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電気自動車の航続距離。この数字は魅力的で残酷です。この値を指標にマーケットはクルマの性能を判断し、ライバル車との比較検討材料のひとつとします。しかし燃費値と同様、この数字はあくまでモード走行時の参考値であり、操作者によって大きく左右されるもの。さらに言えば、各種機関が調査する「1日あたり走行距離」から考えれば、この数字を余さず使い切ることもなかなかなさそう。言ってみれば最高速度値に近いとも考えられます。
しかし、やはり数字の説得力は大きい。これを伸張するための各社各部の技術を取材調査しました。
Chapter 1:パワーユニット
Chapter 2:回生ブレーキ
Chapter 3:軽量化
Chapter 4:空力
Chapter 5:変速機
Chapter 1:駆動の根幹、モーターとバッテリーの工夫
何よりまず思い浮かぶのはバッテリー。これを高効率で無理なく運用すればいかにも航続距離は伸びそうです。テーマとして取り上げたのはプラグインハイブリッドではあるものの大型バッテリーを載せ、モーター走行距離を追求したアウトランダーPHEV。トピックはパック内のバッテリーセルの冷却で、エアコンに用いる冷媒によって直接冷やす構造としています。
一方のモーター。このところの技術的チャレンジは冷却と潤滑で、これについてはハイブリッドシステムの雄・THSの最新世代が採用したモーター専用潤滑油脂を紹介します。さらに、モーターの根源的な損失である鉄損を最小限に抑えるためのキーテクノロジー・電磁鋼板についても取材しました。
Chapter 2:モーター走行最大のメリット・回生ブレーキ
駆動機にモーターを使う最大の美点は回生が得られること。電動駆動のオーソリティである先生の言を借りれば「普通のクルマはブレーキをかけてもガソリンがタンクに戻りませんよね」。本章では、さらに高度な回生協調ブレーキについて紹介します。ご存じ、摩擦ブレーキと回生ブレーキを組み合わせる技術です。減速エネルギーを得るために、可能ならば全部を回生としたいところ、諸般の事情から摩擦ブレーキと組み合わせる必要がある。混ざっているとき、乗り越えるときをいかにスムースにするか。違和感をなくすか。設計の妙を探ります。
Chapter 3:クルマが軽くなれば長く走れる
動かすものが軽くなれば航続距離が伸びるのは容易に想像できます。軽い素材として思い浮かぶのはアルミですが、これに挑む鋼の取り組みについてお話をきいてきました。ハイテン鋼と呼ばれる素材で、強さはもちろんのこと軽さといかに両立するか。鋼材vsアルミの熾烈な戦いを紹介します。
また、設計時にどんな素材をどんな形状でどのように配置するとクルマは軽くできるのか。これを効率的に進めるのがCAEです。各部の検討を組み合わせると膨大な検討量になるところ、最適な値を早期かつ効果的に選択し、求める軽さと強さを得る助けとする本技術について、実際例からお話を聞きました。
Chapter 4:相当に支配的な空気の力を手なづける
たとえば高速道路を走行中に窓を開け、手をそっと出してみると、押し戻される力に驚いたことがあるでしょう。クルマは走っている最中、常にこれと戦っている格好です。出っぱっているところや大きく凹んでいるところ、急に折れ曲がるところ――これらをうまく平滑化できれば空力性能を上げることができますが、そうもいかないのが市販車というプロダクト。ならば影響を最小限に抑えるためにどうすればいいか。風洞実験における最適化とシミュレーションによる形状検討の2面からご紹介します。
Chapter 5:モーターだって変速したい
「変速機がないからシームレスな加速」などとよくつづられるモーター駆動の美点。回転開始直後に最大トルクを発揮する設計とされているのはよく知られるとおりですが、モーターは高回転が苦手。効率が悪くなり、結果航続距離に影響が現れます。高速域側に最適化すれば効率は向上しますが、今度は低速域側がよろしくなくなる。あちらを立てればこちらが立たず、なのです。これを両立させるのが変速機との組み合わせ。本章ではCVTとのコンビネーションの事例を紹介します。
特集外では、マツダが発表したラージ商品群の詳細レポート、新連載のサスペンションウォッチング・TBA編、大好評連載の大学研究室探訪・愛知工業大学編、技術の出発点・回生協調ブレーキの歴史などを掲載しています。
モーターファン・イラストレーテッド
Vol.187 航続距離のテクノロジー
▶︎ Introduction:砂漠横断4500kmドライブ▶︎ Chapter 1:パワーユニット
▷ バッテリー[三菱自動車]20kWhというサイズの理由
▷ 電磁鋼板[日本製鉄]電磁鋼板がxEVの性能を決める
▷ モーターの冷却と潤滑[トヨタ]いかに損失を低減しながら熱を奪うか
▶︎ Chapter 2:回生ブレーキ
▷ 回生協調ブレーキ[アドヴィックス]エネルギー回生効率最大化を図る
▶︎ Chapter 3:軽量化
▷ ボディ鋼板[日本製鉄]鋼を使ってアルミの「軽さ」に挑む
▷ データサイエンス[日産]従来の常識にない設計革新が生まれる
▶︎ Chapter 4:空力
▷ 風洞実験[HONDA]CD=0.001という微小領域の攻防
▷ シミュレーション[Ansys]車両空力の最適なバランスを実現する
▶︎ Chapter 5:変速機
▷ CVT[ボッシュ]CVTがモーターを救う
――Column「軽くする」挑戦が行き着く先、クルマはやがて石鹸箱になる
▶︎ Epilogue:航続距離は「生活圏以上」「遠出未満」
2022年04月15日発売
定価1760円(本体価格1600円)
ISBN:9784779645969