F33A-FTVのアフターアイドル、その後——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第71弾

新型となった300系ランドクルーザーに搭載されるディーゼルエンジンは、排気系をVバンクの内側に入れる“ホットインサイド”というレイアウトを採用している、という話を第70弾に書いた。その際「熱対策としてアフターアイドルを行うように取扱説明書に書いてあるのだが、なぜ自動化しなかったのかを“新型ランドクルーザーのすべて”の取材の際に聞いてみる」という話で筆を終えている。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto) FIGURE:TOYOTA
前回はこちら「F33A-FTVのアフターアイドル——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第70弾」

 その後、同取材で首尾良く回答をいただくことができたのだが、“新型ランドクルーザーのすべて”では、誌幅の関係でその件について触れる余裕がなくなってしまったので、この場を借りて紹介したい。

 結論から言ってしまうと「推奨ではあるが必須ではなく、やらなかったからといって故障するわけではない」とのことだ。F33A-FTVエンジンには、水冷式のインタークーラーが採用されており、タービンシャフトの冷却は、これを用いて行っている。この冷却回路はエンジン本体系からは独立しており、ポンプは電動式で、ラジエータも専用。エンジン停止後も、必要に応じて水を循環させているため、アフターアイドルは必須ではない、ということなのだ。

 ならばなぜ、わざわざ取扱説明書に書いたのかといえば、それはトヨタが信頼性や安全性に関する新技術には極めて慎重だから。ホットインサイドVは、トヨタの量産車としては初めての技術。設計・実験で万全を期しても、思いもかけない理由でトラブルが発生する可能性はゼロではないから、「念のため書いておいた」ということらしい。

 念のためとはいえ、100km/h走行後に1分のアフターアイドルは面倒な気もするが、現実的には高速を降りる際には減速するし、そのまま市街地走行に移れば、クールダウンは十分にできる。パーキングエリアで休憩する場合でも、2〜3km手前で走行車線に移って80km/h巡航してくれば、駐車場所を探している間にターボの温度も下がるはず。駐車枠に収めてからパーキングブレーキをかけ、シートベルトとサングラスを外すだけでも10秒ぐらいは経過するので、軽くストレッチしてからエンジンを止めれば、20秒のアフターアイドルは完了するのではないか。

 注意する必要があるとすれば、急な登坂路を連続走行した後だ。たとえば箱根周辺は、登り切って展望が開けたところに駐車場があるケースがけっこうある。そうした場所を走行した際には、意識してアフターアイドルを励行したほうが、数十万kmをトラブルなく走れる可能性は高くなるだろう。

 ちなみにガソリンエンジン搭載車も「山岳ドライブウェイなどの急な登坂路走行およびレース場などの100km/h以上の連続走行」の後には、約1分のアフターアイドルを推奨しているが、これはメディア向けに書かれているような気がしてきた(笑)。

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…