「CR-Xのツインエンジン仕様だと!?」老舗カー雑誌の企画から生まれた変態マシンの今

カー・アンド・ドライバー誌の企画からプロジェクトがスタート!

102ps×2のパンチ力で最高速237km/hを実現!

アメリカで1955年に創刊された老舗の自動車雑誌「カー・アンド・ドライバー」。昔から計測機器を使って加速性能やGフォース、燃費、車内の騒音レベルなどを定量評価してきた同誌だが、まだ社会全体がユルかった時代には、編集部がオリジナルで製作した奇抜な車両を新車と並べてテストするという実験的な取り組みも行なっていた。

今回紹介するのは、その生き証人であるツインエンジン仕様のホンダCR-X(バラードスポーツCR-X)。現在のオーナーであるランディ・カールソンの協力を得て、取材することができた。

ランディが所有する当時のレポート記事を紐解くと、プロジェクトの発端は1984年の編集会議。議題は当時最もホイールベースが短く、シボレー・スプリントに次いで2番目に軽い市販車だったCR-Xの馬力を、どうやったら倍増させられるか。ターボ化やV8スワップなどのアイディアも出される中、最終的にボスの決裁を得たのがツインエンジン化だった。

北米ホンダの協力を取り付け、部品を手頃な値段で入手したという逸話も80年代らしいが、編集部が車両の製作を依頼した先がボンネビルの活躍で知られるロータリーチューナー“レーシングビート”だったというのも見逃せない。

最高速チャレンジのプロジェクトを一旦脇に置いて仕事に取り掛かったレーシングビートは、まずリヤにエンジンを搭載するためのフレームを9本の鋼管で製作。本来のリヤサスは車軸式だが、その一切合切をフロントのストラット+トーションビームの構成部品に置き換え、クロスメンバー、スタビ、ホイールハブ、ディスクブレーキなどをリヤにも備えていった。

パワートレインは、元々フロントに搭載されていたのと同じ、1.5LのEW1型の直4エンジンと3速ATをリヤにもマウント。アクセルペダルからリヤのスロットルとトランスミッションに伸びる2又のケーブルを追加し、適切なシフトポイントを選択する信号を提供。また、シフターと前後トランスミッションを繋ぐケーブルも加え、シフトレバーの動きに前後とも反応するようにした。

一方で、前後エンジンの動作を機械的または電子的に同期させる装置は一切付いていない。当時の編集部は「タイヤがスリップするなどして、たまに一方のエンジンが少し多く回ることもあるが、現実的な悪影響はなく、そもそも同期させる必要がない」と結論付けている。

実はプロジェクトには第二章が存在し、一度完成した4ヶ月後には、前後パワートレインをアコードSE-iに搭載された1.8LのES3型の直4と4速ATに換装。電子制御インジェクションのPGM-FIを動かすコンピューターと配線を追加した他、吸排気系、水回り、エンジンマウントなどが作り直された。

便宜上、フェイズ1とフェイズ2と表現すると、いずれも良好なテスト結果を得たが、特筆すべきはフェイズ2の中間加速。高速でトップギヤからキックダウンし、48〜80km/h加速を3.4秒、80〜113km/h加速を4.7秒でこなし、それぞれポルシェ928SとカマロIROC-Zの記録を凌駕!最高速度はレブリミットの6300rpmで230km/h、レブリミットを超えた6500rpmで237km/hを記録している。

当初は前後エンジンを順番に始動させるためのトグルスイッチが設けられていたそうだが、現在はキーをひねればどちらか一方、もしくは両方同時に始動。片方しかかからなければ、もう一度キーをひねれば良く、前後どちらかの二駆状態でも走行可能だ。

ホイールはOZが北米で展開するMSWというブランドのタイプ5を装着。フェイズ1では6.0J×14インチと195/60VR14の組み合わせだったが、フェイズ2では6.5J×15インチと195/50VR15に変更。当時はBFグッドリッチのCompT/Aというタイヤが使用されていた。前後のショックアブソーバーは、KONIが特注に応じた複筒式を採用。

スタビはフェイズ2でCR-X用(16φ)からシビックシャトル用(20φ)に交換してロール剛性を高めた。フェイズ1ではリヤブレーキがすぐロックしたため、フェイズ2ではKelsey-Hayes製のブレーキ圧調整バルブの調整幅を広げて対策済みだ。

インパネやシートは純正のままだが、フェイズ2でインジェクションに必要な警告灯と速度センサーが備わるCR-X Siの純正メーターを装備。シフターはアコードのものに交換されている。

センターコンソールにはオートメーター製のタコメーター、水温計、油圧計、油温計を各2個ずつ装備。北米仕様のCR-Xは元々2シーターの設定で、前席後方にリヤエンジンを覆い隠すカバーを親切。後方に申し訳程度の荷室も用意されている。運転席の後ろにエキマニがあるため、走行中は非常に暑い。

フェイズ2で無限のエアロボディキットとリヤスポイラーを装着。CR-Xに「2乗」の指数記号が付くのは、ツインエンジンを示すプロジェクトネームだ。フロント用のトーションビームがリヤにも備わる結果、その末端がリヤバンパーの下から突き出る格好となるが、それを隠すように左右2本出しのワンオフエキゾーストが設けられている。車両重量はフェイズ1が1111kg、フェイズ2が1224kgとなる。

いい大人たちがバカバカしい企画に真剣に取り組み、実際に唯一無二の軽量パッケージで高級スポーツカーを蹴散らすパンチ力を生み出したのが、ツインエンジンCR-Xの顛末。その時代の寛容さと人々の熱気に、羨望を感じずにはいられない。

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PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI

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