MX-30のR-EVを考察してみる——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第78弾

マツダからロータリーエンジンで発電するプラグイン・ハイブリッド車、“MX-30 e-SKYACTIV R-EV”が発表になった。まだ詳細な技術内容は公表されていないが、僕が興味(と疑問)を持った点を、いくつか挙げておきたい。
TEXT:安藤 眞(Makoto ANDO)

1月13日に発表された日本向けのプレスリリースには、出力や排気量などはまったく掲載されていなかった。そこでまず、情報のない状態から性能を予測してみた。

欧州がメインマーケットなら、150km/hぐらいで巡航できなければ格好が悪い。アウトバーンの上り坂でもこの速度が維持できるようにするには、エンジン出力は110〜120psぐらい必要なはずだ。

そうなると、排気量はどれくらいになるか? RX-8のスタンダード仕様が215psで、排気量は1308cc。120psで単純に比例計算すると730ccになるが、排気量が小さくなるほど機械損失の割合が増えるし、シリーズ式ハイブリッドなら電気に変換するロスがあるから、800ccぐらいは必要だろう。レギュラーガソリンを使うなら、もう少し上乗せする必要があるかも知れない。

ハイブリッド走行燃費は、マイルドハイブリッドのMX-30が15.6km/Lだから、17km/L台には載せたいところだが、同じカテゴリーの三菱エクリプスクロスが16.4km/L。ロータリーエンジンの効率と、直結モードがないことを考慮すると、16.0km/Lぐらいでも及第と言えるのではないか。

などと考えていたら、ほどなくドイツのウェブサイトに詳細が公表された。排気量は830ccで、最高出力は55kW(約75ps)、最高速度は140km/hで、航続距離は電池だけで85km、ガソリン50Lと合わせて657km(これは中国新聞による)とのことだ。

エンジン排気量はおおむね当たったが、最高出力が低いのには驚いた。75psでMX-30の空気抵抗では、最高速は平地で130km/hがやっとなのではないだろうか? 140km/hと公表されているので、そこまで出るのかも知れないが、上り坂や向かい風ではそれは維持できず、Aセグ車に抜かれまくったのでは、ユーザーはガッカリするのではないだろうか。

もうひとつ驚いたのが、ハイブリッド走行時の燃費だ。単純に計算すると、(657-85)÷50=11.44km/Lとなり、素のMX-30より3割近く悪い。これがレンジエクステンダーで「100km走れるので充電スタンドまで行けますよ」というのなら話はわかるが、航続距離の87%をこの燃費で走るというのは、どう理解すれば良いのか?

手がかりになりそうなのは、欧州のWLTPの燃費算出方法。これを使うと、MX-30 e-SKYACTIV R-EV の燃費は1L/100kmになる。手持ちの技術でこの数値を取りに行った結果としか、僕の頭では理解できない。

さて、MX-30 e-SKYACTIV R-EV に採用されたロータリーエンジンには、技術的に興味深い点もいろいろある。まず、鋳鉄製だったサイドハウジングをアルミ化したこと。もちろん目的は軽量化だが、これまで鋳鉄で作ってきたのは、アルミでは強度や剛性が不足するからだったはずで、今回、なぜアルミ化が可能になったのか? 比出力を抑えたのは、もしかするとこれが一因なのかも知れない(鶏か卵かの可能性もある)。

もうひとつは、燃料噴射を直噴化していること。レシプロエンジンなら、ノズルはボアセンターか吸気バルブの間と相場は決まっているが、サイクルの進行と同時に燃焼室が移動するロータリーでは、ノズルの位置は重要な意味を持つ。気化時間を稼ぐには、吸気行程噴射となるはずだが、手前過ぎればローター冠面に燃料が付着するし、あまり奥では気化時間が稼げない。となると、吸気下死点すなわちエンジンの真上が良いのでは? と思って公開された写真を見ると、その位置にインジェクターらしきものが見える。

実はマツダは、直噴ロータリーの開発を1970年代から行っており、圧縮上死点に副室を設けた仕様(SCP)や、サイドハウジングからスパークプラグに向かって噴射する仕様(DICS-I)、ローターハウジングの接線方向にメインインジェクタを、トレーリング側プラグの下流にパイロットインジェクタを配置した仕様(DICAS-II)などを製作した実績がある。いずれもプラグ近傍に良好な濃度の混合気を形成するのが狙いだと思うが、それらとはまったく異なる今回の仕様でどのような混合気流動になるのか、興味の持たれるところだ。

さらにマツダは、サイドハウジングに吸気吹き戻しポートを設けたミラーサイクル仕様を試作したこともある。しかし今回の写真を見ると、サイドポートの位置は通常のロータリーエンジンと変わらない位置に開いている。反対側にある可能性は否定できないとはいえ、やっていれば宣伝するはずだから、今回はそれは行っていないだろう。

代わりに考えられるのは、EGRの大量使用だ。ロータリーエンジンは膨張行程を長く使って効率を上げようとすると、吸排気ポートのオーバーラップが大きくなって残留ガス(内部EGR)が多くなるという特性がある。かつては嫌われた残留ガスだが、内部EGRとして使えば、吸気損失が低くできるし、燃焼温度が下がれば冷却損失の低減にもなる。

ロータリーエンジンは燃焼室が移動しながらサイクルが進むため、壁面に熱を奪われ冷却損失が大きくなりがちだが、これを改善するには大量内部EGRは都合が良いと言える。全負荷域でもEGRを入れているとしたら、最高出力が75psしか出ていないのも合点がいく。

スパークプラグが1本だけというのも、これまでとは異なるところだが、これは発電専用に定点運転するためではないか。

以上、今、手に入る情報からいろいろ推測してみた。いずれきちんと取材させていただける日が来ると思うので、真相はそのときまでお楽しみに。

著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…