チャイルドシートの正しい使い方を学ぶ
ボルボ・カー・ジャパンは、「子どもの車内安全に関するメディアセミナー」を開催した。
講師として登壇したのは、本国スウェーデン・イェーテボリのボルボ・カーズ・セーフティセンターでシニア・テクニカル・スペシャリスト(Injury Prevention)を務めるロッタ・ヤコブソン博士だ。チャルマース工科大学の客員教授も務めている。

ヤコブソン博士は37年にわたって車両の安全開発に携わり、世界初となる複数の安全技術の研究や評価を行ってきたパイオニアである。今回のセミナーでは、ボルボが長年蓄積してきた実際の事故データをもとに、子どもの身体的な特徴や、後ろ向きチャイルドシートの重要性、成長に応じた適切な乗車方法について解説した。
ボルボは長年にわたり、実際に発生した交通事故を調査してきた。車両の損傷状況だけでなく、乗員がどこに座り、どのような傷害を負ったのかまで確認し、その結果を安全要件や車両開発に反映している。
セミナーでは、世代の異なるボルボ車同士が衝突した事故も紹介された。旧世代車の乗員が重度の胸部傷害や足首の骨折を負った一方、新しい世代の車両では、乗員の傷害が首や肩の痛みなどに抑えられたという。
ひとつの事故だけで車両の安全性を断定することはできない。しかし、長期間にわたって実事故データを蓄積、分析することで、車体構造やシートベルト、エアバッグなどの進化が、傷害リスクの低減につながっていることを検証できる。

子どもの頭は大きく、首はまだ弱い
子どもの安全を考えるうえでは、大人との身体的な違いを理解する必要がある。幼児は大人に比べて頭部の割合が大きい一方、首の筋肉や骨格が十分に発達していない。
前向きチャイルドシートで前面衝突を受けると、胴体はハーネスで拘束されるものの、頭部は前方へ大きく振られる。その際、重い頭を首だけで支えることになり、首に大きな負荷が集中する。

一方、後ろ向きチャイルドシートでは、衝突時に頭部と胴体をシートの背面全体で受け止められる。衝撃を頭部と背中の広い範囲に分散できるため、首にかかる負担を抑えながら頭部を保護できる。
ボルボは、子どもをできるだけ長く、少なくとも4歳ごろまでは後ろ向きで乗せることを推奨している。事故の衝撃を弱い首だけで受け止めるのではなく、背中全体で受け止めることが、幼児を守るうえで重要になる。
後ろ向き式は傷害リスクを低減できるだけでなく、ハーネスや取り付け部分に多少の緩みがあった場合でも、その影響を受けにくいという利点がある。スウェーデンでは1960年代から後ろ向きチャイルドシートが使われており、その安全性を裏付ける実績が積み重ねられてきた。

日本では6歳未満にチャイルドシートの使用義務がある
日本の道路交通法では、6歳未満の幼児をクルマに乗せる際、原則としてチャイルドシートを使用することが運転者に義務付けられている。
ただし、法律上の使用義務が終わる「6歳」と、安全に大人用シートベルトを使える体格になる時期は、必ずしも一致しない。
子どもの身体が小さいうちに大人用シートベルトを使うと、腰ベルトが骨盤ではなく腹部にかかったり、肩ベルトが首にかかったりすることがある。その状態では、事故の際にベルトから十分な保護を得られないだけでなく、腹部や首に強い力が加わる可能性もある。
6歳以上であっても、大人用シートベルトが正しい位置にかからない体格であれば、ジュニアシートやブースターシートを継続して使用することが重要だ。チャイルドシートを卒業する時期は年齢だけで決めず、子どもの身長や体格、シートベルトが正しい位置にかかるかを確認する必要がある。

「15カ月を過ぎれば前向き」は誤解
現在のチャイルドシートでは、安全基準「UN R129」に対応した製品が主流となっている。この基準では、少なくとも生後15カ月までは後ろ向きで使用することが求められる。
ただし、「15カ月を過ぎたら前向きにしてよい」と単純に考えるべきではない。15カ月は前向き使用を始められる最低限の条件であり、積極的に前向きへの変更を勧める時期ではない。
幼児の大きな頭部と未発達な首を守るという観点では、使用する製品が定める身長や体重の上限に達するまで、できるだけ後ろ向きで乗せることが望ましいのだ。
ボルボが4歳ごろまでの後ろ向き使用を勧めるのも、年齢だけで一律に判断するのではなく、子どもの身体的な特徴と前面衝突時の負荷を考慮しているためだ。
「前を向きたい」と嫌がる子どもにはどう対応する?
一方、4歳ごろまで後ろ向きで座らせる方法は、日本では十分に浸透しているとはいえない。周囲の子どもが前向きで乗っていれば、自分も前を向きたいと訴えることもあるだろう。
子を持つ親の視点に立つと、この点が気になった。子どもに「後ろ向きのほうが安全だから」と理屈を説明しても、幼い時期には理解して納得してもらえないことも多い。
そこで筆者は、「子どもが前を向いて座りたいと駄々をこねた場合、保護者はどのように伝え、説得するのがよいのか」とヤコブソン博士に質問した。
博士は、子どもだけを後席に座らせるのではなく、慣れるまでは親も一緒に後席へ座り、会話をしたり遊んだりしながら安心させることが大切だと説明した。
安全上の理由を繰り返し説明するだけでなく、親子でコミュニケーションを取りながら、少しずつ後ろ向きの姿勢に慣れさせていくという考え方である。
安全性を優先して無理に座らせるだけでは、子どもにとってクルマでの移動そのものが不快な体験になりかねない。保護者が隣に座り、安心できる環境をつくることも、チャイルドシートを正しく使い続けるための重要な工夫だと感じた。

ブースターシートはベルトを正しい位置に導く
後ろ向きチャイルドシートを卒業した後も、すぐに大人と同じように座れるわけではない。車両のシートベルトは成人の体格を基準に設計されているため、小柄な子どもがそのまま使うと、ベルトが適切な位置にかからないことがある。
そこで必要となるのがブースターシートだ。座面を高くすることで、腰ベルトを腹部ではなく骨盤の上にかけ、肩ベルトを首ではなく胸と肩の適切な位置に通す役割を持つ。
ブースターシート使用時に子どもを主に守るのは、車両とシートベルトである。シートベルトプリテンショナーやカーテンエアバッグなどの安全装備を有効に働かせるためにも、子どもを正しい位置に座らせることが欠かせない。
ボルボは、少なくとも身長140cm、年齢10歳ごろまではブースターシートを使うことを推奨している。

年齢ではなく体格に合わせて判断する
ブースターシートを卒業できるかどうかは、身長や年齢の数字だけでなく、実際の着座姿勢で判断する必要がある。
車両のシートに深く腰掛けた状態で背中を背もたれにつけ、膝を自然に曲げて座り続けられるか。腰ベルトが腹部ではなく骨盤の低い位置にかかり、肩ベルトが首を避けて胸と肩の上を通っているかを確認したい。
肩ベルトが首の近くに触れることを嫌がっても、ベルトを肩から外したり、腕の下や背中側へ通したりしてはならない。事故の際に上半身を適切に拘束できず、重大な傷害につながる可能性があるためだ。
今回のセミナーで改めて感じたのは、子どもの安全対策はチャイルドシートを購入して終わりではないということだ。
事故の衝撃を弱い首だけで受け止めるのではなく、背中全体に分散させる。成長後は、車両の安全装備が正しく働く位置へシートベルトを導く。法律上の年齢だけで判断せず、子どもの成長に合わせて座らせ方を継続的に見直すことが重要である。


