ガンマだけじゃなかった! スクーターにも存在したウォルターウルフ

1980年代のスズキを語るうえで、「ウォルターウルフカラー」はかなり特別な存在だ。このカラーリングでのワークス活動は1985~87年と短かったが、ライダーである水谷勝選手の全日本選手権での活躍からスズキファンには一目置かれる人気を誇る。ちなみにウォルターウルフとは、タバコでもお酒でもなく、カナダの実業家ウォルター・ウルフ氏の名を冠したレーシングチーム/ブランドのこと。F1でも知られる存在で、日本の二輪シーンではスズキのワークスマシンがまとった黒×赤×ゴールドのカラーリングとして強く記憶されている。
ワークスマシン譲りのカラーリングは、レーサーレプリカブーム真っ只中だった当時の空気と相性抜群。RG50Γ、RG250Γ、RG400Γ、RG500Γなど、市販車にもそのイメージが落とし込まれていった。
そんな硬派なレーシングカラーを、スクーターで唯一まとっていたのがスズキ・Hiである。Hiといえば、1985年に登場した個性派スポーツスクーター。レッグスペースからリヤにかけてキュッと跳ね上がった“ハイヒップ・シェイプ”が特徴で、軽量な車体に元気な50cc空冷2ストエンジンを搭載していた。
テレビCMではポップなイメージも強かったHiだが、このウォルターウルフカラーだけは別格。ブラックボディに赤い差し色、ゴールドのロゴとホイールを組み合わせた姿は、レーシングマインド溢れる硬派な雰囲気をまとっている。小さなスクーターなのに、妙に男前。そこがたまらない。

黒×赤×ゴールドのウォルターウルフカラーをまとったスズキ・Hi。小さなスクーターながら、ガンマ系にも通じる硬派な雰囲気を漂わせる。

Hiらしいハイヒップ・シェイプがよく分かるサイドビュー。前後10インチの小さな車体に、ウォルターウルフカラーがよく似合う。

CUSTOM DATA:カメレオンファクトリー製チャンバー/デッドストック系キャブレター/デイトナ製リヤショック/スーパーグリップ赤/ナポレオンミラー ほか
30年以上の時を越えて再会した、青春時代の相棒

オーナーは16歳の頃にHiに乗っていたというから、この車両は単なる懐かしいスクーターではない。青春時代をともに駆け抜けた相棒であり、走り出せば当時の記憶まで一気によみがえる特別な一台。
現在の車両は、30年以上の時を経て再び手に入れたもの。イベントの時や、気分が乗った特別な日に楽しんでいるという。毎日の足としてガンガン乗るというより、“今日はHiに乗りたい”と思った日に引っぱり出す。複数台を所有しているため、そういう付き合い方がちょうどいいのだろう。
気になるのは、サイドのウォルターウルフロゴ。できればデカールを一新したい気持ちもあるが、当時のまま残っている雰囲気も捨てがたい。オーナーは今もオークションをこまめにチェックし、使える絶版パーツやデカールを探し続けているという。とはいえ、かすれたロゴや年式相応のヤレ感も、このHiが過ごしてきた時間そのもの。ピカピカに戻すだけが正解ではなく、当時の空気をまとったまま残っていることにも価値がある。オリジナルを崩さず、今ある姿を大切にしながら楽しむ。そこにもオーナーの愛情がにじんでいる。

メーターにもウォルターウルフのエンブレムが入る。年式相応のヤレ感も含めて、この車両が歩んできた時間を感じさせる。

ステップボードには車名のロゴがデザインされている。こうした細部の遊び心も、昭和のファンキースタイルを感じさせるポイントだ。

ウォルターウルフロゴやSUZUKI HI-Wの文字が残る貴重な外装。あえて当時の雰囲気を崩さず維持しているところがポイントだ。
カメファク製チャンバー装着! ゴテゴテさせないのがこだわり

基本は“当時のまま”を大切にしているが、ただのノーマル保存車ではない。マフラーにはカメレオンファクトリー製チャンバーを装着。独特の取り回しとサイレンサーの存在感は、80Sスクーターカスタムらしいスパイスになっている。
リヤショックは、デイトナ製を採用してヒップアップ。さらに赤いスーパーバイク・グリップ、ナポレオンミラーなど、細部には当時っぽさを感じるパーツが使われている。いかにも80年代スクーターらしい軽さと遊び心がありながら、全体としてはゴテゴテしすぎていない。このバランスが良い。
オーナーが大切にしているのは、オリジナルの雰囲気を壊さないこと。ステッカーも貼りすぎず、派手に作り替えすぎず、あくまでウォルターウルフHiとしての姿を残す。カスタムしているのに、どこか当時のままに見える。そのさじ加減こそ、この車両の魅力だ。
80Sスクーターの楽しさは、速さや派手さだけではない。珍しい車両を探す楽しみ、絶版パーツを見つけるワクワク、当時の思い出を語れる時間、そしてエンジンをかけた瞬間に気分が若返る感覚。このHiは、そんな楽しさをまるごと抱えた一台なのだ。

当時から人気のデイトナ製リヤショックで、走り屋風のヒップアップスタイルを実現。プリロードはもちろん『最強』がお決まり!

ハンドルグリップは、当時ビッグバイクで人気のあった「スーパーバイクグリップ」を採用。ちなみにホーンスイッチ下に見えるレバーは始動用のチョークレバー。時代を感じる機構のひとつだ。
SPECIFICATIONS|スズキ Hi

全長:1575mm
全幅:615mm
全高:965mm
ホイールベース:1130mm
乾燥重量:48kg
エンジン:空冷2ストローク単気筒
総排気量:49cc
最高出力:6.5ps/6500rpm
最大トルク:0.72kgm/6000rpm
タイヤ:前2.75-10/後3.00-10
当時価格:10万9000円
※この記事は月刊モトチャンプ2021年3月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】