ホンダの新開発V6ターボエンジン 3.0ℓで380ps/480Nm!

これは期待大! ホンダの新開発V6ターボ登場!「世界最小・軽量のツインスクロールV6ターボ」アキュラTLXに搭載

新型V6ターボエンジンは、派生エンジンではなく新開発だ。開発は日本の研究部門(栃木)とアメリカの開発センター(Honda North American Auto Develop Center)が密に連携をとってあたったという。
ホンダは北米で展開する高級ブランド『アキュラ』のセダン『TLX』に高性能バージョンの『タイプS』を追加した。注目は新エンジンだ。新開発の3.0ℓV6シングルターボで、これを横置きに搭載し、10速ATと組み合わせる。駆動方式はAWDで、リヤにはNSX譲りの左右駆動力配分システム、SH-AWDを搭載する。どんなエンジンか?
TEXT◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎Honda

TLXタイプSの米国発売に合わせて公開された文字情報と動画から、「タイプSターボV6」の技術的なポイントを拾い上げていこう。ホンダにはレジェンドなどが搭載するJ系の3.5ℓ・V6自然吸気と、NSX専用エンジンのJNC型、3.5ℓV6ツインターボエンジンがある。タイプSターボV6はJ系やJNCの派生ではなく、新開発だ。

新開発エンジンのVバンクの角度は60度。ちなみにNSX搭載のJNC型は75度だ。

ただし、どちらかというとJ系に近く、ボアピッチ(隣り合うボアの中心間の距離)はJ系と共通。ボア径は異なっており、レジェンドのJNB型が89.0mmなのに対し、タイプSターボV6は86.0mmだ。ホンダのエンジンはロングストロークが多く、JNBも89.0×93.0mmの(控え目ではあるけれども)ロングストロークとなっている。いっぽう、タイプSターボV6は86.0×86.0mmのスクエアだ。60度のVバンク角も共通している(NSXのJNC型は75度)。

TypeSターボV6
 エンジン形式:60度V型6気筒DOHCターボ
 エンジン型式:
 排気量:2997cc
 ボア×ストローク:86.0mm×86.0mm
 圧縮比:9.8
 最高出力:360ps(265kW)/5500rpm
 最大トルク:480Nm/1400-5000rpm
 バルブ駆動:ローラーロッカー
エンジンはTLXのフロントに横置きされる。

タイプSターボV6の最高出力は355hp/5500rpm、最大トルクは354lb-ft/1400-5000rpmとなっている。日本でなじみの深い単位に換算すると、最高出力は265kW(360ps)/5500rpm、最大トルクは480Nm/1400-5000rpmとなる。排気量の影響を取り除いて純粋にエンジンの力を示すBMEP(正味平均有効圧)を割り出してみると、20.0barになる。NSXの3.5ℓ・V6ツインターボは19.8barなので、ほぼ同等。20.0barという数字自体はターボエンジンとしてはごく一般的で、無理して出力を絞り出しているわけではないと想像できる。容積比(圧縮比)は9.8だ。

注目すべきはスポーツエンジンなのに1400rpmという低い回転数で最大トルクを発生していることで、「可能な限り低い回転数で最大トルクを発生させるのが目標だった」旨の説明を行なっている。開発は日本の研究部門(栃木)とアメリカの開発センター(Honda North American Auto Develop Center)が密に連携をとってあたったという。NSXやシビック・タイプRのエンジン開発で培ったノウハウを活用しているのも特徴。生産はオハイオ州のアナ・エンジン工場で行なう。

ツインスクロールターボを採用。フロント側の排気は外側のスクロールを通ってタービンホイールに向かい、リヤ側の排気は内側のスクロールを通る。

レスポンスの良さも開発にあたって重要視した要素のひとつで、ツインスクロールターボを採用したのはそのためだ。排気干渉を抑制する技術で、フロント側の排気は外側のスクロールを通ってタービンホイールに向かい、リヤ側の排気は内側のスクロールを通る。ウェイストゲートに電動式を採用したのは、過給圧を精度高く制御するためだ。

TLXの車両価格はTLX TypeSのMSRP(メーカー希望小売価格)5万2300ドル(約572万円)~である。

エキゾーストマニフォールドをシリンダーヘッドに内蔵するのはホンダのお家芸ともいえる。各バンク3-1の集合をシリンダーヘッドの中で行ない、1本にまとめた状態でフロント側のエキマニとリヤ側のエキマニを10速ATの上にあるターボチャージャーのツインスクロールタービンに導いている。インタークーラーは空冷式で、冷却風が効率良くあたりやすいバンパー下端の一等地に配置されている。

できるだけコンパクトに設計するのもオールアルミ製タイプSターボV6のコンセプトで、全長はJ系3.5ℓ・V6自然吸気エンジンより8mm短く、幅は同等だという。アキュラによればタイプSターボV6は、「世界で最も小さく、軽量な、ツインスクロールターボのV6」ということになる。このエンジンは「低さ」にもこだわっており、個別のカムベアリングキャップの代わりに、カムカバー一体のキャップを採用した。これにより、シリンダーヘッドを薄くすると同時に、部品点数の低減も実現している。

2021 TLX TYPE S

バリアブル・シリンダー・マネジメント(VCM)と呼ぶ気筒休止システムを搭載しているのも、タイプSターボV6の特徴だ。運転状況に応じて3気筒を休止し、燃費向上を図る。タイプSターボV6はJ系V6エンジンのように3ステージVTECで気筒休止を実現するのではなく、バルブリフターに内蔵したスライドピンを油圧によって抜き挿しすることにより、バルブの休止と作動を制御する。2輪で適用されているHYPER VTECと同様の構造だ(ただし、2輪版と異なり、バルブ駆動はダイレクトではなくロッカーアーム式)。これも、シリンダーヘッドの高さを抑えるためである。

クランクシャフトは剛性向上のため6ボルトのメインキャップとし、材料はNSXのV6と同様の高強度鍛造スチール材を使用。コンロッドもやはり、高強度鍛造スチール材を用いている。ピストンのトップリングに耐摩耗性とシール性に優れたニレジスト鋳鉄を用いている点も、アキュラはタイプSターボV6の特徴に挙げている。

「エモーショナルなエンジンパフォーマンス」を目指すため、低回転から太いトルクをレスポンス良く発生させるのが、タイプSターボV6の開発の狙い。エモーショナルなパフォーマンスを音の面でサポートするのが、NSXで採用実績のあるアクティブエキゾーストシステムだ。マフラーに内蔵するバタフライバルブの開閉とモード設定を連動させ、エンジン始動時やアイドル、エンジン回転の上昇にともなうサウンドを切り換えることができる。

タイプSターボV6はTLSタイプSにつづき、2022年モデルのMDXタイプSにも搭載されることが決まっている。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…