連載
クルマ名付け学PORSCHE 911 CARRERA
「911」は開発番号「901」から始まった

1964年の誕生以来、世界を代表するスポーツカーとして進化を続けてきた「ポルシェ 911」。その卓越した走行性能や美しいスタイリングは広く知られているが、「911」という数字や、「Carrera(カレラ)」という名称にも、ポルシェの歴史が刻まれている。実は911は、開発当初からこの名前だったわけではない。またカレラも、単にスペイン語で「レース」を意味する言葉ではない。2つの名前は、それぞれ異なる歴史を歩みながら、現在ではポルシェを象徴するブランドネームへと成長した。
1963年に発表された「356」の後継モデルは、当初「901」という名称だった。この901は、ポルシェ社内で使われていた開発番号である。ポルシェでは創業当初から、すべての開発プロジェクトに番号を割り当てており、356や「550スパイダー」も開発番号がそのまま車名になったモデルだった。
356の後継車を開発する際、ポルシェは将来的なフォルクスワーゲンとの協業も見据え、当時まだ使われていなかった900番台を採用する。6気筒モデルには「901」、続いて計画されていた4気筒モデルには「902」という開発番号が与えられた。
プジョーとの商標問題

ところが、市販直前になって思いがけない問題が発生する。プジョーが1929年以来、「0」を挟む3桁の数字を車名として使用しており、フランスでは同様の数字配列に関する権利を保有していると主張したのである。そこでポルシェは、中央の「0」を「1」に変更し、「911」として発売することを決定した。
当時は商標問題を回避するための応急的な対応に過ぎなかった。しかし、偶然生まれた「911」という数字は、その後60年以上にわたって受け継がれている。現在でも開発番号は「964」「993」「996」「997」「991」「992」と世代ごとに変わっている。それでも正式な車名は一貫して911のままである。開発番号から生まれた名前は、ポルシェブランドそのものを象徴する存在へと成長した。
カレラは伝説のレースから始まった

一方、「カレラ」はスペイン語で「レース」や「競争」を意味する。その由来は、1950年代にメキシコで開催された長距離耐久公道レース「カレラ・パナメリカーナ」である。ポルシェは550スパイダーでこの過酷なレースに挑み成功を収めた。その栄誉を記念してカレラという名前がポルシェの歴史に刻まれることになる。
最初の「カレラ」はエンジン名


興味深いのは、カレラが最初から車名として使われたわけではないことである。ポルシェはまず、高性能な「Type 547」4カムシャフトエンジンにこの名を与えた。このエンジンは、550スパイダーで培われた技術を市販車へ展開した象徴的な存在だった。
翌1955年には、このエンジンを搭載した「356 A 1500 GS カレラ」が誕生する。一見すると複雑な車名だが、それぞれに意味がある。「356」は社内開発番号を受け継ぐモデル名、「A」は改良型シリーズ、「1500」は1500ccの排気量、「GS」は「Grand Sport(グランドスポーツ)」を表す。そしてカレラはレースで培われた技術を受け継ぐ高性能モデルであることを示す。
その後ポルシェは、「911 カレラ RS 2.7」のように、高性能モデルにこの名前を与えるようになる。つまりカレラは、レース名からエンジン名へ、エンジン名から高性能モデルの称号へと発展していったのである。
現在では911シリーズの代名詞に

現在の911シリーズは、大きくカレラ、タルガ、ターボ、GT3といったモデル群で構成されている。その中でカレラは、シリーズ中核のモデルだ。標準仕様の911 カレラをはじめ、カレラ T、カレラ S、カレラ GTSなどの派生モデルが展開され、四輪駆動仕様には「4」の名称が与えられる。なお、Targaは独特のルーフ構造を持つモデル、Turboは圧倒的な動力性能を備えたモデル、GT3はサーキット走行を強く意識したモデルというように、それぞれ異なる個性を持つ。
車名の由来を知ると、一見シンプルに見える「911 カレラ」という名前の背景に、ポルシェの開発思想やモータースポーツへの挑戦、そして60年以上にわたって受け継がれてきたブランドの歴史が凝縮されていることが見えてくる。

