セダンに見えてハッチバック。ボルボのフラッグシップ・クロスオーバー
ボルボは電気自動車(EV)のフラッグシップ・クロスオーバー「ES90」を2026年7月に発売した。同時期にフラッグシップSUVの「EX90」を発売しており、両者は技術の多くを共有する。
EX90はSUVの王道的なスタイルをしているが、ES90はちょっとユニークだ。わずかだがリヤにデッキがあって3BOX風に見えるし、ルーフラインの傾斜は緩やかでクーペ風にも見える。フロントのオーバーハングは短く、リヤも短くてFR的なプロポーションにも見える。
実はES90、従来の型に収まらない。セダンのように見えるが、独立したトランクを持たずハッチバックだ。テールゲートを開けると広大なラゲッジルームが出現する。電動リクライニングが可能なリヤシートを最も後ろにした状態で荷室容量は409L。40/20/40の分割可倒式シートをすべて折りたたむと、ほぼフラットになってワゴン並みの空間が手に入る。



ES90の最低地上高はサスペンションの仕様によって異なり175〜190mmだ。いずれにしても、いわゆるセダンやワゴン型のクルマより地面からフロアまでの距離があり、水たまりやラフロードを走らざるを得ないようなシーンでの安心感につながる。全高は1545mmだ。SUV然としたマツダCX-30の全高が1540mmと聞くと、両者のスタイルの違いに当惑を禁じ得ない。
ES90は長い全長(5000mm)を活かして流麗なプロポーションを実現している。写真で見ても、実物を前にしてもスタイリッシュだ。車高が国産クロスオーバーSUV並みに高いおかげで運転席に着座した際のアイポイントは意外と高い。腰の位置にもよるだろうが、シートの位置はそこまで高くないので運転席に上がり込む感じにはならないし、背の低いクルマにありがちな落とし込む感じでもなくちょうどいい。乗り降りがものすごく楽だ。アイポイントが高いのでちょっとばかり見下ろす感覚になり、運転時のストレス軽減につながっているように感じた。
後席は広々としている。センタートンネルがなくフラットなフロアが広々感を強調しているように感じた。足元のスペースも頭上のスペースもたっぷりだ(筆者の身長は184cm)。残念ながら後席での移動は体験できていないが、安らかな気分で過ごせそうなムードを感じとることができた。99.9%UVカット付きパノラマ・ガラスサンルーフは標準装備。試乗車は電気調光仕様となっており、14.5インチのセンターディスプレイ上での操作でクリア(空がはっきり見える)とフロスト(くもりガラス状になる)を切り換えることができる。


10分ちょっとの充電で航続距離は約131kmも増加。大容量バッテリーと高出力充電対応は心強い
ES90にはリヤにモーターを搭載するシングルモーター仕様(2グレード、979〜1129万円)とフロントにもモーターを搭載するツインモーター仕様(1グレード、1229万円)がある。試乗車はツインモーター仕様(Ultra Twin Motor Performance)だった。これまでのところ、販売の7割は最上級のツインモーター仕様だそう。パフォーマンスの高さと充実した装備を考えたらツインモーター仕様を選択したくなるということのようだ。
ツインモーター仕様のシステム最高出力は500kW(680ps)、最大トルクは870Nmである。車重は2560kgもあるが、0-100km/h加速を4.0秒でクリアする実力を備えている。試乗日はあいにくヘビーウエットだったので実力のすべてを解き放つ機会は得られなかった(というか自重した)が、高速道路の走行車線で遅いクルマに引っかかったときの追い越しが極めて楽ちんだったことを報告しておく。
楽だったというより、爽快だった。普段なら「出口まであと2kmだからこのまま後ろについて我慢するか」となるところだが、ES90ならためらうことなく追い越しをかけることができる。このとき、エンジン車ならギヤを1段か2段落としてエンジン回転を上げるところだが、高出力・高トルクEVのES90ならその必要はなく、アクセルペダルをほんの少し踏み増すだけで充分。高い静粛性を保ったまま、スーッと加速して対象車両をやり過ごし、スマートに走行車線に戻ることができる。一貫して静かなのがいい。
ちなみにツインモーター仕様の場合、通常はリヤモーターのみで駆動。ドライブモードで「Performance」を選択すると常時4WDになる。ドライブモードは他にStandard、Range、Off-roadがある。停車中はタッチディスプレイのアイコンを何度か押す必要があるが、走行中は画面下部に常にアイコンが設置されているので、ワンタッチで切り替えが可能。アクセルペダルを離したときの回生ブレーキの強弱(Low/High/Off/Auto:センサーを使い、先行車を検知しながら強弱を自動制御)も同様だ。
追い越しが楽と言いながら、高速道路のほとんどの区間で次世代パイロットアシスト(いわゆるアダプティブクルーズコントロール+車線維持支援機能)のお世話になった。右レバーのシフトセレクターを押し下げるだけでオンになる。先行車に近づいたときの減速の仕方や、先行車がいなくなって設定車速まで加速する際の振る舞いが上手でストレスフリー。天下一品の制御である。
ツインモーター仕様のバッテリー容量は106kWhだ。WLTCモードの一充電走行距離は720kmである。先に伝えておくと、今回の試乗では349km走行し、メーターが表示する電費は17.3kWh/100kmだった。kWhあたりの電費は約5.8km/kWhとなる。



プラットフォーム/電動系システムはEX90と共通で、最新のSPA2プラットフォームと800Vの高電圧システムを採用している。400V級のシステムが一般的なので、電圧は倍。何がいいかというと、ひとつには充電性能が高い。スペック的には最大350kWのDC(直流)急速充電に対応している。
東名高速・海老名SA(上り)に一口最大出力350kWの超急速充電器が導入され稼動を開始したということだが、あいにく北関東方面にルートを選択したので350kW器は試すことができず、最大240kWのFLASH充電器が設置してあるオートバックス真岡店(栃木県)に立ち寄った。e-Mobility Powerの充電カードには対応しておらず、支払いはクレジットカードまたはQRコードに対応。料金は従量制でkWhあたり44円である。
約11分で22.6kWh分の電気エネルギーを充電した。大ざっぱな計算だが、平均約123kWの出力で充電できたことになる。バッテリー残量は60%から80%まで回復。今回のトリップでの平均電費は約5.8km/kWhなので、10分ちょっとの充電で約131km走れるだけのエネルギーを補充できたことになる。航続距離たっぷりの大容量バッテリーと高出力充電対応は心強い(整備は着々と進んでいるようだが、超急速充電器の普及はまだまだな印象)。


Bowers & Wilkins(B&W)のハイフィディリティ・オーディオシステムを堪能することができたのも、今回の試乗での収穫だった。前後左右だけでなく頭上にも音を割り当てることで実現する3Dサラウンドサウンドを提供してくれる。スピーカーはなんと25基。センターディスプレイでは親密/オープン/元気/ワイドの各モードに切り換えることが可能。例えば「親密」はマイクの絵で示されているので、ボーカルが間近に聞こえるのかな?と、モードのイメージがつきやすい。
大きな特徴は「アビーロード・スタジオ(Abbey Road Studio)」モードを備えていること。蛇足ながら説明しておくと、ロンドンにあるアビーロード・スタジオはザ・ビートルズが数々の名盤をレコーディングしたことで知られる。操作は停車中に限られるが、プロデューサーモードを選択すると、音場やトーンを好みの状態に調節することが可能。ポインターを動かすとグラフィックが変化するので音のイメージがつかみやすい。


音を調節する楽しさもさることながらB&W、基本的に音がいい。パイロットアシストでもそう思ったが、これも天下一品である。筆者はいろんなクルマのいろんなオーディオを聴いているが、ボルボES90のB&W、久々に「これはいい」と感動した(同じシステムを搭載するEX90もきっといいはずである)。いいオーディオシステムに出会えたおかげで(?)、ES90に対する評価、爆上がりである。
| 車種 | ボルボES90 Ultra Twin Motor Performance |
| 全長 | 5000mm |
| 全幅 | 1940mm |
| 全高 | 1545mm |
| ホイールベース | 3100mm |
| トレッド前/後 | 1665mm/1655mm |
| 乗員人数 | 5名 |
| 最小回転半径 | 5.9m |
| 最低地上高 | 175mm |
| 車両重量 | 2560kg |
| 駆動方式 | 4WD |
| Fモーター種類 | 非同期電動機 |
| Fモーター最高出力 | 220kW(299PS) |
| Fモーター最大トルク | 390Nm(39.8kgm) |
| Rモーター種類 | 永久磁石同期電動機 |
| Rモーター最高出力 | 280kW(381PS) |
| Rモーター最大トルク | 480Nm(48.9kgm) |
| システム最高出力 | 500kW(680PS) |
| システム最大トルク | 870Nm |
| 0-100km/h加速 | 4.0秒 |
| バッテリー種類 | リチウムイオン電池 |
| バッテリー総電圧 | 718V |
| バッテリー総電力量 | 106kWh |
| 交流電力量消費率(WLTCモード) | 165Wh/km |
| 一充電走行距離(WLTCモード) | 720km |
| トランスミッション | 1速固定式 |
| 最終減速比 | 9.79 |
| サスペンション | 前:ダブルウィッシュボーン式 後:インテグラルリンク式(電子制御式4輪エアサスペンション) |
| タイヤサイズ | 前255/40R22 後285/35R22 |
| 価格 | 1229万円 |







