「価格・充電・航続距離」というEVの3大不安に向き合った

スズキの新型EV「e SKY」の商品コンセプトは「Easy to Switch」。軽ガソリン車に乗っているユーザーが、これまでと大きく感覚を変えることなくEVへ移行できる軽自動車を目指した。
開発で掲げたのは「EVである前に、軽自動車である」という考え方だ。具体的には「少ない電気でたくさん走る」「軽自動車として“ちゃんと”使える」「走りも快適」という3点を重視している。
なかでも大きなテーマになったのが、EV購入をためらう理由への対応だ。発表会では、ユーザーが抱える大きな不安として「車両価格」「充電時間」「航続距離」の3点を挙げた。
e SKYの航続距離は310km。さらに鈴木社長は、急速充電なら5分で約50km分の走行距離を確保できると説明する。日常の通勤や買い物だけでなく、急に走行距離が必要になった場面でも、短時間の充電で対応できる使い方を想定している。


航続距離310kmは「1kmの改善」を積み重ねた結果

e SKYは駆動用バッテリーに総電力量26kWhのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを搭載する。一充電走行距離は310km、WLTCモード交流電力量消費率は97Wh/kmで、2026年10月現在、スズキ調べで軽EVクラストップとしている。市街地モードでは73Wh/km、郊外88Wh/km、高速道路113Wh/kmと、日常使いでは不満がない程の航続距離となっている。

だが、開発当初から310kmを走れたわけではない。当初の一充電走行距離が約230km程度だったそうだ。そこから約80kmを伸ばすため、各設計部門が領域を越えて効率改善を積み重ねた。鈴木社長は「1km改善できるアイテムを100個やれば100km改善できる」という考え方で取り組んだと説明する。

モーター、インバーター、ギヤを一体化した独自開発のeAxleに加え、EV専用プラットフォーム「HEARTECT-e」を新設計。高剛性の駆動用バッテリーを車体構造の一部として活用することで、ボディー剛性や静粛性にもつなげている。
最小回転半径は4.4m。、日本の狭い道路や駐車場で扱いやすい軽自動車らしい取り回しも重視した。 また、スズキ初の「つながるナビ」を採用。道路状況やバッテリー残量から到着時の残量を予測し、必要に応じてルート沿いの充電スタンドを提案する。充電スタンドの満空情報も確認でき、航続距離だけでなく「どこで充電すればいいのか」という不安にも対応する。

急速充電は約25分。販売店の充電網も拡大

充電性能については、XグレードとGグレードが50kWの急速充電に対応する。駆動用バッテリー残量警告灯が点灯した状態から80%までの充電時間は約25分が目安だ。普通充電では3kWで約8時間、6kWで約4.5時間としている。
もっともスズキは、軽EVの日常利用では自宅での普通充電が基本になるとみている。鈴木社長は会見で、軽自動車は1日20~30km程度使われるケースが多いとの認識を示し、普段は通勤などで1日走ったあとに自宅で充電すれば、翌日までには必要な分の電力は充電されている。そのうえで、外出先で急に充電が必要になった際に急速充電を活用する考え方を説明した。
販売店側の受け入れ体制も広げる。普通充電器は900店舗以上のスズキ販売店に設置済み。急速充電器は2026年内に約250店舗まで増やす予定で、発表会では2030年に向けて販売拠点の約半数への設置を目指す方針も示された。

価格は212万円から、「EVだから高い」にも挑む

最後に気になるのが価格だ。「e SKY」はA、G、Xの3グレードを設定し、メーカー希望小売価格はAが212万円、Gが239万円、Xが279万円。Aは受注生産となる。月間販売目標は1000台だ。
価格設定については、軽ガソリン車から乗り換えられる価格と、e SKYの商品価値の双方を考えながら社内で議論したと説明。「かなり頑張った価格」に設定されている。スズキが狙うのは、EVに詳しい一部のユーザーだけではない。現在、軽ガソリン車を日常の足として使っているユーザーに、EVを新たな選択肢として提示することだ。
310kmの航続距離、短時間の急速充電、212万円からの価格。そのすべてを「Easy to Switch」というひとつの考え方につなげたのがe SKYである。EVを特別なクルマではなく、いつもの軽自動車の延長線上に置く。そのために“EVの3大不安”を一つずつ取り除こうとしたことこそ、新型e SKYの狙いなのである。


