砂漠でタイヤに刺さった山羊の骨

最高峰T1+クラスに挑む三浦昂選手のトヨタ「GRハイラックスT1+」2026W2RC第4戦モロッコに参戦する。

いきなり我々のモロッコラリー取材は試練から始まった。

競技開始の0日目、シェイクダウン走行のスタート地点で撮影しようと、我々の乗ったレンタカーはわずか数十mだけアスファルトの道路を外れ、土漠へと足を踏み入れた。撮影ポイントを変え移動するため車両を動かすと、現地の人がタイヤを指さしている。車外へ出てみると「シュー」という音が聞こえる。

なんと、これだけの走行でパンクしてしまったのだ。レンタカーのオンロード用ノーマルタイヤを見てみると、おそらく山羊か何か、死んだ動物の骨らしきものが、トレッドとサイドウォールの境目あたりに刺さっていた。

オフロードレース、ラリーレイドが過酷なのは頭では理解していた。しかし、普段ではあり得ない出来事の出迎えは、その理解を実体験に変えてくれた。

砂漠のラリーとはいえ、写真のような荒れ地のセクションもある。競技車両は土漠をハイスピードで走り抜ける。
運が悪かったのだろうが、やはり都市型SUVでは砂漠は厳しと実感した…。タイヤ交換をして取材に戻る。
この写真は我々のレンタカーではないが、このような動物の骨がタイヤに刺さっていた。日本では考えられない光景だ。

ダカールへの「予行演習」の意味合いも持つモロッコ

世界ラリーレイド選手権(W2RC)第4戦「ラリー・OLA・エナジー・デュ・マロック」は、広大な砂丘地帯を含む5つのステージで構成され、約2700kmを走る。競技区間(SS)の合計は約1600km。

世界ラリーレイド選手権(W2RC)第4戦「ラリー・OLA・エナジー・デュ・マロック」は、9月28日にモロッコ西部に位置する海辺のリゾート地アガディールで幕を開けた。W2RCは、FIAとFIM(国際モーターサイクリズム連盟)が共同で主催するクロスカントリーラリーの世界選手権で、源流はパリ・ダカールラリーに始まる冒険的なラリーレイドにある。

2026年は全5戦。開幕戦が1月のダカールラリー(サウジアラビア)で、第2戦がポルトガル、第3戦がアルゼンチン、そして今回の第4戦がモロッコだ。最終の第5戦は11月にUAEのアブダビ・デザート・チャレンジで行われる。

トヨタ「GRハイラックスT1+」は3.5L V6ガソリンツインターボエンジンを搭載し449psを発揮する。

モロッコは2022年のW2RCシリーズ発足以来組み込まれており、今年が27回目になる伝統あるラリーであり、ダカールに向けた「予行演習」あるい「前哨戦」の場としても知られる。アガディールから内陸のザゴラへ移動し、5つのステージで広大な砂丘地帯を含む約2700kmを走る。競技区間(SS)の合計は約1600kmだ。

社員ドライバーが選んだ、最高峰への道

この舞台に挑む日本人が、三浦昂選手である。

小学生の頃から夢はF1ドライバー、クルマに関わりたいと入社したのは、ランドクルーザーの開発、製造を担うトヨタ車体だった。一般的な社員として働きながら、ダカールラリーの市販車部門に社員ドライバーとして挑み続けてきた。2026年のダカールを終えた後は、トヨタ自動車のGRブランド事業室でワークスチームに所属し、TOYO TIRESのアンバサダーも務める。今夏からはフィンランドに移住し、トヨタ自動車に出向した形で TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)に所属している。

三浦昂選手のトヨタ「GRハイラックスT1+」が履くのは、TOYO TIRESの『OPEN COUNTRY M/T-R』

その三浦選手が次の目標に定めたのが、ダカールラリーの頂点にあたるT1+クラスだ。モリゾウこと豊田章男会長へ自ら進言し、トップカテゴリーへの挑戦が始まった。市販車ベースのクラスから、ラリーレイド専用に設計された車両で世界のトップと競う舞台へ。サラリーマン出身のドライバーとしては、異例のステップアップである。

フィンランドで変わった練習の質

フィンランドへ移って約2カ月。三浦選手は現在、会社員としての業務から離れ、ラリーのトレーニングを軸にした生活を送っている。

「週に3日は、フィンランドの実際の道やオフロードのトラックで、ラリー3のマシンを使ったドライビングトレーニングをしています。それとは別に、3〜4日はフィジカルのメニューがあり、週1日がレストデーで休養というイメージです」

現在はラリーの本場フィンランドで、トレーニングに専念している三浦昂選手。

空き時間には市販ラリーベース車で近所の道を走り、距離を測ってコーナーを読みながら、ペースノートを作り練習を重ねる。オンボード映像や走行データの分析にも余念がない。8月末には自宅用のシミュレーター機材を購入した。組み立てとセットアップに苦戦中とのことだが、期待は大きい。

「ドライビングにかなり集中できる環境を作ってもらっているので、技術だけでなく、プレッシャーとどう向き合うかまで、レースをシミュレーションしながら深く考えられる。トレーニングの質が大きく変わったと、早くも実感しています」

フィンランドは涼しく過ごしやすいが、実戦の舞台は灼熱の砂漠だ。そこで三浦選手は、フィジカルトレーニングの際にあえて着込んで体温を上げるなど、暑さへの対応も工夫している。

ドアノブしか共通点がない「ハイラックス」

競技車両はフロントフェイスの一部やルーフラインなど、新型ハイラックスの姿を彷彿とさせるものの、中身はラリーレイド専用に設計された別物だ。

三浦選手が駆るのは、トヨタGRハイラックスT1+である。市販のハイラックスは2025年11月にタイで発表、発売されたばかりだが、競技車両の中身はまったくの別物だ。

全長×全幅×全高=4500×2300×2100mmと、まずそのサイズからの迫力に圧倒される。軽量なカーボン製のボディパネルをまといながらも、乾燥重量で2010kgある。耐久性と信頼性を追求して開発されたパイプフレームに、ランドクルーザー300系の3.5L V6ツインターボを搭載する。最高出力は330kW(約449ps)、最大トルクは700Nm(約71.4kgm)で、500Lの燃料タンクにはオクタン価101.89のRepsol社製再生可能燃料を給油する。

新型「ハイラックス」(9代目)は、約10年ぶりのフルモデルチェンジとなる。

足まわりも市販車とは別世界だ。前後ともダブルウィッシュボーン式で、ホイールトラベル(サス・ストローク)は350mmにも及ぶ。ダンパーはライガー製のモノダンパーで、ステアリングもライガー製の油圧パワーステアリングを採用する。トランスミッションはSADEV製の6速シーケンシャル、デフはロック可能なLSD。ブレーキはアルコン製の6ピストンキャリパーを前後に備える。ホイールはEVO CORSE製17インチの鍛造だ。

トヨタ「GRハイラックスT1+」はベッド部分が大幅に軽量化されている。
トヨタ「GRハイラックスT1+」の足まわり
トヨタ「GRハイラックスT1+」のサスペンション

「純正のハイラックスと同じ部分は、ほとんどドアノブくらいじゃないでしょうか」と三浦選手。大柄ながら動きはむしろ、トレーニングで使うラリー3やラリー2に近いという。

三浦選手が初めて現行の競技車両に乗ったのは、今年初め。ダカールラリーでの最後のTLC参戦から約2週間後のサウジアラビアでのことだった。

「サスペンション性能が本当に高く、以前なら飛べなかった場所を飛んでも、大きなギャップもクルマが平気で吸収してくれる。最初は速さに驚くばかりで、ついていくのが必死でした」

そのハイラックスが履くのは、TOYO TIRESの「OPEN COUNTRY M/T-R」。サイズは37×12.50R17の大径サイズだ。

TOYO TIRES「OPEN COUNTRY M/T-R」

TOYO TIRESは、三浦選手とTLC(Team Land Cruiser=トヨタ車体のダカールラリー参戦チーム)に寄り添い、ダカールでの12連覇を支えてきた大切なパートナーである。今回のモロッコでも全力で三浦選手とTLCをバックアップする体制を敷き、現場にはエンジニアも2名を同行させている。

古巣TLCも、TOYO TIRESも、挑戦は続く

なお、三浦選手の古巣であるTLCも、モロッコラリー2026に2台体制で参戦している。

1号車のドライバーは、過去にもTLCで活躍した経験豊富なクリスチャン・ラヴィエル。ナビゲーターは、2023年大会からラヴィエルとともにダカールを戦ってきたヴァランタン・サローだ。2号車には、サウジアラビア出身でラリーレイドのさまざまなカテゴリーで活躍するヤシール・セイダンを新たに迎え、ナビゲーターは長年TLCで活躍するジャン・ミッシェル・ポラトが務める。

TLCも引き続き2台体制でW2RCに参戦している、TOYO TIRESのサポートも継続。

社員ドライバーである三浦選手が抜けても、チャレンジが続いていることをうれしく思う。TOYO TIRESも、サポート体制を変えることなく、エンジニア2名をチームに同行させている。景気などに左右されやすいモータースポーツの世界で、両社が挑戦を続ける姿勢は称賛に値するだろう。冒頭で紹介した我々の受けた洗礼からも、タイヤの重要性とそれをサポートするありがたみが改めてひしひしと伝わってくる。

さらにTLCでは、引き続き社員ドライバーを選考しているという。三浦選手に続く、サラリーマンからのトップドライバー誕生というストーリーには、なんとも夢がある。

三浦選手がステップアップしたからと言って、TOYO TIRESもトヨタ車体も、その挑戦する姿勢に変化は無かったのだ。

コ・ドライバー、モンレオンからの評価は?

コ・ドライバーを務めるアルマン・モンレオン選手。

ナビゲーターを務めるのは、スペイン出身のアルマン・モンレオンだ。コンビを組んでおよそ半年になる。モンレオンは三浦選手の成長ぶりに驚いている。

「正直、アキラには本当に感心している。クルマに乗るたびに、彼は何かしらスキルを向上させているんだ。この半年で、どれだけ進歩したかは驚くほどだよ。1日ごとに1つ目、2つ目、3つ目の進歩が見える。学習曲線は本当に急だね。今回のモロッコのシェイクダウンでもペースは非常に良かったし、自信を持ってラリーのスタートを迎えられる」

年明けにT1+クラスとして初のダカールにチャレンジする三浦選手。その前哨戦とも言えるモロッコでどこまで手応えをつかめるか。砂漠の1週間に注目したい。

三浦昂選手とアルマン・モンレオン選手「トヨタGRハイラックスT1+」

■トヨタ「GRハイラックスT1+」 主要諸元

トヨタ「GRハイラックスT1+」

●寸法・構造
ボディ:軽量カーボン製ボディパネル
全長×全幅×全高:4500×2300×2100mm
乾燥重量:2010kg

●シャシー・トランスミッション
シャシー:耐久性と信頼性を追求して開発された金属製フレーム
トランスミッション:SADEV製 6速シーケンシャル
デフ:SADEV製 ロック可能なLSD

●サスペンション・ステアリング
フロントサスペンション:ダブルウィッシュボーン式(ホイールトラベル350mm)
リアサスペンション:ダブルウィッシュボーン式(ホイールトラベル350mm)
ダンパー:ライガー製 モノダンパー
ステアリング:ライガー製 油圧パワーステアリング
ジャッキ:内製の油圧式車両リフトシステム内蔵

●ホイール・ブレーキ
ブレーキ:アルコン製 6ピストンキャリパー(前後)
ホイール:EVO CORSE製 ダカール鍛造17インチ軽量リム
タイヤ:TOYO TIRES OPEN COUNTRY M/T-R 37×12.50R17

●エンジン・性能
エンジン:V6ツインターボ(ランドクルーザー300系市販エンジンベース)
排気量:3.5L
バルブ:1気筒あたり4バルブ
燃料:Repsol製再生可能燃料(オクタン価101.89)
最高出力:330kW(約449ps)
最大トルク:700Nm(約71.4kgm)
燃料タンク容量:500L