ドゥカティ・スクランブラー ナイトシフト……1,590,000円(2026年4月4日発売)

限定車も含めると、スクランブラーのバリエーションモデルはこの10年で20種類以上がリリースされている。ワイヤースポークホイールやフラットなバーハンドルが特徴の「ナイトシフト」は2021年に登場し、2023年には「アイコン」や「フルスロットル」らとともに第2世代へ。
標準装着タイヤはチューブレスラジアルのピレリ・MT60 RSで、指定空気圧はフロント:2.50bar、リヤ:2.50bar(最大積載時はフロント:2.50bar、リヤ:2.90bar)だ。
2026年モデルは車体色の変更のみ。2025年のネビュラブルーに代わり、エメラルドグリーンが登場した。ブラウンのシート表皮が都会的なイメージを醸し出している。

気持ち良さで右に出るものはいない伝統の空冷Lツイン

ドゥカティと言えば、今やMOTOGPやSBKにおいて最強メーカーの一角であり、また市販モデルについても、エンスージアスト垂涎のラインナップを構築するなど、世界中のライダーから羨望の眼差しを向けられている。そんな唯一無二のイタリアンメーカーが、2014年のミラノショーで発表したのが「スクランブラー・ドゥカティ」という新ブランドだ。モンスター796がベースの空冷Lツインを搭載した新モデル群は、バイクも趣味の一つというトレンドに敏感なライダーに向けて作られたもので、コンセプトとしてはホンダのレブルシリーズに近いと言っていいだろう。

今回試乗したのは、グリップ位置の低いフラットなバーハンドルを採用する「ナイトシフト」だ。オールブラックのワイヤースポークホイールに、エメラルドグリーンの美しい車体色。シート表皮のカラーはブラウンだ。現代のデュアルパーパスを意味する「スクランブラー」の名を冠していながら、実に都会的な雰囲気が与えられており、159万円というプライスタグに思わず納得する。

車体の押し引きでまず感じるのは、750ccを超えているとは思えないほどの軽さだ。それもそのはず、燃料を除く装備重量は182kgで、満タンなら約192kgだろう。排気量の近いスズキ・GSX-8Tより9kg軽いことになり、これは補機類の少ない空冷エンジンの成せる業だろう。ちなみにシリーズのベーシックモデルである「アイコン」はナイトシフトより6kg軽く、車両価格は21万円も安いのだ。

スクランブラー アイコンはシリーズにおけるベーシックモデル。ワイドなアップハンドルとアルミキャストホイールを採用。車両価格は138万円だ。

エンジンは排気量803ccの空冷90度V型2気筒「デスモデュエ」で、SOHC2バルブの動弁系には強制開閉システムのデスモドロミックを採用する。電子制御スロットルを採用し、ライディングモードはロードとスポーツの2種類。トラクションコントロールは4段階に調整可能だ。

エンジンは排気量803ccの空冷90度V型2気筒で、ドゥカティではこれを「Lツイン」と呼称する。2023年のモデルチェンジの際にユーロ5に適合。最高出力は73PS/8250rpmだ。
スクランブラーのオーナーズマニュアルより。動弁系にはドゥカティのお家芸である強制開閉式のデスモドロミックシステムを採用。1本のバルブを2本のロッカーアーム(オープニング/クロージング)で作動させる仕組みで、カムシャフトはコグドベルトで駆動する。

このエンジン、扱いやすさもさることながら、気持ち良さにおいて右に出るものはいないと断言できる。同じく空冷90度Vツインを採用するモトグッツィとも、また爆発間隔が同じとなる270度位相クランクのパラツイン系(ヤマハ・MT-07系、スズキ・GSX-8シリーズなど)とも異なり、心地良い蹴り出し感を伴いながらトゥルルルルッと有機的に吹け上がっていく。加えて排気量が大きすぎないことから、市街地においても5000~6000rpm付近まで使うことができ、回転数ごとの表情の変化が楽しめるのも気持ち良さにつながっていよう。

スロットルレスポンスの忠実さも特筆に値する。ライダーが右手を動かした分だけ、エンジンは正比例のグラフのように回転数を上下させる。ゆえに、コーナリング中のライン修正も自由自在で、これがスクランブラーをスポーティに感じさせる要因の一つになっているのは間違いない。

ウェットの峠道ですら楽しめる絶妙なハンドリング

試乗時の天候は雨で、最後まで路面が乾くことはなかった。だが、それゆえに標準装着タイヤ(ピレリ・MT60 RS)のウェットグリップの高さを確認できたのは幸いだ。

ホイール径はフロント18インチ、リヤ17インチだ。車体は軽量ながら、一般的な前後17インチのネイキッドよりも落ち着いたハンドリングとなっている。ペースを上げるとフロント大径ホイールゆえのジャイロ効果が強まってくるが、これは安定性にも寄与しているほか、より大径な19インチ系ほど強固なものではない。そのバランスが絶妙であり、ウェットの峠道ですら純粋に楽しむことができた。

ホイールトラベル量は前後とも150mmで、一般的なロードスポーツよりも30mmほど長めとなっている。ゆえにマシンのピッチングはやや大きめだが、ライダーは自然とその中心付近に座らされ、スロットルやブレーキで車体姿勢をコントロールしつつコーナーへアプローチすることになる。スクランブラーの立ち位置は「ライフスタイル提案系」ではあるものの、操縦が未熟なライダーでも扱いやすい上に、ベテランが操ったときの伸び代まで作り込んでいるところは、さすがと言っていいだろう。

ブレーキについては、フロントはシングルディスクながら車重が軽いので、ストッピングパワーに関して何ら不満はなかった。コントロール性の高さはさすがブレンボキャリパーで、ウェット路面においても扱いやすかった。加えてコーナリングABSの存在も、雨天走行において心強かった。

オールブラックのワイヤースポークホイールはアルミリムを採用。フロント18インチ、リヤ17インチだ。フロントフォークはインナーチューブ径φ41mmのKYB製倒立式。ホイールトラベル量は150mmで、調整機構はなし。フロントブレーキはシングルで、ブレンボ製ラジアルマウント対向式4ピストンキャリパーに、φ330mmフローティングディスクを組み合わせる。

さて、筆者がナイトシフトに対してネガティブに感じた点は二つあった。一つは、フロントフェンダーが非常に短いので、前輪が巻き上げた雨水や汚泥がダイレクトにエンジンに当たってしまうことだ。空冷フィンが刻まれた美しいシリンダーがみるみる汚れていくのは、オーナーでなくても見るに忍びない。

もう一つはメーターの操作性だ。多機能なのは実にありがたいが、少ないボタンにそれを割り当ててるため、一つの機能を変更するのに階層をいくつも潜っていく必要がある。オーナーになれば否が応でも慣れるだろうが、それでも信号待ちの間にパパッと操作できるようになるまでには時間を要するはずだ。

以上の二つは、あくまでも筆者が短時間の試乗で気付いたことであり、ナイトシフトのスタイリングに惚れた人なら些細な問題にすらカウントされないだろう。加えて、これはモトグッツィにも当てはまるが、イタリアンメーカーは「他人と競わずに速さや楽しさが自己完結する」というモノ作りにおいて他の追随を許さず、それはスクランブラーシリーズも含まれることを確認した。現行ラインナップにおいて稀少な空冷Lツイン搭載車であり、また400cc並みの軽い車体ゆえに、大型二輪免許を取得したばかりのライダーにもお勧めできる1台だ。

ライディングポジション&足着き性(175cm/66kg)

シート高は795mmで、これは同じスクランブラー系のホンダ・CL250と5mmしか違わない。乗車1Gでの前後サスのストロークに加え、シートのウレタンもほどよく沈み込むので、足着き性はご覧のとおり良好だ。バーハンドルはフラットで低いものの、グリップ位置が手前にあるので、Uターンのような小回りも楽にこなせる。

ディテール解説

マフラーはステンレス製で、サイレンサーはアルミ製のエンドカバー付き。
リヤブレーキはブレンボ製のピンスライド片押し式シングルピストンキャリパーと、φ245mmソリッドディスクの組み合わせだ。ABSユニットはボッシュ製。
リヤサスペンションはリンクレスのモノショックで、プリロードのみ調整可能なショックユニットはKYB製。ホイールトラベル量は150mmだ。
画像は旧型フレームのスクランブラー カフェ・レーサーのもの。リヤショックは車体の中心から左側にオフセットされており、ご覧のとおりプリロードの調整が容易だった。現行モデルは右側のサイドカバーを外してプリロードを調整するシステムに。
ベーシックモデルのアイコンは、ダート走行にも対応したワイドなアップハンドルを採用するのに対し、ナイトシフトはフラットで低いバーハンドルを選択。バーエンドミラーも含めて、出荷時からすでにカスタマイズされている雰囲気が漂う。
右側の丸いボタンはDRL用。左側にあるウインカースイッチはモード/エンターキーも兼ねており、コントロール上下ボタンと組み合わせて各種機能を呼び出したり選択したりする。
スマホおよびインカムをBluetooth接続できるドゥカティマルチメディアシステム(5万4505円)に対応したメーターパネル。4.3インチのカラーTFTディスプレイを採用し、ライディングモードはロードとスポーツの2種類。トラコンは4段階で、オフにすることも可能だ。
着座位置の自由度が高いフラットなシート。プラス15mmのハイシート(5万5220円)やマイナス15mmのローシート(4万3714円)が純正アクセサリーで用意されている。
キーロックを解除するとシートが取り外せる。ECUの隣に設けられているUSBコネクターは雨天時使用不可だ。
外周にDRLをレイアウトしたヘッドライト。灯火類は全てLEDだ。
アイコンは短いながらもテールカウル(リヤフェンダー)が存在するが、ナイトシフトはそれすらも撤去し、より無駄を削ぎ落としたフォルムとしている。STDのナンバープレートはスイングアームマウントだが、それをシートレール側に移設するハイナンバープレートホルダー(6万2117円)も純正アクセサリーで用意。

スクランブラー ナイトシフト(2026年モデル)主要諸元

●エンジン
型式 L型2気筒、デスモドロミック・バルブ駆動システム、気筒あたり2バルブ、空冷
排気量 803cc
ボア×ストローク 88 × 66 mm
圧縮比 11:1
最高出力 73 ps (53.6 kW) @ 8,250 rpm
最大トルク 65.2 Nm (6.7 kgm) @ 7,000 rpm
燃料供給装置 電子燃料噴射、50mm径スロットルボディ、ライド・バイ・ワイヤ・システム
エグゾースト ステンレス・スチール・サイレンサー(触媒コンバーターおよびO2センサー付き)、アルミニウム製テールパイプ

●トランスミッション
ギアボックス 6速
1次減速比 1速:2.462、2速:1.667、3速:1.333、4速:1.130、5速:1.000、6速:0.923
ギアレシオ ストレートカットギア 1.85:1
最終減速 チェーン:フロントスプロケット 15T、リアスプロケット 46T
クラッチ 油圧制御式、スリッパー/セルフサーボ機能付き湿式多板クラッチ

●シャシー
フレーム スチール製トレリスフレーム
フロントサスペンション KYB製41mm径 倒立フォーク
フロントホイール アルミニウム製スポークホイール、3.00 × 18
フロントタイヤ ピレリ製MT 60 RS、110/80 R18
リアサスペンション KYB製プリロード調整機構付モノショック
リアホイール アルミニウム製スポークホイール、5.50 × 17
リアタイヤ ピレリ製MT 60 RS、180/55 R17
ホイールトラベル(フロント/リア) 150 mm / 150 mm
フロントブレーキ 330mm径ディスク、4ピストン・ラジアルマウントキャリパー、 ボッシュ製コーナリングABS
リアブレーキ 245mm径ディスク、1ピストン・フローティングキャリパー、 ボッシュ製コーナリングABS
メーターパネル 4.3インチTFTカラー・ディスプレイ

●寸法および重量
装備重量(燃料を除く) 182 kg
シート高 795 mm、810 mm:ハイシート(アクセサリー)、780 mm:ローシート(アクセサリー)
ホイールベース 1,449 mm
キャスター角 24°
トレール 108 mm
燃料タンク容量 14.5 リットル
乗車定員数 2