「いい音」を皆で作り上げる:Sound One ——音の感性評価Webアプリケーション[追記:結果発表しました!]

機械の動作音や走行時の発生音などを作り込むプロセスにおいて、必要なのは音を聴いて印象を答える感性評価。
これらを追求するとこれまでは非常に多くの時間とコストを要していた。
しかしSound OneはWebを用いることでこれを解決、集まった結果を解析することでさらに開発の効率化も可能となる。
TEXT:安藤 眞(Makoto ANDO) PHOTO&CAPTION:MFi FIGURE:Sound One
Sound Oneとは
「収録音をモニターに聴いてもらう」には、人数が増えるほど手間と時間とコストがかかる。Sound Oneは「収録音をWebを介して聴いてもらう」というシステムにすることで試聴参加のハードルを著しく下げることに成功、モニターの属性も広く集めることができる。すべての機能をWebブラウザ上で利用でき、音の収録/編集から、テストの実施/分析まで、デバイスを選ばずシームレスであることも特長。ユニークなのは聴いて答えることにとどまらず、その結果を集計分析し、次のステップに繋げられること。マーケットの好みやトレンドを捉え、それに影響する周波数成分を作り込むことで自社開発品をそこに「寄せていく」こともできる。もちろん、その結果を再度Sound Oneに諮り、サウンドデザインの精度を高める使い方もある。

悩ましい電動化時代の「音」対策

自動車の電動化によって大きな影響を受ける要素のひとつが、振動騒音性能だ。エンジンが発するメカノイズや吸排気音がなくなるため、騒音はロードノイズや風騒音、半導体まわりのスイッチングノイズやモーターのトルクリップル、ギヤの噛み合い音やドライブシャフトなどが発するものになる。これらの音がエンジン音と決定的に異なるのは、必ずしも「心地よい音ではない」ということ。しかも困ったことに、どれかを小さくすれば別の音が目立つ「モグラ叩き」現象に陥ってしまい、ゴールが見えない。加えて遮音性能は質量に比例するため、全体を静かにしようとすれば、質量やコストの増加は避けられない。

心地よい音を追求する

そうなると、吸遮音によって音圧を下げるのではなく、音質を心地よいものに変えていくというアプローチになる。ところが既述の通り、エンジンサウンド以外の音は、それ自体をチューニングしても必ずしも「心地よい音」にはならない。手段のひとつとして、オーディオのスピーカーを使って調整音を上乗せし、音質を整える方策があるが、そのときに問題となるのが「心地よい音とは何か」ということ。それを特定するには、なるべく多くの被験者を使用したモニター調査をするのが理想的だが、大勢のモニターを同じ場所に集めてテストをするのは、時間やコストの面で効率が悪い。

そうした悩みを解決するためのツールが、Webアプリケーションの“Sound One”だ。スマホを使って音を収録し、それをクラウドにアップロード。モニターがそれを聴き、印象を5段階で評価する“オーディオテスト”を実施し、その結果を集約して、収録した音がモニターにどのような印象を与えているかを把握。同時に、“好ましい”と評価された音を分析して、印象に大きく影響する周波数成分を抽出する。評価点が悪かった場合は、より好ましい音になるようエディター機能を使って周波数成分を調整し、再度、モニターに聴いてもらい、より良い音に作り込んでいく。

レコーダー&ドライブ
スマートフォンをはじめとする機器で収録した録音データをSound Oneの「ドライブ」にアップロード。フォーマットは.wavファイルを使用。他ユーザーとのデータ共有も可能。
エディター
「ドライブ」のデータからオーディオテストに必要な音を切り出したり、グラフィックイコライザーによって印象に影響する周波数を調整、音色を変えて手軽にテストできる。
オーディオテスト
2種類の評価語を2セット設定し、モニターが試聴して5段階で評価。結果はすぐにマップ表示され、分析機能で印象と相関の高い周波数をカラー表示。傾向を正しく把握することができる。

このように、エンドユーザーとメーカーエンジニアの“協創”によって音を作り上げていくのが“Sound One”のコンセプトだ。モニターは不特定多数とすることもできるし、信頼できる特定のグループにのみ公開するという使い方もできる。モニターの年齢や性別はオーディオテストに答える際に入力するようになっているため、それらの属性ごとに分類したデータの比較・分析も可能。だから、ターゲットユーザーの好みをピンポイントで把握することもできる。

音の印象を表す「評価語」については実施主体が自由に設定できるので、「重厚」などの音質を特徴づける言葉のみならず、「心地よい」などの個人の嗜好や経験からくる印象を想起させる言葉も使える。もちろん「○○っぽい」という具合に具体的な製品を示すこともできる。

ただしオーディオテストは、各モニターがそれぞれ自分の端末を利用して音を聴くことになるため、「再生環境が統一できない」という弱点がある。しかし、オンライン上でテストを行なうことで、モニター数を桁違いに増やすことができるため、再生環境差によるバラツキはある程度収束すると見込まれている。それ以上に、従来では数日かかった感性評価が数時間で実施でき、設計変更後の再評価も容易に行なえるというメリットは、何物にも代え難い。

しかも、対象とする「音」の種類は問わない。本稿の冒頭では、EVの車内音という事例を挙げたが、スイッチの操作音や、さまざまな警報音・通知音を設計するときにも有効に使えるだろう。もちろんクルマにとどまらず、ヘアドライヤーやエアコンなど家電製品の稼働音、ゴルフクラブのドライバーの打撃音、デジタルカメラのシャッター音など、音で価値を差別化するどんなものにでも適用できる。

現在はテストケースとして、プラットフォームを同じくする3組のICE車とEVの車内/車外音、ドア閉め音、ウィンカーの作動音などを収録した音源を公開してオーディオテストを実施しており、同社のサイトにアクセスすれば、誰でもモニターとして参加することができる。

走行音の収録
市街地を想定した30km/hの走行通過音。車外および運転席で収録し、前者は車外騒音の評価、後者については走行時のICE車とBEVの室内音の違いを確かめる試み。
サイン音と動作音の収録
停車時のドア閉め音、ドアミラー動作音、ウインカー動作音、ブロワー吹き出し音を収録した。車外および運転席でマイクをセット。メーカーや車種によってキャラクターの差が大きく出るジャンル。
小野測器の高機能騒音計LA-7500。騒音レベル測定や演算といった基本機能に加え、音を聞きながら録音/計測することも可能。
イヤホン型バイノーラルマイクによる録音。人間の耳の位置で左右収録することで、再生時の音像の立体化を狙った方法。
室内ではヘッドレストにアームを取り付け、ドライバーの耳の位置で計測用マイクロホン(MI-1271)により録音した。

また、Sound Oneはすべてのユーザーに広く開放されており、月額使用料5500円で誰でも利用できる。60日間の無料体験プランも用意されていることから、試しに使ってみるという手もありそうだ。

なお、5月24〜26日にパシフィコ横浜で開催する「人とくるまのテクノロジー展」の小野測器ブース(小間番号289)においてSound Oneを実演展示する。プレゼンテーションも毎日3回実施されるので、ご興味のある方はぜひお運びいただきたい。

今回収録した音で「オーディオテスト」開催します
エンジン車3台/BEV3台で収録した各種録音データについて、MFiおよびmotor-fan.jpの視聴者の皆さまからのオーディオテストご参加を募ります。Sound Oneを試してみたい方、ぜひご試聴ご評価ください。集計期間は2023年6月15日(木)まで。集計結果はmotor-fan.jp/techおよびメールマガジンでURLを含めお知らせします。
*ご参加には会員登録が必要です
https://support.sound-one.net/MotorFanillustrated-vol200

株式会社Sound One
音のWebサービスを提供する株式会社Sound Oneは、計測機器の株式会社小野測器がデータ事業領域に進出することを目的として2022年8月に設立された。ポータルサイトではオーディオテストや音源のサンプルも利用できる。
https://sound-one.net/
お問い合わせ:support@sound-one.onosokki.co.jp

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