ホンダ・NX400 Eクラッチ……1,111,000円

400Xという静かな実力車

 2013年に初めて400Xが登場し、NC700Xの弟分のような、普通自動二輪免許で乗れるアドベンチャーマシンは広く歓迎された。当初はNC同様にフロントホイールが17インチで、アップライトで長距離もこなすアドベンチャースタイルながら全体的に小柄でライダーを選ばないのも魅力だった。
 小変更を繰り返し、フロント19インチとなったのは2019年のこと。インチアップにより堂々としたイメージへと一変し、そして2022年には倒立フォークやダブルディスクの採用などさらに熟成。ライバルの多くない400㏄アドベンチャーモデルとして孤高の地位を獲得していたといえるだろう。
 その完熟の400XがNX400へとモデルチェンジしたのは2024年。スタイリングこそかなりイメージチェンジしたものの、車体もエンジンもスペックは最終型の400Xとほとんど変わらず、カラーメーターやトルクコントロール(トラコン)を装備したことでさらなる熟成を図った。見た目も名前も変わってはいるが、400Xの良さをそのまま引き継いだNX400、これに今回Eクラッチシステムが搭載された。これにより渋滞路などでのクラッチ操作から解放されることになるが、同時に価格も89万1000円から111万1000円へと22万円アップしている。

同じはずなのに、ズシッ!

のどかな田舎をノンビリ流すような走りは得意中の得意。低回転域トルクを活かして低い回転で走れば、そんなシーンに溶け込んでいくようである。カジュアルなスタイリングもあらゆるシチュエーションで浮かないのがいい。

 NX400にEクラッチがついて、車重は196㎏から199㎏へとわずかに増えた。押し歩きではフリクション感が少なく、車体は大柄に感じるものの400㏄らしく付き合いやすい。ところが走り出すとズシッとした安定感が印象的だ。こんなにもドシッと地面にくっついている400㏄があっただろうか?と思うほど、クラスレスな落ち着きに包まれた。
 街中で車両をピックアップしてからしばらくストリートを走り、郊外の道へと進む中で、まるで650㏄クラスのアドベンチャーモデルのような安定感・安心感に包まれる。車両重量199㎏なのだから特別重たいわけではない。それなのにエンジンの下から錨が降ろされているかのように、絶対に路面を捉え続けて離さない!という感覚がある。
 これにより横風が吹こうが路面にいやらしい縦溝があろうがお構いなしである。荷物をたくさん積んでも、タンデムしてもこの感覚は変わるまい。どこまでもズンズン進んでいく頼もしさに包まれて、そのクラスを超えた安心感に身を任せてしまう。これほどまでの安定感は400Xでは感じたことがなかったし、Eクラッチ未搭載のNX400でもそんな強い印象は残っていない。Eクラッチ搭載に伴う3㎏増量によって車体のバランスが変化したのだろうか…何にせよ、ストリートからワインディングに向かう中で、とにかく400㏄というクラスにとらわれない絶大な安心感が魅力だと感じさせられた。

引き継がれる「道具感」

 アドベンチャーモデルらしいクチバシやラギッドな印象のカラーリングをもっていた400Xに対して、NX400はツルリとしたフロントマスクと都会的なカラーリングとしたことで、むしろアドベンチャー感は減っただろう。イメージとしてはフロントホイールを17インチに戻してもバランスしそうなスマートでカジュアルな立ち姿だ。

のんびり走っているときにはあまりスポーティなイメージはないのに対し、いざ気持ちよく寝かし込んでいくととても気持ちの良いコーナリングが可能なことに気づく。殿様ポジションのままフロントの舵角に任せてドシッとした車体をコーナーに放り込んでいくさまは、もしかしたら兄弟車のCBR400Rを上回る気持ちよさやダイナミックさがあるかもしれない。バンク角も深く、ペースを上げていってもステップを擦るようなこともなかった。

 しかしスマートになってもその本質は「使える」マシンである。無理のないポジションと確かな防風性、快適なシートなどは長距離のツーリングはもちろん、通勤通学といった日々の移動でも大いに味方になる。そして先代でも感心したのは燃費だ。ワインディングなどでの飛ばし気味の走行を含めても、結局リッター28~30㎞に落ち着くのである。今回も100㎞程走って、やはり燃費は30㎞/Lほど。非常に優秀であり、17Lのタンク容量と合わせてワンタンクの航続距離は400㎞ほど見込めるはず。この全方位死角なしの「使える性能」はかつて筆者が所有していたスズキのVストローム650を連想させてくれ、質実剛健なモノづくりという意味でメーカーを超えた共通性が見えた。

コンパクトなライポジ、確かな前輪荷重

 フロント19インチであることや存在感のあるカウルのためか大柄に見えるが、またがれば意外やコンパクトで自信をもって扱える。シート高は400X時代から一貫して800㎜なのだから決して高くないし、自然と足を降ろせばふくらはぎをステップとペダルの間に滑り込ませられるため足つきは良好。フロントに19インチホイールを履くがハンドル幅は広くなく、またハンドル形状もロードモデル的のため、大きなバイクに乗っているような感覚は少ない。
 走り出すと着座位置が前寄りであることに気づく。大柄な筆者はもう少し腰を引いて乗りたく思ったのだが、シートの形状が「この位置に座って下さい」とアピールしてくるため、自然とタンクに腰を密着させるようなオンロードライポジとなる。これによりステップはアドベンチャー系モデルとしてはバックステップな印象となる。
 しかしライダーを前寄りに座らせるそのライポジのおかげか全輪荷重が大きく感じられ、フロントホイールの接地感は極上。Eクラッチ搭載によるエンジン回りの重量増も効いているのかもしれないが、コーナリング時のオンザレール感はストリートでの走行で感じた安定感と地続きだった。ペースを上げていくとエンジン下から錨が下りているのではないかという感覚がますます強まる。いい調子でコーナーに突っ込んで行ってもドシーッと路面を捉えて離さない。大きな19インチホイールのジャイロが効いてグイーンとコーナリングしていくさまは本当に気持ちがいい。
  オンロードの観点から見たらハイグリップとは言えないのかもしれないが、純正装着のダンロップ製「トレイルマックス・ミックスツアー」はブロックパターンにもかかわらず深いバンク角まで安心感が高く、しかも路面の荒れや湿潤でも不安感はない。コーナーアプローチでたいした減速もせずに大きなフロントタイヤをズシーンと置くように寝かせていくと、こともなげに旋回を初めてくれるその様はどこか四輪的ですらある。四輪だとあまり減速せずともハンドルを切れば減速していくのと同じで、NXも寝かせてしまえばコーナリングフォースにより自動的に適切な速度に落ち着いてくれるような、そんな印象なのだ。
 走り出した時には「ズシリと重い」とも感じたNXだったが、その重さをうまく使った走りを知ってしまうと、安心感があるだけでなく、これならではのスポーツ性も楽しめる。その堂々とした走りはまさにクラスレス。バイクは軽ければいいというものでもないな、と改めて思わせられた。

CBRと共通?のエンジンとEクラッチ

 車体のバランスにはすっかり惚れ込んだ。対するエンジンはどうだろう。スペックは歴代400Xから変更はなく、9000rpmで46PSを発するとされている。発進すると1発が200㏄あるのだから過不足なく車体を進めてくれた。使う回転域は2000~6500rpmといったところだろう。この領域で一般交通を十分にリードできるし、振動も少なく快適だ。排気音は思ったよりも耳に届き、常にツインらしいパルス感に包まれている。
 ただワインディングの登りに差し掛かり高回転域まで回していくと、8000rpmから先は振動が増え、もう一つ回りたがらないような印象に。回転数は7000rpmあたりまでを使い、早めのシフトアップでアクセルを大きく開けた方がスムーズな走りができた。
同系列エンジンを搭載するCBR400Rではレッドゾーンまで伸びやかにフケ切る印象だったため、NXは常用域トルクに振った設定としているのかとも思いCBRとスペックを見比べると、馬力、トルク共に発生回転数は同じ。ということは単純にこの試乗車の走行距離がまだ500km程だったため、ナラシが進んでいなかったからかもしれない。
 話題のEクラッチはもはや説明の必要もないかもしれない。クラッチレバーはあるが使う必要はなく、しかしシフトチェンジはライダーが必ず請け負うという、カブのようなシステムである。それでいてクラッチレバーはあるのだから、クラッチ操作をしたい人はクラッチ操作をすれば、自動的にEクラッチ機構はOFFとなり通常のマニュアルミッション車同様に使えるというわけだ。
 クラッチレバーに触らなければ常にカブとして接することができるため、完全にクラッチ操作を放棄するのが最もシンプルなアプローチに思える。なんなら間違って操作しないようにクラッチレバーを外してしまいたいとすら思った。
 というのも、クラッチレバーを操作する際、Eクラッチからマニュアルに自動的に切り替わるのを示すように握りしろがわずかに変わり、一瞬「ん?」と思う場面があるのだ。
 また、そもそもクラッチ操作がすでに苦ではない筆者からすると、Uターン時など繊細な操作時にはやはりマニュアルで操作したいと感じることもあった。そんな人に向けて、Eクラッチ機能はあらかじめOFFにしておくこともできる。ただその操作にはメーター内の階層を進んでいかなければならず、7回ものスイッチ操作が必要となり、しかも一度メインキーをオフにすると再びEクラッチ機能ONへと戻ってしまうのだ。
 もう一点改善の余地があると感じたのは、Eクラッチ機能をOFFにした際、クイックシフターも同時にオフになってしまうという点。今やクイックシフターはすっかり普及した機能だと思うと、クラッチ操作はしたくともクイックシフターは欲しいという人も多そう。EクラッチのON/OFFと、クイックシフターのON/OFFは連動していない方がより多くのニーズに応えられそうに思う。
 NX400にはEクラッチ仕様しかなく、Eクラッチがついていないモデルは選べなくなった今、逆にEクラッチを「使いたくない」ユーザーに向けた設定も今後熟成されていってほしい。

ライバル不在、普通二輪免許アドベン快進撃

 名車だった400Xから正常進化したNX、そしてさらにEクラッチがついた今回。普通自動二輪免許枠で乗れるアドベンチャーモデルとして少なくとも国内ではライバル不在だし、海外メーカーを見渡してもここまでの完成度は他にない。加えてクラスレスな安定感や安心感、四輪的ともいえる確かなハンドリングなど魅力は多い。
 また今回新たに採用されたEクラッチを歓迎する人も多いことだろう。これら進化で価格もそれなりに高額となってはいるが、400㏄の枠を超えた完成度や万人向けのサイズ感、良きバランスのパワーや超良好な燃費など利点を挙げていけば、最終的に「うん」と頷けるのではないだろうか。
 ジャストサイズでモダン&オシャレなアドベンチャーモデルを探している人はもちろんのこと、例えば天候に関わらず必ずA地点からB地点へと確実に移動しなければいけないような道具的使い方をする人まで、あるいはどんな使い方にも応えてくれるアガリバイクとしてもオススメしておきたい。

ディテール解説

よりアドベンチャーモデル感の高かった400Xから、NX400となった時にスタイリングは大きく変わった。コンセプトは「デイリークロスオーバー」であり、道なき道を走破するというよりは都会的なシーンでも溶け込めるものになっている。シックなカラーリングもモダンである。車重はNXになった時にこれだけのエクステリア変更をしているのに3㎏の減量をしたが、今回Eクラッチを搭載してまた3㎏の増量。当初の400Xと同重量へと戻っている。

足つきチェック

特に前方から見た場合、カウルは縦方向に大きいイメージのため400㏄とは思えない堂々としたサイズ感があるが、またがってしまえばライディングポジションが意外やコンパクトで、ライダーの体格を選ばない懐がある。乗車姿勢はとてもアップライトでいわゆる殿様乗り。ハンドルの位置はごく自然なのに対し、着座位置は前寄りに座るよう促してくるシート形状故、結果的にステップはバックステップ気味に感じるかもしれない。

かつては19インチになってもシングルディスクだったが、NXになるころにはダブルディスク化済。ダブルのピンスライドキャリパーでタッチはダート路も考慮したようなジェントルなものとしつつ、握り込めばロードでも十分よく止まる。ただ文中に書いたように、NX400はギュッとブレーキングしてペタッと寝かせるような走りよりも、コーナーとコーナーを優雅につないで、一筆書きでワインディングを流すような走り方が楽しい。フォークはすっかり定番となりつつあるショーワのSFF-BP。
リアは通常のモノショックとし、減衰を見直すことでタンデムや荷物の積載に広く対応する。
近年の各種規制に対応しながらも、400Xデビュー当初の47馬力を維持している180°クランクパラツインエンジン。今回の試乗車は慣らしがまだ完了していないようだったが、高回転域は最高出力を発する9000RPMオーバーまで気持ちよく回るはずだ。
エキパイはCBR650Rなどで見られたような、車体右側にセクシーな曲線を見せてくれている。今回エンジン右側にはEクラッチユニットが追加。ライダーには足つき時も乗車時も全く干渉しないため、フィット感的には何も気になることはなかった。
兄弟車CBR400Rともよく似た、排気口が2つとなっているサイレンサーからはハスキーな音が。ツインということもありなかなか歯切れがよい。
ステップは快適なゴム張りだが、試乗車はナラシ中ということもあって8000RPMから上は振動が多めだった。NX400は電スロではないもののクイックシフターはとても優秀でシフトダウン時もクラッチを滑らせてきれいにつないでくれる。ただEクラッチシステムをOFFにするとクイックシフター機能もOFFとなってしまうのは惜しいか。
とても快適なシートはスポーツ性をアピールするためなのか比較的前の方に座るように促してくる形状。これによりフロント荷重を意識したコーナリングができ、絶妙なバランスが生まれていると感じる。タンデムシート部は平たく面積もあるため、タンデムはもちろん荷かけフック付きのグラブバーを活用して荷物の括りつけも安定しそうだ。ただ今回の値上げを考えると純正でキャリア(センタースタンドも)を付けてくれたなら喜ぶユーザーは多かったのではないかとも思う。なお純正アクセサリーでリアキャリアも用意されている(3万6905円)。
シート下はバッテリーへのアクセスも良好で、電源取り出しやグリップヒーター、ETCなどの後付けも容易だろう。車載工具も今時珍しく充実している。
縦二眼のスマートなカウルは、アドベンチャーモデルの定番となっているクチバシを廃し、都会的なカジュアルでスマートなスタイルを獲得。ライト左右及びスクリーン下部に導入口を設けることでカウルの内側の風をコントロール。スピード域に関わらずヘンな巻き込みなどは皆無だった。
テールライトもウインカーもLED。テールセクションが全体的に低く、足を振り上げて跨る時のハードルが低かったのも好印象。タンデムライダーも乗り降りしやすそうである。

メーター

表示は写真のバータイプのメーターの他、サークルタイプとシンプルタイプの3種類から、また背景色もホワイトとブラックが選べる。EクラッチはON・OFFが選べる他、反応の感度も選択可能。画面外右側に緑色に点いているのがEクラッチのインジケーター。マニュアルでクラッチレバーを操作するとこのインジケーターが消え、Eクラッチシステムに復帰すると再び点灯する。Eクラッチシステムを任意でOFFにした場合はこのインジケーターが消えたままになるだけでなく、画面内のギアポジションの下に「M」という表示が表れる(右下写真)。

通常はフロントタイヤ径が大きくなればハンドル幅も広がっていくものだが、19インチにしては狭めのハンドルという印象。だからこそライダーが不必要な入力をせずに、19インチのジャイロ効果に任せたコーナリングが楽しめるということもあるだろう。左のスイッチボックスは4WAYのセレクトスイッチがあり、これが大変に使いやすい上に、メーター内表示は日本語のためこれもわかりやすい。その横にあるのはトルクコントロールのON・OFFボタンなのだが、トラコンをOFFにすることは稀なのだから、このボタンをEクラッチのON・OFFとしたらわかりやすくていいのでは?と編集さんと盛り上がった。ウインカースイッチが下でホーンボタンが上というホンダ独自のレイアウトはいつものことだが、やはり使いやすいとはいいがたく何度も不必要にホーンを鳴らしてしまった。

主要諸元

 NX400
車名・型式ホンダ・8BL-NC65
全長(mm)2,150
全幅(mm)830
全高(mm)1,390
シート高(mm)800
車両重量(kg)199
燃料消費率*1(km/L)国土交通省届出値:定地燃費値*2(km/h)41.0(60)〈2名乗車時〉
燃料消費率*1(km/L)WMTCモード値(クラス)*328.1(クラス 3-2)〈1名乗車時〉
エンジン種類水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒
総排気量(cm³)399
最高出力(kW[PS]/rpm)34[46]/9,000
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm)38[3.9]/7,500
燃料タンク容量(L)17

■ 道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元)

■ 製造事業者/本田技研工業株式会社

*1 燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。

*2 定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。

*3 WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。

※ 本仕様は予告なく変更する場合があります。
※ この主要諸元は2026年5月現在のものです。