日産GT-R FIA GT1が載せるV8-5.6ℓエンジン[VK56][内燃機関超基礎講座]

FIA GT1世界選手権参戦のためにNISMOが開発したGT-R。エンジンフードの下には増強されたV8エンジンが収まる。
TEXT:世良耕太(SERA Kota) PHOTO:桜井淳雄/山上博也
*本記事は2010年5月に執筆したものです

世界選手権制覇を目指し、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナルが開発したのがGT-R FIA GT1仕様だ。ボディ骨格はベース車両を流用、サスペンション形式は基本的に踏襲と、コスト抑制の観点からシャシー系の改造範囲は非常に狭く制限されており、ベース車両のイメージを色濃く残す。一方で、連続する12カ月間に1000台以上生産された市販車両を用いる場合、同ブランドで連続する12カ月以上に5000基以上生産されたエンジンに換装することが可能。この条件を満たすユニットとしてSUV/トラック用に開発したVK56DEエンジンをレーシングエンジンに仕立てた。09年までスーパーGTに搭載していたのと同系列のユニットだ。点火順序を変えることはできず、結果的に不等間隔爆発となった。

石噛みを防止するため、補機駆動(右バンク側にスカベンジポンプ、左バンク側にオルタネーター)のベルトトレーン部分に保護カバーを設置。車載状態では上方に引き抜くことでメンテナンスが可能。前面に突き出しているのはパワーステアリング用オイルポンプ。左右非対称レイアウトのエキゾーストマニフォールドが急角度で後方に折れているのは、サイドメンバーを避けるため。

VKシリーズはもともと4.5ℓ(ボア93mm)からスタートしたが、信頼性の確保や水回りに余裕を持たせるため、ボアピッチを広く設計(112mm)してあった。だから、5.6ℓ(ボア98mm)を高出力化してもブロック、ヘッドの補強は不要だったという。リストリクターは32.8mm×2で、29.1mm×2のスーパーGTより大きい。エキマニはインコネル製。右バンクは1番と3番、5番と7番を集合。左バンクは隣り合うポートを集合させている。


年間10戦に対し、1台あたり年間2基の使用量制限が課される。ざっと計算して5000kmの耐久性が必要。最高回転数は7500rpm付近。吸気リストリクターの位置から、エンジンが後方に搭載されていることがわかる。

アルミ鋳物シリンダーブロック+アルミ鋳物ヘッドの組み合わせ。マグネシウムの使用はレギュレーションで禁止。GT1車両を企画する時期と市場投入のタイミングが合わず、連続可変リフト量制御(VVEL)+直噴を投入することはできなかった。

エアフィルターを外し、エアボックストレイを覗く。緻密に設計〜製造されたカーボンファイバー製のファンネルが現れる。隠れた工芸品。
口径32.8mm×2の吸気リストリクターから取り入れた空気はまず、エアフィルターを通過する。写真のフィルターは使用済みの状態。
バタフライ式スロットルの下流に挿入するインジェクターは、ベース車両と共通の高容量タイプ。ただし噴射圧は500kPaに高めている。
当初は高出力化を狙ってチタン製コンロッドを開発していたが、2010年のレギュレーションが確定するに及んで禁止になり、鋳鉄製を使用。
吸気バルブ側の深いリセスが目を引く3本リングのピストン。カムのプロファイルは変更可能。特殊コーティングが施されたスカートは短い。

FIA GT1:カーボンコンポジット製ラジエーターコアサポートが、ベース車両との色濃い関係を感じさせる。その後ろにある大きな開口部は、熱交換機冷却エアの排出ダクト。熱交換機は低い位置に前傾姿勢でレイアウトされている。

ベース車両:左右バンク完全独立の吸排気系を採用。エンジンの直前にラジエーターを置き、その前にコンデンサー。最前列にインタークーラーとオイルクーラーを置く。フロントデフをまたぐ設計のため、エンジン高を下げるにも限界がある。
Specifications : VK56 for FIA GT1
・ エンジンタイプ:V型8気筒DOHC32V
・ 型式:VK56DE
・ バンク角:90°
・ 排気量:5552cc
・ ボア×ストローク:98.0mm×92.0mm
・ 圧縮比:12前後
・ カム駆動:チェーン
・ バルブ駆動:スプリング
・ シリンダーブロック材質:アルミ鋳物
・ 最高出力:600ps(規定)
・ 最大トルク:650Nm以上
・ 点火順序:1-8-7-3-6-5-4-2

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…