12インチスポーツ愛好家へ カワサキからの回答

1980年代後半から1990年代にかけては、50㏄クラスのミッション車には前後12インチタイヤを装備した水冷2スト単気筒スポーツ車が存在したのはご存知の方も多いと思う。

ホンダNSR50、ヤマハTZM50がその代表格で、サーキットでは12インチ車クラスのレースが頻繁に開催されていた。さらに言うと国内では世界グランプリに通用するライダーがこのレースで育つなど、当時二輪スポーツ界の裾野の一端を担っていたことは間違いない。

そんな、12インチスポーツへのカワサキ流の回答が90年に登場したKSR‐1(以下、KSR)だ。


日本国内の公道走行可能なモデルにおいて、カワサキ50㏄クラス初の水冷エンジンを搭載したKSRは、1986年に登場した同社のスーパーバイカーズ・ミニ(今のモタードレースを当時はスーパーバイカーズと呼んだ)、KS‐1の後継に当たるモデルだ(80㏄版のKSR‐2もあり)。

足周りには倒立フロントフォークや前後ディスクブレーキを装備するなど、前作のKS‐1に対し走りの性能は各段にアップ。カワサキはWGPイメージのフルカウルスポーツではなく、モタードモデルを範にした12インチミニで50㏄ミッション界に勝負をかけたというわけだ。 またサーキットでは、KSRのワンメイクレース「KAZE CUP」も行われるなど、スポーツ志向ユーザーの獲得も積極的だった。


ディオやジョグのようなスクーターを持たないカワサキにとって、KSR‐1は国内ユーザーにとっての「初めてのカワサキ」になるべきエントリーモデルである。だが、扱いやすさを前面に押し出そうとせず、先代モデルに対して走りの性能を各段にアップさせてきているところが実に同社らしいと言える。

エントリーモデルでも、すべてのカワサキ車に通じる走りの楽しさを追求してしまうのは、性(さが)であり、これは二輪部門の出自を見ればわかる(後述)。

走りの楽しさがなければカワサキにあらず

見た目は乗りやすそうでファニーだが、走らせるとスポーツ性が高いというキャラクターは、マニアにとってはたまらないものの、市場の反応としては「中途半端」な感じだったのは否めない。

当時の感覚としては12インチロードといえばフルカウルスポーツであり、オフ車ルックのモタードスタイルで峠に来るようなヤツは結構なクセ者だった。筆者の感覚では大型車持ちのセカンドバイクとして選ばれていた印象が強いものの、ライバルは利便性の高いスクーター勢。残念ながら人気モデルとはならなかった。


さて実際の走りの印象はというと、減速比が少々ロングな気がするものの、パワーバンドに入った時の2スト特有の爽快感。そのパワーバンドをキープしながら走る小排気量車ならではのミッション操作の楽しさがある。また長時間乗っても疲れの少ない乗り心地としっかりした旋回性を併せ持っていて、ステップアップを前提としたエントリーモデルというよりも、「これ1台でいいんじゃない?」と思わせるファーストバイク的要素がある。

結果的には初心者、スポーツ走行を楽しむ若者どちらにもいまいち訴求しきれなかったモデルではあったが、カワサキらしい最後の50㏄2ストスポーツとして、珍車ではなく名車として記憶されてもいい一台である。


最後に少々堅苦しい歴史をひとつ。戦後に始まったカワサキの二輪事業において、その設計は1937年設立の川崎航空機工業の一部の技術者たちが担っていた。

開発者は最高速において無類を誇った戦闘機・飛燕や複座戦闘機・屠龍を開発したヒコーキ野郎だった。

大空を自在に舞う爽快感を知っていた彼らが生み出すバイクは、空を飛んでしまいそうな加速感や当時世界一の最高速を持っていたり、大型なのにひらひらと舞うような軽快な操縦性を実現していた。その開発姿勢は現在まで脈々と受け継がれており、これをカワサキは「究極のエキサイトメント」と呼んでいる。

つまり、いかなるモデルであっても、大空を自在に駆けるようなカワサキ流ライディングファンが内包されていなければカワサキ車にあらず、というわけなのだ。

1990年登場

カワサキ

KSR-1

SPECIFICATIONS

■エンジン:水冷2スト単気筒49㏄ 
■最高出力:7.2㎰ /8000rpm 
■重量:77㎏(乾燥) 
■当時価格:23万3000円

著者紹介:佐藤大介  

ギョーカイ歴も長くマニアックな小排気量車が大好物。通勤はTMAX、週末のツーリングはヴェクスター150という、間違った? 使い方も得意だ。

※この記事は月刊モトチャンプ2023年3月号を基に加筆修正を行っています