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PPEでアウディが使うバッテリーとは?
アウディQ6 e-tron(とハイパフォーマンス版のSQ6)は、ポルシェの新型マカンと同じ、VWグループのBEV専用の新プラットフォーム、PPE(Prmium Platform Electric)を使う。
あらゆる意味で新世代となるPPEでは、バッテリーも刷新された。どんなバッテリーでどんなテクノロジーが使われたか、テクニカルワークショップで取材した。
BEVにとって駆動用二次電池とは、ICE車にとっての「燃料タンク」とイコールではない。燃料タンク+エンジンといってもいいのがBEVのバッテリーだ。
PPEを使うQ6/SQ6は、ミディアムサイズのSUVだ。ボディサイズは
全長×全幅×全高:4771mm×1939mm×1648mm
ホイールベース:2899mm
車両重量は2325kgである。
搭載するバッテリーは、NMC(ニッケル/マンガン/コバルト)のリチウムイオンバッテリーだ。セルに含まれる比率は、ニッケル8:コバルト1:マンガン1である。セルは、CATLから供給を受ける。アッセンブリーはアウディ・インゴルシュタット工場で行なう。新たに専用の組立ラインを作った。VWグループの他の工場でサブアッシーされたものをインゴルシュタットで最終組立を行なう。
ちなみに、現在はCATL一社供給だが、マルチサプライヤー戦略に基づき、将来的には他社からも供給を受ける計画だ。
容量は100kWh(グロス、ネットは94.9kWh)。Q8 e-tron(100kWh 正味94.9kWh)の航続距離は625kmである。
100kWh Battery 電池容量:100kWh(gross)94.9kWh(net) アーキテクチャー:800V モジュール数:12 重量:約570kg セル・キャパシティ:152Ah セルタイプ:角形 バッテリータイプ:リチウムイオン
グロスと正味の差(5.1kWh分)について、担当エンジニアに尋ねると
「過剰な電力呼び出しによって劣化が早く進むので、残りの数%はユーザーに開放しません。同じような安全枠を下限でも設けています。ユーザーに対する表示が0%のときも実際には数%は残している」とのことだった。
これまでアウディが採用してきたバッテリーシステムと比較すると、Q6のバッテリーパックは、12個のモジュールで構成されている。車両縦方向に3列×横方向4列の12 モジュールだ。1モジュールの重量は約35kgである。
1モジュールのセル数は15個。つまり15×12=180個の角形セルを使う。ちなみにQ8 e-tronのバテリーは36モジュール(432セル)だった。
モジュール数を減らす利点がある。軽量化されるのはもちろん、ケーブルや高電圧コネクターの数も少なくて済む。ねじ接続も大幅に削減される。モジュール間の電気的接続が短くなり電力損失と重量が大幅に削減できる。新型バッテリー・システムの進化を数字にすると(アウディe-tronと比較すると)
セル単位でエネルギー量が+150%、エネルギー密度が+15%
モジュール単位でエネルギー量が+215%、エネルギー密度が+23%
バッテリーパック全体でエネルギー量が+5%、エネルギー密度が+30%
となっている。トータルで重量はマイナス15%、充電時間はマイナス30%となった。
800Vアーキテクチャーを採用する
Q6/SQ6は800Vアーキテクチャーを採用する。
800Vのメリットとして、充電スピードの速さがある。最大270kWの充電容量を持つため、急速充電ステーションでSOC10%→80%の充電がわずか21分で可能だ。とはいえ、現状270kWの充電ステーションは希だ。
そこで、Q6/SQ6では、アウディ初の「バンク充電」が可能となった。充電ステーションが400Vテクノロジーに対応している場合は、800Vのバッテリーは自動的に同電圧のふたつのバッテリーに分割され、最大135kWで並列充電ができる。充電状態に応じて、まずバッテリーの半分が均等化され、その後一系統で充電される。
Q8 e-tronは、バッテリーモジュールをふたつ抜いて83kWh版も追加される予定だ。こちらは、バッテリーの中央部の2つのモジュールを抜き取る。車両の前後重量配分を適正化するために、この位置のバッテリーを取り外すのだという。
バッテリーのライフ(寿命)は?
バッテリーの寿命(ライフ)について尋ねると
「SOHで評価した結果、通常の使い方で10万km後に90%を必ず超えている。もちろん、使用状況、環境状況にもよるけれど」ということだった。
SOH(ステート・オブ・ヘルス)とは、バッテリーの健全度や劣化状態を表す指標だ。 初期の満充電容量(Ah)を100%とした際の、劣化時の満充電容量(Ah)の割合を言う。
バッテリーに不具合があったら、モジュール交換ができるのか、あるいはセル単位で交換可能か尋ねてみた。
「もしセル単位の損傷があった場合、まずはモジュール全体を交換する。モジュールは、いったん車両から不具合で外されたあともセカンドライフとしての使い方がある。単体のセルの損傷があってうまくセル単位だけの交換でモジュールの性能が回復できたら、セカンドライフバッテリーとして定置用で使う。クルマで再度使うことはない。搭載するモジュールは元々の生産ラインから出荷してもののみに限られる」
ということだった。
バッテリー・クーリング
バッテリーの性能を長期に渡ってキープするのに重要なのは、熱管理(サーマルマネジメント)だ。セルの温度は15℃~45℃なら問題ない。
セル自体は、3列4系統、Uフローで冷やす。冷却の狙いは、クーリングプレートの範囲でできるだけ均一に熱分布を確保すること。バッテリー性能を左右するのは、もっとも高温になるセルで、これによってバッテリー全体の性能が決まるという。今回の新バッテリーは、セルとセルの間の温度差は、最大5℃に抑えたという。
バッテリーハウジングに組み込まれた冷却プレートは、均質な熱伝達を保証し、その結果、バッテリー・ハウジングの重要を大幅に削減する。熱間成形スチール製の保護サイドスカートは、安定性を高めるためにバッテリーに取り付けられるのではなく、ボディに取り付けられている。もうひとつの新機能は、ファイバーコンポジット素材のアンダーボディプロテクションだ。これもリチウムイオンバッテリーを損傷から守るだけでなく、断熱性を高めている。
PPEのために開発されたバッテリー・マネジメント・コントローラー(BMCe)は、12個のセル・モジュールコントローラー(CMC)から送られてくるモジュール温度やセル電圧などのデータから最適なバッテリー性能のための温度管理を行なう。温度が高ければ冷却を、低ければ加熱するのだ。
新世代BEVにとって、リチウムイオンバッテリーの重要度は依然として高い。が、セル単体というよりも、モジュール、パックにした際のサーマルマネジメントなどの”マネジメントのテクノロジー”が勝負を決めるようになってきたことを強く感じさせられた。800Vアーキテクチャーの普及が進めば、充電性能などBEVのネックとなっていた要素はかなり小さくなっていくだろう。ただし、当面はPPEを使う「プレミアムBEV」の世界に限られるだろう。テクノロジーは、プレミアムクラスから採用されていく。PPE/Q6 e-tronの技術が一般化したとき、BEV全体が次のステップに進むはずだ。