BMW ALPINA D3 S

ワークスの代役としてサーキットに

BMWアルピナ D3 Sの室内。シリアルナンバーが刻まれたプレート。
BMWアルピナ D3 Sの室内。シリアルナンバーが刻まれたプレート。

BMWをベースとした独自のクルマを製造・販売していたアルピナは、2025年いっぱいをもって事業を終了。ブランドの商標権をBMWに譲渡した。1979年の正規輸入スタート以来、45年以上にわたって“通”のカーマニアに支持されてきたアルピナの歴史は、いったん幕を閉じることになる。

アルピナの歴史は、創業者であるブルカルト・ボーフェンジーペン氏が手がけた1960年代初頭に、「BMW 1500」(通称ノイエクラッセ)のチューニングでスタートした。そのチューニングキットに使われたのが、当時のボーフェンジーペン家の家業だったタイプライターと同じ“アルピナ”の名だった。アルピナのキットは性能だけでなく信頼性もすぐに評判となり、BMWも装着車のメーカー保証を認めるなどの後押しした。その成功を確信したボーフェンジーペン氏は、1965年にミュンヘン近郊のブッフローエに「アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン合弁会社」を設立して、事業を本格化する。

さらに、1968年からツーリングカーレースに参戦したアルピナは、ときに一時撤退したBMWワークスの代役として、サーキットにその名をとどろかせた。1977年にも欧州選手権のタイトルを獲得したアルピナだったが、翌1978年にモータースポーツ活動を停止、同時にチューニングパーツの製造販売からも手を引く。

さらに高まった日本のアルピナ人気

BMWアルピナ D3 S
BMWアルピナ D3 S

それはアルピナが次のステップに歩を進めるためだった。同年秋にアルピナはBMWをベースとした市販車を発売。1983年にはドイツ自動車登録局から正式な認定を取得したアルピナは、正真正銘、独立した自動車メーカーとなった。ちなみに1980年代後半にドイツツーリングカー選手権に復帰するも、市販車の需要増大を理由に再び撤退している。

アルピナが市販車製造に乗り出した翌年の1979年に日本での正規輸入がはじまったのは冒頭のとおりで、日本のファンは、アルピナの歴史をほぼ余すところなく目撃してきたというわけだ。アルピナの世界販売は年間1700〜2000台で推移してきたが、このうち日本での販売は年間300〜400台で、累計販売台数は約8000台。これはアルピナにとって本国のドイツ、米国に続く世界3番目の規模となる。

とくにアルピナブランドの譲渡が正式発表された2022年3月以降は、日本でのアルピナ人気はさらに高まったそうで、日本の輸入代理店であるニコルオートモビルズもできるだけ多くの台数を確保すべく動いたようだ。実際、伝統のブッフローエ産アルピナの生産は昨2025年をもって終了しているが、最終記念モデルであるガソリンの「B4 GT」と、今回紹介するディーゼルの「D3 S」は、今も若干数の新車の国内在庫があるという。

今や貴重な6気筒ディーゼル

BMWアルピナ D3 Sの3.0リッター直6ツインターボディーゼル。
BMWアルピナ D3 Sの3.0リッター直6ツインターボディーゼル。

D3 Sは車名から想像されるとおり、ディーゼルエンジンを搭載するが、それが3.0リッターストレートシックスであることに注目したい。BMWでは現行の「3シリーズ」あるいは「4シリーズ」もっといえば「5シリーズ」でも、6気筒ディーゼル搭載車は正規輸入されていないので、D3 Sはこの点だけでも貴重な存在といっていい。

ただ、それ以上に感銘を受けるのは、そのドライブフィールである。最高出力や最大トルクなどのピーク性能だけだと、例えば「X5」が搭載するエンジンと大きな差はないのだが、制御プログラムは年単位の開発期間を経て独自チューニングされたもので、それこそ右足指のわずかな力加減にも反応するリニアリティは“アルピナマジック”というほかない。また、アルピナのエンジンは吸気や冷却系が独自に強化されており、273km/hの最高速度は“巡航”できることが保証される速度なのだ。

職人技というべき繊細な仕事

BMWアルピナ D3 S
BMWアルピナ D3 S

シャシーの味わいも、まさにアルピナマジック。アルピナ専用の“コンフォートプラス”モードを選ぶと、30扁平タイヤとは思えないソフトな路面タッチとしなやかな乗り心地ながら、ステアリングは俊敏……という、他車ではあまり経験したことのない感覚だ。聞けば、タイヤ&ホイールやボディがアルピナ専用に強化されるほか、実際には、電子制御ダンパーの可変レートの上下幅を広げて入力に対する柔軟性を高めているという。

また、専用のタイヤやボディ補強にしても、その内容は先にレポートしたB4 GTと微妙に違う。タイヤはグランクーペとセダンというボディスタイルの違いに合わせて、D3 SはB4 GTのそれより少しだけ細い設定となっている。さらに、フロントストラットトップとコアサポートを結合する補強部材にしても、B4 GTを含むガソリンではゴツいアルミダイキャスト製なのに対して、D3 Sのそれはあえて細めのロッドとなっている。こうしたまさに職人技というべき繊細な仕事が、アルピナマジックの真骨頂ということだ。

繰り返しになるが、そんな伝統的アルピナ最後のD3 SとB4 GTの新車がまだわずかに在庫が残っている。とはいえ、その終わりも刻々と近づいているわけで、アルピナに憧れがある好事家はとにかく急いだほうがいい。

PHOTO/平野陽(Akio HIRANO)

SPECIFICATIONS

BMWアルピナ D3 S

ボディサイズ:全長4725×全幅1825×全高1440mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:1910kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボディーゼル
総排気量:2992cc
エンジン最高出力:261kW(355PS)/4000〜4200rpm
エンジン最大トルク:730Nm(74.5kgm)/1750〜2750rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35ZR19 後265/35ZR19
車両本体価格:1370万円