Porsche 911 GT3
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Porsche 911 GT3 Touring Package
厳しい排ガス規制を受け、初のデチューン

「ポルシェ911 GT3」。その名はわれわれクルマ好きにとって、特別な響きを持っている。ポルシェである以上に、そして911である以上に。その名前を聞くだけで微かな緊張が体を駆け巡り、同時に心を大きく揺さぶられる。そんなポルシェ珠玉のピュアスポーツが、遂に最新世代となる992II型へとアップデートを果たした。
とはいえ、今回ばかりは期待するだけではいられない。ポルシェの公式発表によれば、その要となる4.0リッターのフラットシックスは、厳格化するユーロ6eの規制を受けて、とうとうデチューンされたからだ。
今回のハイライトは、まさにここにある。避けては通れない環境性能に対応した結果の出力低下を、ポルシェがどうやって克服してきたのか。その進化ならぬ“真価”を、日本に上陸したての新型「911 GT3」だけでなく、「911 GT3ツーリングパッケージ」をも交えて、真正面から確かめてみることとなった。


その舞台となったのは、本誌にとっても定番のテストコースとなった「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」だ。そう、すべてのモデルが最新世代へとアップデートされているPEC東京なら、あなたも992II型のGT3シリーズを体験できるというわけである。
数々のRS譲りとなるパーツを装着

「好物は真っ先に食べる」を信条とする筆者は、まず最初に911 GT3を選んだ。PEC東京の流儀に従って、インストラクターのエスコートで右ハンドルの運転席に収まる。キータイプのスタータースイッチをひねると、重低音と共にフルデジタル表示でメインモニターが起動した。またそのサウンドは、4つの触媒と2つの微粒子フィルターを得たからだろうか、どことなく遮音が効いていた。個人的にはあの“つんざく”ような初爆よりも好みだ。
ウォームアップを兼ねて、隣に座る大谷飛雄インストラクターの説明に聞き入る。エンジンパワーは変わらず510PSだが、回転数は100rpm上がった8500rpmで、レブリミットも9000rpmのまま。対するトルクは20Nmダウンの450Nm/6250rpmとなった(回転数は150rpmアップ)。
アクセルの“ツキ”は、すこぶる柔軟。プラシーボ効果が働いたのか、確かにトルクが薄くなった気もするけれど、むしろ洗練も帯びた感じだ。その立役者は、8%加速重視となったファイナルギヤだ。さらに「RS」譲りのハイカムが奢られ、ECUもアップデートされた結果、抜け感までもが良くなっている気がする。
さらにはその足つきが、とてもしなやかだ。「GT3」に乗り心地など問うなと言われそうだが、縁石を乗り越えた瞬間や、「カルーセル」を通過したときの当たりが実にいい。



資料をひもとけば、そのストロークはバンプラバーのカットによってフロントで27mm、リヤで24mm拡大されているという。992I型GT3は超絶リニアで剛直な操舵フィールを示していたが、あれはフロントにダブルウィッシュボーンを採用しただけでなく、バンプタッチの影響も大きかったのかもしれない。
さらに992II型では、そのウィッシュボーンが、RSに採用されたティアドロップ型となり、タイヤハウス内の乱流を整えている。外観では補助灯をヘッドライトに統合することでバンパー形状を変更し、ブレーキ冷却性能と共にダウンフォース量を向上。フロントリップスポイラーやリヤウイングのエンドプレート、ディフューザーのフィン形状も改良し、前後バランスを整えている。ダウンフォース量の数値的な増加を謳っていないのは、ただでさえ規制対応で出力が落ちている状況で、その上ドラッグをも増やして、加速性能や最高速が落ちるのを嫌ったからか。ちなみに0-100km/h加速は7速PDKで3.4秒、6速MTで3.9秒と、新旧変わりない。
そんな911 GT3のエンジンを9000rpmまで引っ張りきった加速は、最高のひと言だ。室内に反響する高音のユニゾンサウンドはやや丸みを帯びたが、その緻密さを理性をもって味わえるようになった。ちなみに排気系の追加で増えた重量に対しては、標準のアルミホイールで先代比1.5kg、オプションのマグネシウムホイールで9kgもの軽量化を行い、運動性能を高めた。
またヴァイザッハパッケージを選ぶことで、外観ではルーフやリヤウイング、サイドミラーシェル、インテリアではロールケージ、シャシーではスタビライザーやカップリングロッド、リヤアクスルのシアーパネルがカーボン製に。さらにはリチウムイオンバッテリーを40Ahに小型化して4.5kgとし、その車重を先代比2kg増の1420kgに収めた。





空力性能の最適化に応じて、ドライビングも少し変わった。大谷インストラクターの指示に合わせて、それまでガッツリと踏んでいたブレーキをじわりと掛けて、レイク(前傾)させ過ぎずフラットにアプローチ。すると新型911 GT3は、路面に張り付く感覚を伴ってコーナーをターンするようになった。フロントアクスルのロワ・コントロールアームはピボット位置が変更され、ハードブレーキング時でもダイブをキャンセルしてくれるジオメトリーになったが、それを超えてレイクさせてはいけないというわけだ。
またシャシーバランスが最適化されたおかげで、後輪操舵の制御も意識できないほど洗練された。クリップの手前で向きを変え、トラクションを活かして立ち上がる911ならではの走りは、より高い次元で現代化されたと言える。恐らくこの後には「RS」が登場するはずだが、果たして進化の余地は、どれほど残されているのだろう? そう思えるほど新型911 GT3は良くなった。
ツーリングパッケージの真価はシャシーにあり

これだけホットな時間を過ごしたあとだと、よりプリミティブなツーリングパッケージの試乗が色褪せてしまわないかと思ったが、それこそまったくの「余計なお世話」だった。



911 GT3から巨大なリヤウイングを取り去った、シンプルな外観。標準の可動式ウイングにはガーニーフラップが装備され、形状こそ似ているが、フロントリップも空力バランスが最適化されているらしい。
試乗前は空力性能をドロップしたボディで510PSのGT3ユニットを、しかもマニュアルトランスミッションを駆使しながら走らせることに若干の不安を抱いていた。しかしいざ走らせればそれは、まさに古き良き世代を知るファンにとっての「至高の911」だった。
スプリングレートは911S/Tと同等とのことで、なおかつダウンフォース量にも差があるから、911GT3と較べて明らかにロール量は多い。しかしながらそのロールスピードはすこぶる上質に管理されており、タッチの確かなブレーキを踏み込み、これを緻密にリリースしながら姿勢を作るのが実に楽しい。





GT3シリーズ全体で選べるようになった6速MTは、まさにツーリングパッケージのための装備だ。シフトストローク量は最適で、ゲートの感覚も明瞭。リンケージを押し込む手応えには適度な重さがあり、ペダルを離せばシングルマスのクラッチが切れよくつながる。「スポーツプラス」モードを選べばオートブリップ機能が加わり、高い減速Gの中で正確に操作することができる。
それまで筆者はツーリングパッケージに、「GT3のエンジンをマニュアルシフトで嗜む911」というイメージを抱いていた。しかし992II型は、ウイングレスでも本気で走らせることができる。それこそがシャシー性能の洗練で得た賜物だ。ちなみにPEC東京のコースは一般道に等しい路面μだから、乗り心地までは言及できないが、ワインディングでもこの感触は得られるはずだ。
自分はいま、911にどう向き合うのか

911 GT3は速くなりすぎた。カレラTこそストリートの最適解だと思っていた筆者だったが、どうやら考えを改める必要がありそうだ。
となるとピュアスポーツであるGT3とツーリングパッケージ、手に入るかは別にして、どちらが魅力的なのかを考えてしまうわけだが、これを結論付けるのは難しい。
それは「速さか、楽しさか」という単純な二元論ではなく、あなたの911への向き合い方が大きく関係してくるだろう。個人的には半世紀をとうに超えた自分の年齢を考えると、その純度の高い刺激をラップタイムに捕らわれず、かつ古典的な走りで楽しめるツーリングパッケージが理想に近い。今回から初採用されたリヤシートのオプションは、その名の通りツーリングの可能性を大きく高めてくれる。リクライニング式となったカーボン製フルバケットシートを前傾させ、フラットに倒したリヤシートに荷物を放り込めば、その行動範囲は大きく広がる。
軽量化が無言の命題である「GT3」というブランドにおいて、リヤシートを取り付ける行為は愚行そのものかもしれないが、その“抜け感”を楽しむのもツーリングパッケージの醍醐味だ。ちなみに後部座席にも座ってみたが、それはハッキリとお勧めしない。
かたやストイックさを貫くなら、GT3は911の本質であり本流だ。「RS」が登場すればなんだかんだと“その上の世界”を見せつけられることにはなるのはポルシェの常だが、まずは992II型の進化が、純粋にあなたを虜にするはずだ。
どちらを選ぶにせよ、このガソリン世代末期に、自然吸気のGT3を延命させたポルシェには感謝しかない。間違いなく992II型911 GT3とツーリングパッケージは、時代を締め括るに相応しい選択肢のひとつである。
PORSCHE EXPERIENCE CENTER TOKYO
ポルシェ・エクスペリエンスセンター(PEC)東京でGT3に試乗できる!


今回試乗を行ったのは千葉県木更津市にあるポルシェ・エクスペリエンスセンター東京。その全長2.1kmのコースでは、21歳以上で有効な運転免許証があれば、誰でも最新のポルシェ車に試乗することができる。ちなみに911 GT3の場合、パーソナルドライビングコーチが付き90分間じっくり楽しんで13.4万円(取材時)。「911 GT3 vs 911ターボS」など、興味深い比較プログラムも提供されている。詳細や予約については下記HPをご覧いただきたい。
https://porsche-experiencecenter-tokyo.jp/
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2026年6月号
SPECIFICATIONS
ポルシェ911 GT3
ボディサイズ:全長4570 全幅1870 全高1280mm
ホイールベース:2457mm
車両重量:1490kg
エンジン/モーター:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:375kW(510PS)/8500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/6250rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35ZR20 後315/30ZR21
0-100km/h加速:3.4秒
最高速度:311km/h
車両本体価格:2868万円
ポルシェ911 GT3 ツーリングパッケージ
ボディサイズ:全長4570 全幅1870 全高1280mm
ホイールベース:2457mm
車両重量:1470kg
エンジン/モーター:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:375kW(510PS)/8500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/6250rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35ZR20 後 315/30ZR21
0-100km/h加速:3.9秒
最高速度:313km/h
車両本体価格:2868万円
【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

