連載

クルマ名付け学

FERRARI TESTAROSSA

「テスタロッサ」はイタリア語で「赤いヘッド」

1984年に誕生した「テスタロッサ」。
1984年に誕生した「テスタロッサ」。

低くワイドなボディと、ドアからリヤフェンダーへ伸びる特徴的なサイドフィン。1984年に登場した「フェラーリ テスタロッサ」は、その強烈なスタイリングとともに、「Testarossa」という印象的な車名でも知られている。その意味は意外なほどシンプルだ。イタリア語で「Testa(テスタ)」は「頭」、「Rossa(ロッサ)」は「赤い」を意味する。つまり「Testa Rossa」は、直訳すれば「赤い頭=赤いヘッド」である。

ただし、この名前が生まれたのは1984年ではない。そのルーツは30年近くさかのぼり、1950年代のレーシングカーにたどり着く。

始まりは1956年のレーシングカー「500 TR」

赤いヘッドカバーで知られた「フェラーリ 500 TR」。
赤いヘッドカバーで知られた「フェラーリ 500 TR」。

「Testa Rossa」という名称がフェラーリで初めて使われたのは1956年。レーシングカーの「500 TR」である。「TR」が「Testa Rossa」の頭文字で、その由来となったのがエンジンの赤いカムカバーだった。「テスタ ロッサ」という名の出発点は、エンジンの外観的な特徴をストレートに表したものだったのである。

500 TRは2.0リッター直列4気筒エンジンを搭載するレーシングカーだったが、Testa Rossaの名は翌1957年に登場する一台によって、フェラーリの歴史に深く刻まれることになる。

250 Testa Rossaが「赤いヘッド」の名を伝説に

「テスタ ロッサ」の名前が車名として初めて採用された「フェラーリ 250 テスタ ロッサ」。
「テスタ ロッサ」の名前が車名として初めて採用された「フェラーリ 250 テスタ ロッサ」。

1957年に登場した「250 Testa Rossa」は、3.0リッターV12エンジンを搭載。「250」は当時のフェラーリで用いられていた命名法に基づき、1気筒あたりの排気量がおよそ250ccであることを示す。そしてTesta Rossaは、先代500 TRから受け継いだ「赤いヘッド」の名だった。

250 Testa Rossaは耐久レースで数々の成功を収め、フェラーリを代表するレーシングカーのひとつとなる。こうしてTesta Rossaは単にエンジンの特徴を示す名称から、フェラーリのモータースポーツ史を象徴する名前へと変わっていった。

しかし、その名がすぐに市販スポーツカーへ受け継がれたわけではない。「Testa Rossa」の名はレーシングカーの歴史に刻まれたまま、しばらく表舞台から姿を消すことになる。

1970年代の主役は「BB」、そして1984年のテスタロッサへ

F1マシン由来の12気筒ボクサー・エンジンを搭載した「ベルリネッタ・ボクサー(BB)」シリーズの始まりとなる「365 GT4 BB」。
F1マシン由来の12気筒ボクサー・エンジンを搭載した「ベルリネッタ・ボクサー(BB)」シリーズの始まりとなる「365 GT4 BB」。

「Testa Rossa」の名が再び表舞台に登場する間に、フェラーリのロードカーは大きく進化していた。1971年、フェラーリはF1マシン由来の12気筒ボクサーエンジンを搭載した「ベルリネッタ・ボクサー(BB)」シリーズの始まりとなる「365 GT4 BB」を発表。1976年には排気量を約5.0リッターに拡大した「512 BB」が登場する。

折しも日本では「スーパーカーブーム」が到来。「ランボルギーニ カウンタック」などと並び、512 BBもフェラーリを代表するスーパーカーとして人気を集めた。つまり、この時代のフェラーリの主役は「テスタロッサ」ではなく「BB」だった。テスタ ロッサというモデル名はすでに存在していたものの、後に知られるロードカーの「テスタロッサ」はまだ登場していない。

512 BBは1981年に燃料噴射装置を採用した「512 BBi」へと進化。そして1984年、その後継モデルが登場する。フェラーリが新しいロードカーに与えたのは、BBの名ではなかった。選ばれたのは、かつてレーシングカーで名声を築いたTesta Rossaだったのである。

「Testarossa」としてロードカーに復活

2つの言葉を繋げ、「テスタロッサ」としてデビューしたのは1984年のことだった。
2つの言葉を繋げ、「テスタロッサ」としてデビューしたのは1984年のことだった。

1984年のパリ・モーターショーで発表された512 BBiの後継モデルには、「Testarossa」という車名が与えられた。1950年代の「250 Testa Rossa」では「Testa」と「Rossa」が2語に分かれ、数字と組み合わせられていた。それに対して1984年のロードカーでは、2つの言葉をつなげた「テスタロッサ」が単独で車名となった。

フェラーリは当時このモデルについて、栄光ある名称の復活であり、同時に初めて数字を伴わない形で使われたモデル名称であると説明している。1950年代のレーシングカーで生まれた名前が、約30年後にロードカーの名称として復活したのである。

1984年型にも受け継がれた「赤いヘッド」

1984年のテスタロッサは、過去のレーシングカーから単に名前だけを借りたわけではない。リヤミッドに搭載された4.9リッターV12エンジンにも赤く塗装されたカムカバーが備わり、「赤いヘッド」という名前の由来が視覚的にも受け継がれた。

ピニンファリーナが手がけたボディには、リヤに配置されたラジエターへ空気を導く大型のエアインテークを設置。それを覆う水平のフィンが独特のスタイルを生み出した。テスタロッサはこうして、かつてレーシングカーを飾った名前を受け継ぎながら、1980年代を象徴するスーパーカーのひとつとなった。なお、1991年にはフェラーリが「テスタロッサの発展形」と呼ぶ「512 TR」が登場した。

約70年を経て「849 テスタロッサ」へ

2025年にPHEVとして復活した現代のテスタロッサ。
2025年にPHEVとして復活した現代のテスタロッサ。

2025年、フェラーリは「SF90 ストラダーレ」の後継となるプラグインハイブリッドスーパースポーツ「849 テスタロッサ」を発表した。ちなみに「849」の「8」はV8エンジン、「49」は1気筒あたり499ccの排気量に由来する。かつての250 Testa Rossaと同じように、エンジンの構成や排気量を車名に反映するフェラーリ伝統の命名法を現代的に取り入れたモデル名といえる。

エンジンの一部を彩った「赤」から生まれた名称が、約70年を経てなおフェラーリのモデルに与えられている。「テスタロッサ」とは、単に1980年代のスーパーカーを表す名前ではない。レーシングカーのエンジンから生まれ、モータースポーツで名声を獲得し、ロードカーへ、そして現代へと受け継がれてきた、フェラーリの歴史そのものを映す名前のひとつなのである。

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