CVTとステップATを同居させた快作:ダイハツD-CVT

遊星歯車機構でふたつのトルクフローを上手に使う、「その手があったか」と思わず膝を打つ解決策。まさにD-CVTの構造を眺めて湧き出る偽らざる感想である。では、実際のパワートレーンとしてはどのような印象になるか。

モーターファン・イラストレーテッド vol.173より一部転載

高速側の効率悪化が不可避のベルト&プーリーという機構について、ならばそちらはギヤに任せようと考えたのがダイハツのD-CVT。さらに同社は、バリエーターとギヤのふたつのトルクフローについて、遊星歯車機構を用いて混合動力とした。バリエーターを経た入力をサンギヤに、ギヤを経た入力をキャリアに、そしてリングギヤはデフ出力へ、という構成。これにより、ギヤ出力時には、サンギヤの回転数を落とすことでリングギヤの増速を得ることができる。

大きく分ければバリエーターユニットだけを用いるベルトモードと、遊星歯車機構によるスプリットモードがD-CVTの動作。下の写真で示す青いラインがベルトモード。赤いラインはスプリットギヤによるデファレンシャルギヤへのダイレクトフローで、スプリットモードではこれに加えてバリエーターユニットからのサンギヤ入力が加わる。速度域によって両者を使い分け、連続的に繋ぐのでドライバーに違和感を与えることも少ない。

低速域では通常のCVT。サンギヤとリングギヤは直結だろう。イラストではスプリットギヤがかみ合わない状態で描かれるが実際は常時かみ合い式歯車、しかしクラッチが契合されていないから空転しトルクが伝わらない。
バリエーターユニットが高速側に変速し、スプリットギヤの変速比と同じになった状態でクラッチを繋ぐ。このとき、トルク配分はバリエーター6:ギヤ4。サンギヤとキャリアが同じ回転数なのでクラッチを断続してもショックは生じない。
さらに車速が上がった状態。バリエーターユニットは低速側に変速することでサンギヤの回転数が落ち、するとリングギヤを増速することができる。最Loの変速比状態では、バリエーター1:ギヤ9の配分でリングギヤを駆動する。

トルクコンバーターからの入力を受けた直後に備わるスプリットギヤのドライブ側にはクラッチが備わり、空転/噛み合いを制御する。ドリブン側の上流には動力分割を担うプラネタリーギヤが備わる。サンギヤ/キャリアはそれぞれにクラッチを持ち、回転と停止によって各種のモードを得る仕組み。例えば後進時はキャリアクラッチを固定してリングギヤを反転させる。サンギヤクラッチはリングギヤとの一体化のためで、ベルトモード時に用いるものだろう。

CVTにとってもっとも大事な高圧を生み出すオイルポンプは、インプットシャフトの末尾に同軸配置で備わる。写真では見えづらいが、プライマリープーリーの下にオイルポンプの内接ギヤ部が見て取れる。
スプリットギヤと負担を分担できたこともあり、バリエーターユニットの小型軽量化を実現できた。プライマリー/セカンダリープーリーの軸間距離は136mmと世界最小。インプットシャフト/出力軸間距離も168mmを実現した。

変速機自体の高効率化に加えてエンジンのトルクも増強、これらによりドライバビリティは大幅に向上した。ベルトモードからスプリットモードへの遷移は基本的に回転同期時としているが、急加速時などの瞬時トルク要求に関しては飛び変速制御も盛り込む。また、高速域での効率改善はまさに目論見どおり、伝達効率の向上に加えてエンジン回転数の低下も両立した。

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