CVTにネガティブなイメージを抱く人は非常に多い。ネガの最大要因は「ラバーバンドフィール」という単語。加速時にエンジン回転のみが先行して高まり、その後車速が付いてくるというご存じの現象である。これを消すためのとっておきの処方が、大トルクのパワーソースと組み合わせること。エンジンから瞬時に必要トルクが得られないと、瞬間的に軸出力を高めるために減速比を大きくするとともにエンジンの回転を高めているのが発生のメカニズムなのだから、その原因を解消してしまえばいい。ターボエンジンが主な解決手段だったが、ここへきてモーターがその役目を担う提案が続いている。しかも、CVTを敬遠してきた欧州勢から。
モーターは回転し始めから最大トルクを出す出力特性とする製品が多く、自動車用駆動装置としては理想型のひとつとされている。そのいっぽうで高回転側では効率が落ち、特に超高速域走行を求められる欧州では有段変速機を組み合わせる市販車も現れている。ボッシュの目論見は、無段変速比を得られるCVTによって、高効率運転領域をピンポイントで狙い続けるとともに、速度レンジを大幅に広げることだ。
有段変速機は固定ギヤ比のため、「ピンポイントで狙い続ける」ことができない。一方でCVTは重く、有段変速機は軽くて小さい。どちらにも分があり、いずれも有利な点がある。個人的にはバリエータユニットの伝達効率の悪さが足を引っ張るのではないかと思っていたので、果たしてボッシュの狙いは正しいのかを訊いてみたところ「レシオカバレッジを大きくせずに済む設計でバリエータが無理をしていないため、効率が大きく劣ることはない」とのこと。確かに滑りが生じるのは大減速比状態であり、モーターと組み合わせることによるCVT側の恩恵でもある。スマートな組み合わせだ。
上のユニットイラストはワンパッケージで仕立てた想定。今回試乗した試作車は、VWの市販車であるe-Golfの減速機構に替えてCVTを載せた仕様で、CVT4EVの効果を確かめた。原動機であるEAZ型PM同期モーターはそのままに、制御でトルク/出力を絞った仕立て(100kW/290Nmから出力不明/203Nm)としていた。3割トルクを落としても、ストック同等以上のパフォーマンスを発揮できるという意思表示である。
CVTで変速レシオを与え、モーターの効率とパフォーマンスを高めるとすると、低速発進側で広げるか/高速巡航側で伸びを持たせるかのいずれかが考えられる。個人的には電気自動車:EVの美点は発進停止を繰り返す状況にこそあると思っていて、たとえば[ 大きなモーター ▶︎ 小さなモーター+CVT ]に替え、しかし変速レンジをロー側に振ることで高出力モーターに負けず劣らずの発進トルクを生み出し、速度が高まってきてもCVTの変速によってモーターの回転数(=ノイズ)は上昇しない——みたいな制御が理想である。
一方、高速側で考えてみる。個人的に、市販EVのいずれも高速巡航となると「ふつうのクルマ」に成り下がる印象が強く、それはモーターの出力特性よりも振動騒音の視点からそう感じることが多い。アウトバーンで200km/h以上のパフォーマンスを発揮することを目的とするなら、CVTのハイレンジレシオを与えてそのような性格とすることは可能だと思われるが(実際、P社のT車は二段変速によってこれを創出している)、これこそ「ドイツガラパゴス」の典型と思われる。
モーターファン・イラストレーテッド Vol.182:「EVの作り方」
モーターファン・イラストレーテッド Vol.173:「CVTの逆襲」