日本における自動車デザインの変遷


日本の自動車産業の黎明期である1950年から60年代には、丸いクルマや流線型のクルマも多く存在した。1966年に誕生した初代トヨタ カローラは角部が丸められたデザインだった。
70年代に入ると今度は直線基調のデザインが増え始め、80年代には多くの車種に直線的なデザインが採用される。しかし、90年代に入ると一転して再び丸みを帯びたクルマが増え、2000年以降はほとんどが流線型ボディを纏うようになった。
自動車のデザインは流線と直線の変遷を繰り返してきたが、この変化は単なる流行によるものではなく、自動車生産における技術や社会的な要因が絡み合った結果と言える。とりわけ現在の流線型デザインは、燃費性能と安全性能の向上という要因が背景にある。
現在の流線型デザインは燃費性能や安全性能向上のため


現代のクルマが流線型となった要因は、安全基準と環境基準の厳格化が理由に他ならない。
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、歩行者保護を目的とした安全基準が世界的に厳しくなった。これにより、衝突事故の際に歩行者が受ける衝撃を和らげるため、ボディの角をなくし、全体を丸く滑らかな形状にすることが求められるようになった。
また、同時期に地球温暖化問題が表面化し、二酸化炭素排出抑制のために燃費削減が強く叫ばれた。クルマは走行中、常に空気抵抗を受けており、この抵抗をいかに減らすかが燃費性能や航続距離を左右する。
平面的なボディよりも流線型の方が空気抵抗を効果的に低減できるため、燃費向上の観点からも流線型ボディが主流となったのは必然と言えるだろう。
さらに、技術の進歩も流線型デザインの普及を後押ししている。高強度の鋼材が採用やプレス技術の向上に加え、2000年代に普及した3D CAD(3Dデータ設計支援ソフト)により、複雑かつ精密な曲面デザインの設計が効率的に行えるようになったことも大きな要因だ。
流線型はクルマのデザインとして普遍的に優れたもの


1950年から60年にかけて丸いデザインが多かったのは、当時の生産技術や素材の制約などで複雑な形状のプレス加工が難しかったためだ。一部のクルマは空気抵抗も考慮されていたが、そのアプローチは航空技術の知見を流用したものであり、現代の流線型ボディとは成り立ちが異なる。
70年代から直線的なデザインが採用されるようになったのは、より精密なプレス加工が可能になったことや、空間効率の向上が求められたことに加え、直線的なデザインが持つ先進的なイメージが当時の社会に受け入れられたことも背景にあったはずだ。
こうした変遷を経て、現在は流線型のボディが主流となった。一方で、空間効率が求められるミニバンや軽自動車、一部のSUVなどは今でも直線的なデザインを維持している。
その理由は、技術の進歩によって直線的なボディでも安全性能や環境性能を高めることができるようになったためと言えよう。
歩行者保護においては、バンパーやボンネット、フェンダーパネルなどの硬度を調整することで、衝突時の脚や頭部への衝撃を緩和する「歩行者障害軽減ボディ」の存在が大きい。さらに近年では衝突時にボンネットを持ち上げて衝撃を軽減する「ポップアップフード」や「歩行者保護エアバッグ」といった装備も登場している。
空力性能に関しても、コンピュータシミュレーションによる設計の最適化や、空力付加物などとの組み合わせで、流線型ボディに頼らずとも空気抵抗の低減が図れるようになった。
それにも関わらず流線型ボディのクルマの方が圧倒的に多いのは、角のない形状と小さな空気抵抗がクルマにとって普遍的なメリットをもたらすためだと言えるだろう。流線型ボディが主流となる現在の流れは、今後もしばらく続くはずだ。
