた。ボッシュの分配型ポンプから最大90MPaの燃料噴射圧とし、85kW/265Nmのスペックからスタートしている。94年にはラジアルピストン式の分配型ポンプを備え、103kWを発揮している。
1990:トヨタの直噴ターボディーゼル
80系ランドクルーザーに搭載された1HD-Tは直列6気筒SOHC12バルブの排気量4163ccで、渦流型の1HZ型の燃焼室を直噴式に変更したユニットである。末尾のTが示すようにターボ過給を備える。圧縮比は18.6で最高出力121kW/3600rpm、最大トルク361Nm/1400rpmを発揮した。先代の60系ランドクルーザーに搭載されていた直噴式12H-Tの後継として登場したが、排ガス規制の関係からバンへの搭載にとどまっている。
1991:VGTの採用が始まる
VW/AUDIがTDIにVGTを搭載し、市場に投入を開始した。1.9 TDIのペットネームは同じものの、こちらは直列4気筒。SOHC8バルブの排気量1896ccで、圧縮比は19.0であった。VGTの恩恵で、1700rpmという低回転から大トルクを発生させることに成功している。VGTのサプライヤーはハネウェル。アウディ80から導入が始まり、その後VWグループの各車に膨大なバリエーションとともに展開されている。
1992:デンソーがコモンレールを発表
ディーゼルエンジンが現在の環境エンジンの主流を占めるに至った最大の功労者・コモンレールは、デンソーが一番乗りを果たした。アイデアは古くからあったものの、実用化はデンソーが世界初。それまでの高圧発生/シリンダーのシステムに対し、あらかじめ高圧で燃料を溜めるタンク(コモンレール)からそれぞれの気筒への噴射装置に配分し、筒内に直接噴くシステムで、当時は120MPaの噴射圧、2回噴射/燃焼の仕様だった。
1994:4バルブ化と効率化の追求
1HD-Tに改良を加え、4バルブ化したユニットが1HD-FT。4バルブによってインジェクターを燃焼室中央に配することができ、さらにバルブ面積も拡大できることで効率を著しく高めることができた。バルブトレーンはSOHCのままでロッカーアーム+バルブブリッジを用いる構造。性能もさることながら、PM排出抑制をはじめとする環境対策にも力点が置かれたのが特徴。その後、インタークーラーを備える1HD-FTEが登場している。
1997:ボッシュがコモンレールを量産開始
デンソーが1992年の世界初のコモンレールシステム発表時に商用車へ活路を見出し、アプローチもトラック寄りであったのに対し、ボッシュは当初からコモンレールの展開先を乗用車として見定めていた。燃料噴射圧は135MPa。欧州の環境規制がCO2排出量主体であり、市場が大きい乗用車搭載の意義を重要視したのである。同年、ディーゼル燃料噴射装置のサプライヤーであるゼクセルへの出資比率を引き上げ、同社の筆頭株主に収まった。
1998:日本勢の新世代ディーゼル
欧州でのディーゼルエンジン気運の高まりを受けて、国内でも新しいユニットが登場し始めた。日産のYD型(上)は「あちらを立てればこちらが立たず」のトレードオフ関係であったNOxとPMの同時低減を可能とした意欲作。EGRを大量に導入することで燃焼温度を低下させNOxの排出を抑制。また、高スワール流によって燃料をよく混ぜ、PMが生じにくくする。現代の環境対策と同様の手法を早くから採っていた。
1999:トヨタがデンソーのコモンレールを採用
商用車向けから乗用車向けにシフトし、ボッシュに遅れること2年後の1999年に、デンソーのコモンレールシステムを搭載したユニットが登場。トヨタ・1CD-FTVと称する新型エンジンは、直列4気筒DOHC4バルブ・排気量1995ccで、先述のデンソーのシステムをさらに改良した145MPa仕様を搭載していた。圧縮比は18.6、84kW/250Nmを発揮した。ペットネームのD-4DとはDiesel 4 cylinder Direct injectionの略称。欧州のトヨタ・アベンシスに初搭載され、その後欧州のカローラなどにも展開された。スペックでは135MPaのボッシュのシステムに対して10MPaのアドバンテージがあったがデンソーはこれに満足せず、いよいよ乗用車用コモンレールシステムにおける両者の全面対決が始まるのである。
2000:ボッシュの第二世代コモンレールシステム
最大噴射圧を160MPaに高めた第二世代コモンレールシステムをボッシュが発表。噴射圧を高めることで燃料粒径を小さくし、高圧高温下の空気に噴射した際にきれいに燃えやすくなる。しかし、高圧で安定して噴射するためには想像を絶する品質管理が必要であり、もはやディーゼルインジェクターは自動車の装置でもっとも精密といっても過言ではないレベルに達しているのが現状だ。ゆえ、サプライヤーは世界でも数社に限られるのである。
2001:デンソーの第二世代コモンレールシステム
前年のボッシュ・160MPaに対し、デンソーの発表した新世代コモンレールシステムは180MPaもの高圧噴射を可能にしていた。しかも噴射回数は5回/燃焼としていて、予混合燃焼と騒音低減のパイロット、トルクを引き出すためのプレ/メイン、不完全燃焼分の再燃焼を図るアフター、触媒活性のためのポストと、非常に複雑で高度な噴き方を手に入れている。表に示すとおり、乗用車とトラックをともに視野に入れ、翌年の生産開始をアナウンスしていた。
2002:マツダがコモンレールを採用
マツダのRFDI-TDエンジンは、直列4気筒SOHC4バルブ・排気量1998ccの直噴ターボディーゼルとして1999年に登場した。搭載は欧州向けの626(カペラ)。分配型:100MPa仕様の燃料噴射装置を当初備えていたが、2002年のマツダ6(欧州アテンザ)に搭載された仕様でデンソーのコモンレールシステムを採用。VGTを用いて、89kwあるいは100kWの出力を誇った。その後、同年に登場する欧州市場のMPVにも100kW仕様が搭載されている。
ピエゾインジェクターの登場、そして電動スーパーチャージャーへ
ボッシュが再びデンソーを引き離しにかかった。第三世代と銘打つその特徴は、最大噴射圧力は160MPaのままであるものの、圧電素子・ピエゾを用いるインジェクター。従来のソレノイド式に比べて応答性を高めることができ、ニードルスピードは1.3ms高速化、従来に比べて2倍早くなった。また、ソレノイドタイプに比べて30%もの軽量化が図れるのも美点で、結果、搭載自由度も向上した。現在も、ハイエンドのシステムとして用いられる。
2005:デンソーのピエゾ式インジェクター
2005年にはデンソーもピエゾ式を発表。従来のソレノイド式に比べて最短噴射間隔を0.4msから0.1msまで短縮させた。1msという時間をデンソーは、「時速300kmの新幹線がわずか8cm進む時間」と表現している。従来型でも5回噴射/燃焼の性能を有していたが、さらにマージンを得られたわけである。2007年には第三世代を発表。ついに200MPaの大台を突破し、噴射回数は7〜9回(パイロット3/プレ/メイン/アフター/ポスト3)と、途方もない性能を持つに至った。ソレノイド式も、最短噴射間隔を0.2msまで向上させている。写真は第二世代・180MPaピエゾ式インジェクター。左手から、ECU&EDU、コモンレール、上にサプライポンプ、インジェクター。DPNR(Diesel Particulate NOx Reduction system)と称するNOx/PM後処理装置と組み合わせ、下記のAD型に搭載した。
2007:VW/AUDIがTDIにコモンレールを採用
これも意外、といってはVWに失礼だが、4気筒版TDIへのコモンレールシステムの採用は2007年が初。2.0 TDIと称するこのエンジンは、180MPaの燃料噴射圧で最大7回噴射のピエゾ式を搭載していた。VW/AUDIは1999年という早い時期に3L TDIというエポックユニットを市販。文字が示すように3ℓ/100km(33.3km/ℓ)の低燃費を実現したディーゼルエンジンで、ユニットインジェクターを搭載していた。そのような高性能をすでに実現していたため、コモンレールの採用が遅かったのかもしれない。
2013:超高圧燃料噴射の時代
2007年のデンソー3Gを皮切りに、超高圧噴射を巡る戦いは激化。デンソー/ボッシュともに250MPaの噴射圧を実現し、高性能化はとどまることを知らない。背景にあるのは2015年から実施予定のEuro6。ハイパフォーマンスと低排出ガスの両立を図る。いっぽうでディーゼルエンジンのためのコストは増加の一途。高圧仕様が誕生すればそれまでの上級仕様は廉価版にはなるものの、それにも限度がある。ガソリンエンジンの猛追も著しく、今後の展開を期待。
2014:電動コンプレッサーの登場
エンジン回転がつねに変動する自動車用エンジンにおいて、排気エネルギーを用いている以上ターボチャージャー過給遅れは避けることができない。VGTやガソリンエンジンのツインスクロール式、ツイン/トリプルターボなどは、過給遅れへの対応からさまざま考案されてきた施策である。それに対する決定解として期待されるのが電動コンプレッサー。電動モーターで直接コンプレッサーホイールを駆動し、過給するシステムである。