「速さ」だけではないスポーツカーの魅力を次世代へ!

日産は米国で2027年モデル「フェアレディZ」の価格を発表した。現地価格はSportが4万4480ドル(約728万円)、Performanceが5万4480ドル(約888万円)、そして最上級モデル「Z NISMO」は6万7260ドル(約1101万円、いずれも2026年7月下旬時点の為替レート換算)となっている。

日産 フェアレディZ NISMO

今回の改良では、これまで9速ATのみだったZ NISMOに待望の6速MTが追加されたほか、初代「240ZG」をオマージュしたフロントデザインや新色「ウンリュウグリーン」の採用など、内外装にも大きな変更が加えられた。一方、日本仕様の価格は現時点で公表されておらず、国内導入時にどのような価格設定となるのかにも注目が集まっている。

もっとも、注目すべきなのは価格そのものではない。今回の価格設定から見えてくるのは、日産がフェアレディZを単なるスポーツカーではなく、「ブランドを象徴する存在」として位置付け直そうとしていることだ。

日産 フェアレディZ NISMO

その背景には、市場環境の変化がある。長年ライバルとして競い合ってきたトヨタ「GRスープラ」は、国内向けモデルの販売を終了した。現行型GT-Rも生産を終え、国産の高性能FRスポーツは急速に選択肢が少なくなっている。

かつてはスープラやRX-7、シルビア、NSXなど、個性豊かなスポーツカーが各メーカーから販売されていた。しかし現在は電動化や環境規制の影響もあり、高性能モデルの多くがSUVや4WDへシフトしている。FRレイアウトに大排気量エンジンを組み合わせ、さらにマニュアルトランスミッションまで選べる国産車は、もはや数えるほどしかない。

その中でもフェアレディZは、3.0L V6ツインターボエンジンを搭載し、FRレイアウトと6速MTを組み合わせられる希少な存在である。そして今回、そのMTが最上級グレードであるZ NISMOにも設定されたことは、単なるグレード追加以上の意味を持っている。

近年の高性能スポーツカーでは、変速スピードやラップタイムを重視し、ATやDCTのみとするケースも珍しくない。そんな時代にあえてフラッグシップへMTを投入したことは、「運転を楽しむスポーツカー」というフェアレディZ本来の価値を守り続けるという、日産の意思表示とも受け取れる。

さらに今回の改良は、走りだけにとどまらない。デザイン面でも初代240ZGを思わせるロングノーズ風のフロントマスクやボディ同色グリル、新しい「Z」エンブレムなどを採用し、歴代モデルとのつながりをより強く意識した仕上がりとなっている。

日産 フェアレディZ NISMO

メカニズム面でも改良は細部まで及ぶ。Performanceグレードには大径モノチューブショックアブソーバーを採用したほか、燃料タンク内部の設計を見直すことで、高い横Gがかかるサーキット走行時でも安定した燃料供給を実現。Z NISMOの6速MT仕様には専用ショートシフターや強化クラッチを組み合わせ、さらにGT-Rで培われた技術を応用した2ピースブレーキローターも採用するなど、走りの質にも磨きがかけられている。

一方、今回発表された米国価格を見ると、Z NISMOは日本円換算で約1100万円という価格帯に達している。もちろん、日本仕様が同水準になるとは限らない。為替や装備内容、価格戦略が異なるため単純比較はできないが、少なくとも日産がフェアレディZを従来以上に高い付加価値を持つスポーツカーとして育てようとしている姿勢は見えてくる。

実際、現在の国産スポーツカー市場を見渡しても、フェアレディZと真正面から競合するモデルは多くない。GR86は軽量な自然吸気スポーツとして独自の魅力を持つが、3.0L V6ツインターボを搭載するフェアレディZとはキャラクターが異なる。GRスープラは国内販売を終え、GT-Rも生産終了を迎えた今、フェアレディZは日産だけでなく、日本のスポーツカーを象徴する存在としての役割を担うことになる。

その意味では、今回の改良は単なる年次変更ではない。MTを最上級グレードへ追加したことも、往年の240ZGを意識したデザインへ回帰したことも、「速さ」だけではないスポーツカーの魅力を次世代へ受け継ごうというメッセージと見ることができる。

電動化が急速に進む現在、自動車メーカー各社はハイブリッドやEVへの投資を加速させている。その流れのなかで、V6ツインターボエンジンを搭載したFRスポーツを継続すること自体が、以前にも増して大きな意味を持つようになった。

日本仕様の価格はまだ明らかになっていないが、今回の米国価格発表によって、フェアレディZが「手頃なスポーツカー」から「ブランドを象徴するスポーツカー」へと、その立ち位置を変えつつあることは確かだ。GRスープラが姿を消した今、その存在感はこれまで以上に大きくなりそうである。