富士通、Inria:異常要因を特定する世界初の時系列AI技術を開発

富士通とフランスの国立研究機関・Inriaは、時系列データにおいて、異常な状態と判定した要因を特定するAI技術を開発した。

 現在、様々な研究機関や企業で説明可能なAIに関する技術の研究開発が行われている。時系列データについては、AIの判定要因が多種多様でそれぞれの要因が複雑に関係しているため、異常と判定されたデータを見るだけでは、要因の特定が難しく、実際に起きた事象と照らし合わせた原因究明やそこからさらに新たな知見の発見につなげることが困難だった。

 富士通とInriaは、AIによる時系列データの異常判定において、その異常の要因を特定できるAI技術を開発した。

  1. 富士通が開発した時系列データを特徴ごとに分類して異常検知する解析技術を用いて、AIにより異常と判定されたデータから、異常判定の要因となった特徴と、そうでない特徴を平面(TDA空間)上にマッピング。
  2. その平面上で、要因となった特徴の点データを、要因でない特徴の点データ群に近づける変換を行う。
  3. 変換後の点データ群の特性に基づいて、時系列データを復元し、正常と判定されるデータを生成する。

 これにより、正常と異常の時系列データの形状を比較でき、ユーザーは異常の原因究明を視覚的に行うことができる。

TDAをベースとした異常を特徴づける要因を特定する技術

 外部研究機関の協力を得て、脳波の実データを活用注5したせん妄注6検出に本技術を適用したところ、時系列データの波形の特徴がせん妄状態に現れるSlowing現象注7と一致することが確認できた。これらの結果から、時系列データの読影注8を通じて病気の原因を推定する際の参考にすることが期待できる。また、これまで困難だった病気の予兆判断や予防的な治療法の発見、解明されていない病態のメカニズム解明への応用など、医学的発展につながることが期待される。

せん妄状態の脳波データ(青線)と本技術で生成した正常と判定される脳波データ(赤線)

スタンフォード大学 医学部精神科 准教授 篠崎元氏のコメント
「一般的に、乱雑な信号の性質をもつ脳波は、多くの疾患を定量的かつ正確に判定するために利用することは困難とされてきました。近年、AIを代表とするデータ処理技術の進歩により、微細な脳波の特徴的な変化を把握することが可能となってきました。こうした進歩は、様々な疾患を診断するだけでなく、治療への反応性や発症メカニズムを解明する上で重要になります。今回、富士通とInriaが開発した技術により、せん妄で特徴的な脳波を捉えることができました。この検証を通じて、今後はせん妄以外の疾患についても、より正確な診断や治療の効果判定、病態の解明などにつながる可能性を感じており、さらなる技術改良と実用化に期待しています」

 富士通とInriaは、今回共同開発した技術について、企業の業務現場や研究機関の実験などでの活用を促し、技術検証していく。また、本技術の改良を重ね、富士通は、2021年度中にAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」の一つとして実用化し、幅広い分野への展開を目指す。

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