“ハコスカしかいらない”という生き方

執念が形になったフルチューンKGC10

高校時代、数々の改造車雑誌を読み漁る中で、ひたすらハコスカに憧れを抱いていたというオーナーの瀬戸さん。「旧車が好きなのではなく、ハコスカが好きなんです」と語る通り、他のクルマには一切興味がなく、とりわけスカイライン全体ではなく“ハコスカのクーペ一択”という強いこだわりを持っている。

瀬戸さんが免許を取得したのは、スカイラインが“7th”と呼ばれたR31の時代。同時期に免許を取った仲間たちは、“鉄仮面”(DR30後期)や“ジャパン”(C210)といった比較的新しいモデルを選んでいたが、瀬戸さんは当時すでに生産終了から20年近くが経過していた4世代前のKGC10を探し続けた。そして20歳のとき、ついに念願叶って110万円で手に入れたのだ。

左:マシンオーナー瀬戸さん/右:車両製作者の川村さん

「その時点で予算はカツカツ。しばらくはノーマルのまま乗って、最終的にキャブを交換して、オーバーフェンダーを装着し、少し太めのタイヤを履かせたくらいでした」と、当時を振り返る。

しかし23歳という若さで結婚したことで、万が一に備えて確保していたスペア車両も含め、2台のハコスカを手放すことに。その後、スポーツカーと呼べるクルマに乗ったのはZ32のみで、“初恋の存在”だったハコスカを忘れられないまま、約20年の時が流れていった。

やがて子供も独立し、自由に使える資金に余裕が生まれたことで、再びハコスカへの想いが再燃。車両探しと並行して、屋根付きガレージをDIYで製作するという本気ぶりを見せる。

若き日と変わらぬ情熱でインターネットやSNSを駆使し、全国から情報を収集。ようやく見つけ出した極上の一台は、なんと地元・青森県八戸市にあった。

前オーナーからは、換装されていたRB26DETTが絶不調だと聞かされていたが、1000発を超えるスポット増しとフルレストア済みのボディに魅了され、その不具合込みで500万円で購入を決断。その背景には、信頼できる人物の存在もあった。

車両整備や簡単な加工は自ら行う予定だったが、エンジンだけはプロに任せると決めていた。その相手こそ、青森県屈指のチューニングショップ「クリッピングポイント」の川村さんだ。

「ノーマルのRB26にBNR32純正ECUの組み合わせだったので、当社が得意とするMoTeC M84で制御することにしました」と川村さん。セッティング後は好調だったが、約1年後にヘッドボルト周辺にクラックが発生し、オーバーヒートに見舞われる。原因は、徐々に進行していた水漏れだった。

そこで、当時まだ入手可能だったBNR34用N1ブロックを導入し、オーバーサイズピストンで2.7L化。無事だったヘッドはナプレックでハイレスポンスキット加工を施し、フルチューンRB26へと進化を遂げた。

そこにビッグシングルタービンを組み合わせ、最高出力は530psを発揮。ただし、このスペックに対してあえて抑えた数値となっている理由は、タイヤの限界にある。瀬戸さんが最も重視する“ハコスカらしさ”を守るため、深リム15インチ+オーバーフェンダーというスタイルを崩せない。その結果、装着可能なタイヤ幅は最大でも245に制限され、トラクション確保が難しいのだ。

さらに、シャコタン仕様ゆえにマフラー干渉を避けるため、リヤメンバーには貫通加工を施すなど徹底した対策が取られている。リヤ周りには、ピロ化されたスターロード製アーム、海外製強化ドライブシャフト、R200デフ+ニスモLSD、さらにはデフクーラーまで投入され、情報量は圧倒的だ。

マフラーの取り回しに伴い、センタートンネル横のフロアも加工。プロペラシャフトとのクリアランスが極端に狭いため、熱対策と防音対策としてアルミテープとデッドニング処理が施されている。

エスコートの大容量オイルパンを守っているワンオフのオイルパンガードの傷が、このハコスカのシャコタン具合(と青森の道のデコボコ具合)を如実に物語る。5速MTはZ31から流用。ちなみに、車両購入後に真っ先に手をつけたのが、パワーに対してプア過ぎた純正ブレーキのブレンボ化だ。しかし、15インチのためローター径を大きくできず、まだブレーキが負けているという。

1台目のハコスカにも履いていたRSワタナベの15インチは、現行モデルのRタイプでさらにディープに(F:10.5Jマイナス34/R:11.5Jマイナス58 前後スペーサー20mm)。キズが付いても色が落ちないツヤのあるパウダーコート処理により、オリジナルとはひと味違う最新モデル感がある。

燃料タンクはATL製セーフティタンクへ換装。コレクタータンク形状の都合で燃料ポンプは1基掛けだ。奥に見える黒いタンクはリフターシステムのエアカップ用。

サイトウロールケージの7点式に汎用のカーボンサイドバーを追加。外装同様に車内にもカーボンパーツが多い。「これだけは市販品がなかった」というドアトリムは、カーボン生地とFRP樹脂で自作したとは思えない完成度の高さがある。

エアコンレスのため、走行風を取り込むダクトを助手席足元に設置。しかし、青森と言えども夏場の猛暑は耐えがたく、この12年間で奥さんは2回しか乗っていないとか。

リヤシートを取り払ったスペースをカーボンパネルでカバー。そこにマウントしたボックススピーカー『クラリオンOD7』は、リヤウインドウから見える当時感の演出用にわざわざヤフオクで落札した物だ。ここだけは時代に逆行しているかと思いきや、中身は同サイズのスピーカーにレストモッドされていた。

控えめなパワーでも持て余す今の状態は、「せっかくのフルチューンエンジンがもったいないとチューナーとして思いませんか?」と意地悪な質問を川村さんにぶつけると「オーナーごとにステージがあって、それは必ずしもサーキットや最高速じゃないですから。それに自分のスタイルを曲げたらダメ!」と即答。

それを横で聞いていた瀬戸さんは「いざとなったら出せるんだけど、ポテンシャルは最後まで出し惜しむつもり。伝家の宝刀は抜かない!」と笑っていた。この“羊の皮を被った狼”は、いつまでも皮を被ったままで終わるのか!?

●取材協力:クリッピングポイント 青森県上北郡六戸町犬落瀬柴山55-359 TEL:0176-55-2807

「パパの愛車はゴリゴリのハコスカ改ワークス仕様!」300馬力のL型フルメカチューンが吠える!!

往年の名車ハコスカに現代のエッセンスを注ぎ込んだネオワークス仕様が登場。L28改3.0Lエンジンは300馬力を発揮し、見た目だけでなく走りも別次元へと進化している。旧車らしさを残しつつ、現代でも通用する性能を手に入れた一台だ。