目次
1. 実証事業の背景
太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、電力系統の需給バランスを調整する出力制御の機会が増加する。電力系統において、出力制御せずに、再生可能エネルギーからの電力を有効活用する方法の1つとして、大規模で長期間の水素貯蔵を可能とする、水素を用いたエネルギー貯蔵・利用(Power-to-Gas)が挙げられる。Power-to-Gas実現には、電力系統需給バランス調整機能(ディマンドレスポンス)だけでなく、燃料電池や燃料電池自動車向けの水素製造・供給を、水素需給予測に基づいて最適に行うシステムの確立が必要となる。
2020年3月に福島県浪江町に開所した「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」では、世界有数規模の10MW級水素製造装置が活用され、電力系統における需給バランスの調整に水素製造・供給を通じて貢献している。FH2Rには蓄電池・燃料電池を備えず、ディマンドレスポンスと、水素需給予測に基づくシステム運用により、再生可能エネルギーからの電力を最大限利用して、クリーンで低コストの水素製造・供給技術の確立が目指されてきた。
2022年度までの事業成果としては、各種制御システム(水素エネルギー運用システム、電力系統側制御システム、水素需要予測システム)を開発し、Power-to-Gasによる水素製造・供給と、ディマンドレスポンスを両立させるための基盤技術が確立された。具体的には、実際にFH2Rの設備を用いて、水素需要を満たしつつ、水素製造量等を必要なタイミングで調整し、一般送配電事業者が電力系統安定化のために必要となる電力系統の調整力を調達する需給調整市場向け商品(二次調整力②と三次調整力①②)相当の応動ができることが確認された。
2. 今後の活動について
2022年度までの実証を通じ、Power-to-Gasの事業化に向けた課題が発見されつつある。Power-to-Gas事業を成立させるためには、水素需給バランスが変化する中で、水素製造設備に変更を加えることなく、低コストの水素製造費用を維持し続ける必要性が明らかになった。さらに、電力系統安定化のため、電力系統への電力需給バランス調整機能を向上していくことが必要不可欠であることが明らかになった。
そのため、外部の水素需要家に対して、水素需給のタイミングと水素量をコントロールする仕組みや技術、および低コストの水素製造を実現するために水素製造設備の運用を最適化する技術が開発されている。さらに、電力系統安定化に寄与するため、FH2R以外の複数の設備と組み合わせた場合においても、電力系統へ調整力を供給できる、調整機能の高度化に向けた技術の開発が目指される。
3. 各社の役割
東芝エネルギーシステムズ | プロジェクト全体の取り纏めおよび水素エネルギーシステム全体 |
東北電力 | 電力の安定供給を前提とする水素エネルギーシステムの活用検証、ACシステムの制御高度化検証 |
岩谷産業 | 水素需要予測システム、水素需給管理システムの検証および水素供給 |