「理論上は0:100の前後駆動力配分も可能」!? なぜできるのか:GRヤリスのAWDシステム

FFベースのオンデマンド4WDと同様の構成を採りながら、30:70の前後駆動力配分比を謳うGRヤリス。そこでカギとなるのが前後で1%弱の差が設けられたファイナルギヤの減速比だが、こうした手法はすでに水面下で広がっている。
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI) PHOTO:MFi

モーターファン・イラストレーテッド vol.163「差動 vs 差動制限」より一部転載

目からウロコだ。FFベースのAWDに多く見られる、オンデマンド型と呼ばれるシステムでは、後輪の駆動は補助的なものであり、後輪へのトルク配分比は最大でも50%、前後比でいえば50:50……というのが筆者の認識だった。ところが2020年の東京オートサロンで発表されたトヨタGRヤリスのAWDシステム「GR-FOUR」では、このオンデマンド型そのままの構成としながら、30:70の前後駆動力配分を実現しているという。

オートサロンの会場で担当エンジニアに伺ったところ、カギとなるのは前後の最終減速比(デフのリングギヤとピニオンギヤで構成される減速比)の間に設けられた1%弱の差だという。つまりリヤのほうが若干ロング(小さいギヤ比)とされており、これによりリヤ寄りの駆動力配分が可能となったという。しかも、理論上は0:100という前後比も可能だというのだ。

PTO(パワー・テイク・オフ)でフロントから駆動力を分けてもらうというこの構成で、どうして駆動力配分をリヤ寄りにできるのか? 電子制御カップリングをスリップさせながら使うことでそれが可能になる、というエンジニア氏の説明に納得したつもりになりながらも、どこか釈然としないモヤモヤ感が続いていたのだが、今回の取材でさまざまなことが見えてきた。

じつは冒頭の“目からウロコ”は、GRヤリスの駆動力配分についてではない。というのも、前後の最終減速比に差を設ける手法はすでにいくつかのモデルに採用されており、特別なものではなかった。この部分に筆者が気づいていなかったという意味で“目からウロコ”だったのだ。確かに、先のGRヤリス担当エンジニア氏から、フォード・フォーカスRS(Mk.3)に同様の原理を利用するシステム(GKNドライブライン製)がすでに採用されているということは伺ってはいた。しかしこれは、こういった“特殊”なモデルに限ったハナシではなく、トヨタRAV4の「ダイナミックトルクベクタリングAWD」、さらにはマツダMAZDA3/CX-30の「i-ACTIV AWD」でも、前後の最終減速比に差が設けられていた。表だってインフォメーションされていなかっただけで、すでに普及が始まっていたのだ。

フロントよりリヤの減速比がロングとなれば、当然ながらリヤタイヤの回転はフロントよりも速くなる傾向が生じ、乱暴に言い切るならこれによりリヤタイヤの駆動力が支配的となる。そして、そこに流れるトルクを電子制御カップリングで制御すれば、リヤ寄りに至るまで自由なトルク配分が可能になるというわけだ。駆動力配分の比率を決めるのは、減速比の前後差の大きさではなく、カップリングのトルク伝達能力で、エンジントルク以上のトルク伝達能力を確保できれば、0:100の前後駆動力配分も可能だ。

問題は常時スリップ状態で使うカップリングの発熱と耐久性だが、近年におけるクラッチ技術の進歩がこれを解決。電子制御技術の進歩も噛み合いながら、AWDの在り方は大きく変わろうとしている。

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