トヨタ・モビリティ基金支援の水素社会研究チームの論文が学術誌International Journal of Hydrogen Energyに掲載

水電解水素発生装置(産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所)
トヨタ・モビリティ基金(Toyota Mobility Foundation、以下TMF)が支援する研究者チームによるレビュー論文が、蘭ELSEVIER社が発行する水素に関する世界的に著名な学術誌であるInternational Journal of Hydrogen Energyに掲載されたことが発表された。

掲載されたレビュー論文

脱炭素社会の実現に向けては、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の大量導入が不可欠となっているが、再エネは時間帯や天候により発電量が変動する特性がある。その変動電力を調整する役割として水素が期待されており、そのエネルギー変換を行うキーテクノロジーが水電解である。このレビュー論文では、水電解の電源として再エネを使用する際の制約や電解装置の耐久性、触媒の劣化等の多岐にわたる課題について主な水電解の方式ごとに調査されたうえで、再エネ変動に適応可能な水電解のシステムや材料に求められる性能と、今後議論すべき課題について述べられている。

■論文の概要
タイトル:Influence of renewable energy power fluctuations on water electrolysis for green hydrogen production(グリーン水素製造のための水電解における再生可能エネルギー出力変動の影響)
著者:小島 宏一(産業技術総合研究所)、長澤 兼作(横浜国立大学)、轟 直人(東北大学)、伊藤 良一(筑波大学)、松井 敏明(京都大学)、中島 良(テクノ2050中島技術士事務所・TMFアドバイザー)

TMFの目指す水素社会

TMFは、環境・エネルギー問題を持続可能なモビリティ社会に向けた重要なテーマと位置付け、「つくる」「はこぶ」「つかう」という水素サプライチェーン全域を対象に、CO₂フリー水素(グリーン水素)の低コスト化に寄与する研究を支援する「水素社会構築に向けた革新研究助成」プログラムを2017年に創設した。このプログラムでは、3期にわたる公募を通じて29件の有望な研究テーマを採択して助成が行われ、水素やエネルギーシステムの有識者からなる、評価委員会による定期的な評価・助言や採択研究者同士の交流、相互研鑽の機会が提供されてきた。

2020年10月には政府により「2050年カーボンニュートラル」が宣言され、TMFとしても脱炭素社会の早期実現に向け、研究者個人の基礎研究の支援に加えて、研究者のチームによる共同研究プログラムが2021年4月より新たに開始された。共同研究では、脱炭素社会を目指すうえで重要テーマである「水素社会/エネルギーシステム」「水電解」という二つのワーキンググループ(以下WG)を編成し、「水素社会構築に向けた革新研究助成」プログラムの採択研究者の中から各WG 5名が選出された。

レビュー論文を取りまとめた水電解WGの研究チームは、水電解システムに対する再エネ出力変動の影響に関する文献調査で得た情報を基に、産業技術総合研究所の協力により設置された実用レベルの水電解装置を用いた研究を開始した。水電解装置の実機を用いて再エネ電力の変動による挙動や性能劣化、耐久性への影響を調査した研究はこれまで公開された例が少なく、水電解の性能向上・コスト低減に向けた課題解決に資する成果が期待されている。

装置仕様固体高分子(PEM)形水電解水素発生装置
水素製造能力10Nm3/h
設置場所産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所

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