NEDO: 自律・分散型AI信号制御による「軽やかな交通管制システム」の実証実験を開始

NEDOと(一社)UTMS協会は「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」事業において、電波レーダーやプローブ情報(位置情報)から取得した交通情報などを活用する人工知能(AI)を組み込んだ適応型の自律・分散交通信号機による交通管制方式の確立に取り組んでいる。これにより、従来の高度な集中制御方式の交通管制システムと同等以上の「軽やかな交通管制システム」を低コストで実現することを目標としている。

3月14日、その一環として警察庁と静岡県警察本部の協力のもと、静岡県下12カ所の交差点で実道路における実証実験が開始された。今回の実証実験では、交差点での信号制御性能や平均旅行時間の短縮、横断歩道などでの歩行者の把握検証を予定しており、現状の信号機に比べて15~20%程度の平均旅行時間短縮による時間便益の向上とCO2削減への貢献が期待されている。

本事業により、自動運転や高速大容量通信の実現をはじめとするSociety 5.0時代に求められる交通管制システムの確立を目指す。

図1 事業概要
図2 AI交通信号機の設置状況

1.概要

日本国内のほとんどの道路では、中央の交通管制センターと交差点に設置された交通信号機(端末交通信号機)が通信回線で接続された、集中制御方式の交通管制システムにより高度な交通制御が実現されている。一方、一部では整備コスト削減のため中央と接続されていない非集中制御方式の交通信号機も使用されており、高度な交通制御ができていない地域もある。また、集中制御方式の交通管制システムを導入した道路でも、車両感知器や交通信号機、有線の通信回線、大規模な中央制御装置など維持管理コストの増大が課題となっている。

これらを解決するため、NEDOとUTMS協会は「人工知能技術適用によるスマート社会の実現※1」事業に取り組み、人工知能(AI)技術を活用することで集中制御方式の交通管制システムと同等以上に高度で「軽やかな交通管制システム」を低コストで実現することを目指している。具体的には、まず電波レーダーから得た交差点近傍の交通情報や画像をもとに学習したAIモデルを用いて歩行者に関する情報を、また車両から得たプローブ情報(位置情報)などをもとにしたAIモデルから交通情報を生成する。次にこれらの情報を、AIにより最適な制御パラメーターを算出するモデルを実装した自律・分散交通信号機に入力し交通信号制御を行う。さらに、交差点間で交通信号制御情報を交換することで、これら情報に応じて信号の表示時間を変える適応型の自律・分散交通管制方式を確立する。

3月14日よりこの事業の一環で警察庁、静岡県警察本部の協力のもと、静岡県下12カ所の交差点で実道路における実証実験が開始される。

2.実証実験の内容

今回の実証実験では、まず静岡県下12カ所の交差点(図3)に本事業で新たに開発したAIユニット搭載の交通信号制御機(図4)が設置された。信号制御実機の動作判定など適切な稼働が可能か検証を行う。

図3 実証実験場所:円滑な実証実験に必要な適切な交通量、歩行者の存在などの観点から、静岡市内の高松団地中央交差点を中心に四方に連続する12カ所の交差点を実証実験場所として選定した。
図4 AIを搭載した交通信号制御機:新開発のAIユニットの先進性と従来の交通管制の経験で培われた安全対策などを融合するため、従来の信号制御機を改修し、 AIユニットを追加する構成を採用した。

その後、現状の集中制御からAIによる信号制御への切り替えを行い総合検証として次の三つを行う。

交通環境の変化への追随の自動化検証:その時々の交通量に応じて柔軟に信号制御が行われることを検証
交差点における信号制御性能検証:現行の信号制御に比較して渋滞を軽減するなどの信号制御の性能を検証
平均旅行時間の短縮検証:一定の区間を車両が走行した場合の平均旅行時間が短縮されていることを検証する。現状の信号機に比較して、15~20%程度の平均旅行時間の短縮※2が期待される。仮に、全国約20万カ所の交差点について20%の時間を短縮できた場合、時間便益は約5兆5200億円/年、CO2削減量は約5500t-CO2/年に相当する。

3.事業終了後に期待される効果

本事業により、AI技術の活用による低コストで高度な交通信号技術を確立する。同時に、内閣府が実施しNEDOが管理法人を務めるSIP第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」※3や、PRISM「交通信号機を活用した5Gネットワークの構築」※4とも連動して、自動運転や高速大容量通信の実現をはじめとするSociety 5.0時代に求められる交通管制システムを確立し、既存システムからの進化を目指す。また全国で渋滞を軽減し、システムの維持管理コストを低減させることで、低成長社会でもサステナブルで安全・安心な道路交通社会を実現し、さらに、物流や公共交通をサービス統合させたMaaS(Mobility as a Service)の実現にも貢献する。

※1 人工知能技術適用によるスマート社会の実現
 事業名:人工知能技術適用によるスマート社会の実現/人工知能技術の社会実装に関する研究
 開発/人工知能を活用した交通信号制御の高度化に関する研究開発
 事業期間:2018年度~2022年度
 委託先:東京大学、慶應義塾、千葉大学、東北大学、北海道大学、 日本無線、日本電気、住友電気工業、UTMS協会
 事業概要:サイト内リンク人工知能技術適用によるスマート社会の実現
 紹介動画:NEDO Channel「NEDO Channel人工知能を活用した交通信号制御の高度化に関する研究開発
※2 平均旅行時間の短縮 今回のAIユニットに組み込むアルゴリズム(慶應義塾、千葉大学、東北大学、北海道大学が共同で開発)に基づくシミュレーションによると、現状の信号機と比較して、20%の平均旅行時間短縮(管制センターによる集中制御では15%程度)が期待される。
※3 SIP第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」 SIPは、内閣府が中心となり関係府省・機関が連携して推進する戦略的イノベーション創造プログラム(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)の略称。「自動運転(システムとサービスの拡張)」(事業期間:2018年度~2022年度)はこの第2期課題となっている。
ポータルサイトサイト内リンク戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)
※4 PRISM「交通信号機を活用した5Gネットワークの構築」 PRISM(プリズム)は官民研究開発投資拡大プログラム(別ウィンドウが開きますPublic/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM)の略称。
別ウィンドウが開きます交通信号機を活用した5Gネットワークの構築

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