PHEVのXC90と同等の価格(1199万円〜)を実現した戦略価格も注目

ボルボの新たなフラッグシップSUV、EX90が発売された。3列シート7人乗りの電気自動車(EV)である。3つあるグレードすべてがフロントとリヤにモーターを搭載するツインモーターで、メーカー希望小売価格は1199万円(税込)からとなる。

7月8日に日本での発売が始まったボルボEX90。今回の試乗車は最上級グレードのUltra Twin Motor Performanceで、価格は1399万円。
凹凸を極力減らしたフラッシュサーフェイスデザインは、空気抵抗と風切り音の低減に効いている。リヤには縦型テールランプを現代的に再解釈したデザインを採用する。

一方で、EV走行換算距離73kmのXC90 Ultra T8 AWD Plug-in hybridの価格は1294万円。「プラグインハイブリッド車(PHEV)を買ってみた。自宅に充電設備を設置した。ある程度の期間付き合ってみたが、よく考えたら日常的な使用でエンジンがかかることはほとんどなく、EV走行で済んでいる。だったらPHEVではなくEVでいいのでは? いやむしろ、EVのほうがいまの生活に合っているし、生活の質が向上するのではないか…」 EX90はそう思ってもらえるような競争力のある値付けにあえてしているという。

もちろん、既存のXC90 PHEVのオーナーだけがEX90のターゲットではない。ボルボといえば以前から安全性の高さに定評があり、購入理由のひとつに挙げられてきたという。最近は安全性の高さに加えデザイン性の高さで選ばれるケースが増えてきているそう。デザインの観点、それもスカンジナビアン(北欧)デザインの観点で選ばれるというのだ。

ボディサイズは全長5035mm×全幅1965mm×全高1740mm(Plus Twin Motorは全高1745mm)、ホイールベースは2985mm。堂々たる体躯だが、見切りがいいので運転していて意外と大きさは気にならない。
フロントグリルはEVらしいシールドデザインとなっており、ミリ波レーダー、360度カメラ、超音波センサーを外観上目立たないように内蔵している。
EX90はEV用の新プラットフォーム「SPA2アーキテクチャー」を採用。ボルボ初のソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)でもある。

EX90は安全性、デザイン、どちらの観点でもお眼鏡にかなうはずだ。安全性の面では実際の機能よりもむしろ、シートベルトのタングプレートに刻まれた「SINCE 1959」の文字に気持ちを持っていかれる気がする。この年、ボルボは小型乗用車のPV544において世界で初めて3点式シートベルトをフロント席に採用し、特許を無償公開した。安全性に関する感度が極めて高く、技術開発を惜しまない姿勢と矜持がSINCE 1959の文字に現れている。

妥協のない安全性能へのこだわり。それだけでもボルボを選ぶ価値がある

EX90にはいくつもの最新の安全技術が適用されている。「ドライバー・アンダスタンディング・システム」がそのひとつ。メーターの付け根とセンタースピーカーの付け根にカメラがあり、ドライバーの眼球やまぶたの動き、頭の動きをモニター。これらの視覚情報に加えステアリングホイールの静電容量センサーからの情報を組み合わせ、ドライバーが注意散漫になったり、眠気を感じたり、操作から離れた状態などを検知し、運転へ集中するよう音声とメッセージの表示で通知する。また、異常を検知した際は衝突回避システムの作動を調整し、早い段階で警告や介入を行なう。

ボンネット内には34Lのフロント・ロードコンパートメントを備える。ボンネット裏の設計を変更したことで、独立したリッドを持たない構造となった。

先進運転支援システムでは、同一車線上を走る歩行者、自転車利用者、スクーター利用者などに追い付き、かつドライバーが一瞬目を離すなどしてそれらに気づかなかった場合、システムが介入して車線を越えない範囲で回避操作を行なう。発生すると深刻な状況に陥りがちな対向車と衝突しそうなシーンでは、衝突が避けられない場合にブレーキが自動的に作動し、車速を最大で15km/h低減する。さらに、前席乗員を保護するためにシートベルトを電気的に巻き取り、乗員を最も有利な姿勢にする。運動エネルギーは速度の二乗に比例するので、衝突時に少しでも車速を低減しておくことが肝要。その意味で、万が一の際に頼りになる機能だ。

安全技術について紹介していくとキリがないので、あとひとつだけ紹介して次の話題に移ることにしよう。お知らせしておきたいEX90の安全機能は、「オキュパントセンシングシステム」だ。いわゆる、置き去り事故防止機能である。車内に計6個設置された60GHzのミリ波レーダーが車内にいる生き物(人間やペット)を検知。呼吸による胸の動きから、生き物であることを検知するという(1mm以下の動きを検知可能)。

Ultra系にはエレクトロクロミック機能付きパノラマ・ガラス・ルーフを標準装備。
調光すると乳白色に変化し、日差しを和らげる。

車内に人や動物が残っている場合は、ドライバーが降車してロックしようとしても拒絶され、センターディスプレイに車内確認を促すリマインダーが表示される。また、Volvo Cars appに通知が送信される。それでも車内に人や動物が残された場合は、高電圧バッテリーに残量がある限り空調システムが作動し続ける。悲しいかな夏になると繰り返される悲惨な事故を減らしたいという安全技術担当者の願い、ボルボの思いが詰まった機能である。

ボルボの安全の考え方について付け加えておくと、1列目、2列目の乗員に関しては安全に関する法規が存在する一方でで、3列目のシートについては明確な法規が存在しないのだという。なので、どんな状態であっても誰にとがめられることもない。しかしボルボは、乗員を乗せるからには1列目、2列目と同等の安全性を担保する必要があるし、それがメーカーの責任であると考え、EX90の3列目を設計したという。ただし空間容積の都合から、快適に座ることができるのは「身長170cmまで」としている。

Ultra系グレードは電動バックレスト・サイドサポートとリラクゼーション機能も標準装備する。
3列目は身長170cmまでの2名が快適に座れる設計。ボルボは3列目についても1列目と同じ社内安全基準に基づいて衝突実験を実施しているという。
2列目は40:20:40の3分割可倒式で、前後独立スライド機構も備える。折りたたみ式アームレストとカップホルダーも備わり、長距離移動も快適。

スカンジナビアンデザインについては見てのとおりだ。近年のボルボ車の例に漏れず、ほれぼれするような見た目である。ゴテゴテしておらず、シンプル。ドイツ車ほど自己主張は強くなく(そこがいいと感じる向きもいることだろう)、存在感はしっかりある。

機能一辺倒で真面目だけが取り柄のクルマでないことは、トールハンマー形状のデイタイムランニングライトが示している。ヘッドライトを点灯するとトールハンマーが上下に分かれて、代わりに間からヘッドライトが現れて点灯する。そのギミックがかつてのリトラクタブルライトや、SFアニメや特撮もののロケット機発進シーンを連想させ、一部の年代の一部の層(つまり筆者だが)には刺さる気がする。

ボルボの象徴であるトールハンマー形状のデイタイムランニングライト。
ヘッドライトを点灯すると、トールハンマーが上下に分かれ、間からヘッドライトが現れる。光源は1.3メガピクセル(130万画素)のハイディフィニション・ピクセルLEDで、Ultra系に標準装備される。

機能一辺倒でないのは車内も同様で、北欧ムードたっぷりだ。シートは座り心地が快適なだけでなくシンプルなデザインと、視覚的に温かみを感じさせる素材の風合いがいい(試乗車のUltra Twin Motor Performanceはナッパレザー)。フロントシートはベンチレーション機能を備えており、猛暑が当たり前になった日本の夏を過ごすには大変ありがたい。

EX90のインストゥルメントパネル。ドライバーの正面には9インチのドライバーディスプレイ、センターには14.5インチの縦型タッチスクリーンを搭載する。

夜の試乗は体験できなかったので未確認だが、ダッシュボードや前後ドアパネル、フロントシート背面に組み込まれたウッドデコはバックライト付きで、スカンジナビアの家に着想を得た温かみのある光のパターンが浮かび上がる仕掛け。LEDのインテリアライティングはブルーライトを抑え、太陽光に近い波長とし、リラックス効果をもたらす。陰翳礼讃が日本的な光と陰の演出なら、ボルボEX90は高緯度に暮らす人々が慣れ親しんだ光の演出を車内に持ち込んでいる。

ウッドや樹脂などの素材のあしらいを含め、目に見える部分、手に触れる部分の何もかもがやさしく温かい。勝手な妄想だが、北欧で暮らす人々のリビングルームはかくあらん、と感じさせる素敵な空間である。

ダッシュボードや前後ドアパネル、フロントシート背面に組み込まれたウッドデコは、バックライト付き。反射層、透明アクリル層、本物の木材層の三層構造で、暗くなるとスカンジナビアの家に着想を得た温かみのある光のパターンが浮かび上がる。

ドアの開け閉めをしていて気づいたのだが、EX90は電磁ドアロックを採用している。レクサスのように派手な作動音はせず、動作音は控え目。電磁式であることに気づかず過ごす人も多いだろう。閉める際に意図せず半ドア状態になったとしても、モーターが自動的に引き込んでロックしてくれる。

ドライバーの目の前には9インチサイズのスクリーンがあり、運転に必要な最小限の情報をシンプルに表示してくれる。センターには14.5インチの縦型タッチスクリーン。さらに、XC90比で約4倍、13.2インチサイズ相当の表示領域を備えるヘッドアップディスプレイが備わる。ドライブモードやワンペダルドライブ、ステアリング操作感などの調整をはじめ、ドアミラーの角度調整などもタッチスクリーンで操作する。頻繁に使うハザードランプのスイッチはタッチスクリーンのほか、オーバーヘッドコンソールに配置されている。

9インチのドライバーディスプレイは3モードから選択できる。もっともシンプルな表示では、車速、航続可能距離、バッテリー残量、シフトポジションが並ぶ。
中央に自車のグラフィックを表示するモード。先進運転支援システムの状態がひと目で把握できる。
ディスプレイいっぱいにGoogleマップを表示するモード。ボルボは業界内でいち早くGoogleを導入したブランドのひとつで、EX90ではインフォテインメントにGoogleがフル統合されている。

物理スイッチの少なさを嘆く向きもあるかもしれないが、同様のインターフェースを持つEX30も含めて相当な時間付き合った経験から言えば、付き合ううちに慣れるし、ストレスを感じるほどではない。戸惑うのは最初だけ、の印象だ。

ボルボは業界内でいち早くGoogleを導入したブランドのひとつ。EX90に関する新たなニュースは、対話型生成AIのGoogle Geminiが年内に入ってくること。もちろん、日本語対応だ。

走っているときも、居心地のいいスカンジナビアのリビングルームそのもの

EX90は3グレードすべてがフロントとリヤにモーターを搭載するツインモーターであることは冒頭で触れたが、試乗車のUltra Twin Motor Performance(以下パフォーマンス)だけスペックが異なり高出力である。Plus Twin Motor、Ultra Twin Motorの最高出力が前130kW、後205kWなのに対し、パフォーマンスは前220kW、後280kWを発生。システム最高出力は500kW(680PS)に達し、0-100km/h加速を最速4.2秒でこなす。ポルシェ911カレラの0-100km/h加速が4.1秒だと記せば、その俊足ぶりが想像できるだろうか。650kmの一充電走行距離は全モデルで共通。バッテリー容量は106kWhだ。

680PSといえばレーシングカーも顔負けの高出力だが、それでアクセルワークに気を使うかというと、そんなことはない。俊足ぶりが顔を出すのは、アクセルペダルを一気に床まで踏み抜いたときだけだ(その際、同乗者にひと言断りを入れることをおすすめする)。周囲の交通の流れに合わせて移動する際はなんら気を使わない。見切りがいいのでクルマの大きさ(全長は5035mm、全幅1965mm)も気にならない。

Ultra Twin Motor Performance専用の5スポーク・エアロ22インチアルミホイール。タイヤはフロント265/40R22、リヤ295/35R22。Ultra系は電子制御式4輪エアサスペンション(デュアルチャンバー式)とFOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシーを標準装備し、ドライブモードや速度域に応じて車高と減衰力を自動調整する。

何より印象的だったのは、静粛性の高さである。特に回転するタイヤが地面を叩くときに発生するロードノイズが極めてよく遮断されており、ゴー音がほとんど耳に届かない。風切り音についても同様で、Ultra系のグレードではバックドアのウインドウを含め全周にアコースティックガラスを採用しているという。

静粛性の高さにフラットな乗り味(Ultra系はデュアルチャンバー式エアサスペンションを標準装備)も相まってEX90、止まっているときだけでなく、走っているときも、居心地のいいスカンジナビアのリビングルームそのものである(現地で実体験したわけではないが、疑似体験した気分に浸れる)。

3列目を起こした状態でも荷室容量は324L(VDA値)を確保している。
3列目はボタン操作で電動格納が可能。倒すと完全にフラットな床になり、荷室容量は697L(VDA値)に拡大する。
2列目まで倒せば最大2135L(VDA値)。2列目はほぼフラットな床となり、長尺物の積載にも対応する。
Ultra系にはBowers & Wilkinsハイフィディリティ・オーディオシステムを標準装備。ヘッドレストや天井を含むキャビン全体に25個のスピーカーを配置し、総出力は1610W。Dolby Atmosによる3D音場再現にも対応する。
車種ボルボEX90 Ultra Twin Motor Performance
全長5035mm
全幅1965mm
全高1740mm
ホイールベース2985mm
トレッド前/後1675mm/1665mm
乗員人数7名
最小回転半径5.9m
最低地上高210mm
車両重量2710kg
駆動方式4WD(電子制御AWDシステム)
Fモーター種類非同期電動機
Fモーター最高出力220kW(299PS)
Fモーター最大トルク390Nm(39.8kgm)
Rモーター種類永久磁石同期電動機
Rモーター最高出力280kW(381PS)
Rモーター最大トルク480Nm(48.9kgm)
システム最高出力500kW(680PS)
システム最大トルク870Nm(88.7kgm)
0-100km/h加速4.2秒
バッテリー種類リチウムイオン電池
バッテリー総電圧718V
バッテリー総電力量106kWh
交流電力量消費率(WLTCモード)180Wh/km
一充電走行距離(WLTCモード)650km
トランスミッション1速固定式
最終減速比9.79
サスペンション前:ダブルウィッシュボーン式 後:インテグラルリンク式(電子制御式4輪エアサスペンション)
タイヤサイズ前265/40R22 後295/35R22
価格1399万円