電子制御サス「IDS」が狙うのは、三半規管の心地よさ

「乗り心地の良さ」の中核を担うのは、インテリジェント ダイナミックサスペンション(IDS)だ。走行シーンに応じて四輪の減衰力を変える電子制御ショックアブソーバーで、全グレードに標準で装備される。

16年ぶりのフルモデルチェンジを迎えたエルグランド。価格設定はX e-4ORCEグレードが689万7000円、G e-4ORCEグレードが757万9000円となる。

開発陣が掲げた狙いは「三半規管も心地良い乗り心地」である。頭が揺れると、脳を水平に保とうとして首の筋肉が無意識に緊張する。逆に頭の動きが穏やかなら、首は力を抜けるし、スマートフォンの画面も見やすい。実際、COMFORTモードの2列目で測ると、頭の動きは40%減、筋肉疲労も40%減、視線のズレは65%減になるという(他社車A比)。

頭の揺れを抑えるためのキモは二つある。ひとつは演算の速さで、車両の動きと操作を検知して100分の1秒ごとに計算する。もうひとつは減衰力の変え方だ。リニアソレノイドバルブを使うため、段付きにならずになめらかに変化させることが可能。小さな段差は減衰を弱めて乗り越え、大きなうねりは減衰を強めて抑える。

車両サイズは先代比で全幅+45mm、全高+160mmと拡大しつつ、全長は+30mmに抑え国内で使いやすい5m枠内に収めた。ホイールベースは先代から変化なし。

減衰力が変わるダンパーなら、ほかにもある。その代表例が周波数感応式だが、成り立ちはまったく違う。

周波数感応式ダンパーはピストン内部の機構だけで減衰力を変化させるもので、センサーやコントローラーは備わらない。その名のとおり、路面から入ってくる振動の周波数に応じて、細かい入力には減衰を弱め、大きなうねりには減衰を残す。構造が単純で比較的低コストだが、入ってきた振動に反応するものなので、減衰力の変化はどうしても後追いになる。

対してIDSは、加減速や操舵角などドライバーの運転操作も読み取り、クルマの挙動を推定して減衰力を変化させる。だから、上屋の動きをよりゼロに近づけられる。発進時のスクワットも、ブレーキや回生によるピッチングも、車体が動き出す気配を捉えて減衰を高め、起きる前に抑え込む。

ここに、e-4ORCEも絡んでくるのが新型エルグランドならでは。加速時は前後モーターの駆動トルクで車体の前上がりを抑え、減速時は回生トルクで前のめりを抑える。つまり、ダンパーが上下方向を、駆動と回生が前後方向を受け持つ分担だ。

デザインテーマは「プライベートマグレブ」。マグレブとはリニアモーターカーのこと。大きなボディサイズでありながらシャープなエッジとスタンスの良い佇まいでスピード感を表現している。

乗り心地の印象は、停止直前の挙動にも左右される。そこでバツグンの効果を発揮するのがスムースストップである。

運転の上手い人は、停止直前にブレーキを抜く。そうした操作を誰でも再現できるようにしたのがこの機能。ドライバーのブレーキ操作量と路面勾配や車速といった車両の状態から、スムースに止まるための最適な車速を計算し、ブレーキ圧を自動で調整。停止時の揺り返し、つまり前後Gの振れ幅が90%減るという。

ホントにそんなに効果があるの? いぶかしく思いながら、前方の信号が赤になった際、特に気を使わずにギューッとブレーキを掛けて停止線に止まってみた。すると熟練ドライバーのごとく、クルマは滑らかに停車するから驚いた。開発者はテストドライバーよりも上手なブレーキングだと主張するが、その言葉も大げさではないかも。邪魔しない制御に徹底的にこだわったというだけあり、違和感は皆無。これ、新型エルグランドの隠れたMVP機能かも…と思った次第だ。

サスペンションはフロントがストラット式、リヤがマルチリンク式。タイヤは先代の225/55R18から235/60R18へ太くなり、トレッドも前後とも40mm広がった。

そして新型エルグランドには、クルマを穏やかに動かすだけではなく、人を穏やかに動かす、という発想も盛り込まれている。

全席に採用されたゼログラビティシートがそれだ。胸郭を自然な角度で支え、骨盤の後傾を抑えて、背骨をS字に保つ。首の力を抜かせるための姿勢づくりである。さらに、車両のピッチ共振の周波数を、頭の共振からなるべく離すという設計まで入っている。揺れを抑えるだけでなく、揺れの周波数そのものを人の共振から外しているのだ。

インテリアは水平基調で見晴らしの良いプライベート空間をコンセプトとし、14.3インチ統合型ディスプレイ、木目にインテグレートされたスイッチ類、64色から選べるアンビエントライトなどを備える。

2列目シートの座面幅は50cmを確保。大人でも寝返りが打てる幅だと日産は言う。新設計の電動デュアルリクライニングは、シートバックの上部だけを起こせる。頭だけ立てた姿勢のまま、上体は包まれたままでいられる。

ゼログラビティシートを全席で採用。2列目シートは、シートバック上部のみリクライニングが可能なデュアルリクライニングを備えており、頭を起こした状態で快適な姿勢を維持したまま、前方のモニター画面を見ることができる。

意外…と言っては失礼ながら、予想以上に快適だったのが3列目シートだ。2列目シートを程よく前方にスライドさせて足元スペースを確保すれば、上半身まわりの余裕は十分。シートのクッションにもしっかりと厚みがあり、座り心地も悪くない。ミニバンの3列目シートで長距離移動するには体力と忍耐力が必要というイメージがあったが、新型エルグランドなら積極的に座ってもいいかも、という気になった。

室内は1列目から3列目にかけて着座位置を高くするシアターレイアウトを採用しているおかげもあり、3列目からの眺めも悪くない。

静粛性を生むのは発電専用エンジン、高遮音ボディ、世界初のノイズ制御

「静粛性の高さ」も印象的だ。日産の計測によると、加速時の室内音は他社車A比で5dB静かだという。3列目シートに座っていても、声を張り上げることなく、ドライバーとの会話を楽しむことができたぐらいだ。

それを実現した鍵は三つある。第3世代e-POWER、高遮音ボディ、そして新世代アクティブノイズコントロールだ。

ひとつめ(第3世代e-POWER)の効き方は分かりやすい。エンジンが発電専用になると、効率のいい領域だけを狙って回せる。使う運転点が決まれば、出てくる振動の周波数もほぼ決まる。周波数が決まれば、音源になる部位を狙い撃ちで潰せる、というわけである。

5-in-1の電動ユニットも効いている。モーター、発電機、インバーター、減速機、増速機の五つをひとつにまとめたものだ。ひとつの筐体として設計できるようになったおかげで、振動のモードまでつくり込めるようになり、エンジン振動は第2世代比で40%減、4.2dBの低減を実現した。

モーターに電力を送るのが、ZR15DDTe型の発電用エンジンだ。1.5L直列3気筒ターボで、最高出力103kW(140PS)、最大トルク228Nm。燃費はWLTCモードで16.8km/Lとなり、先代の9.7km/Lから約1.7倍に伸びた。

ふたつめが高遮音ボディである。その核になるのが遮音ガラスで、使われるのはフロントとフロントドア、フロントクォーター、そしてリヤドアまで。中間膜に高機能の遮音膜を挟んだプレミアム仕様なら、従来比で2.6dBの低減、風切り音は25%減になる。

また、ボディ側では吸音材の配置を見直し、遮音材のカバー率を上げたうえで、穴という穴を細かくふさいでいる。スライドドアの開口部が大きいぶん、ここには手間がかかったという。

セグメント最大となる15.6インチの天井格納式モニターと、前席の背部に装着する12.8インチ×2画面のモニターを、いずれもディーラーオプションで用意する。

ここまでやっても残る音を引き受けるのが、三つめのアクティブノイズコントロールである。エンジン音に加えてロードノイズも消す制御は「世界初」だという。ルーフマイクと加速度センサーで音を拾い、逆位相の音をスピーカーとサブウーハーから出して打ち消す。効果はエンジンノイズが60%減、ロードノイズが50%減というから、かなりのもの。

実際、試乗の場面ではオン/オフスイッチを切り替えてみると、なるほど、確かに効果が体感できる。ノイズキャンセリングヘッドフォンのような劇的なものではないが、「ザーッ」という騒音が「サーッ」という程度にはノイズが減ることが実感できた。

BOSEプレミアムサウンドシステムも秀逸。22スピーカーのおかげで、クリアで上質なサウンドに包まれるかのような感覚が味わえる。

なぜ前輪駆動を設定しないのか。e-4ORCEオンリーなのに納得の理由

とある調査によると、LLミニバンのユーザーが満たされていないニーズに「走る楽しさ」があったそうだ。そこで新型エルグランドでは、後席の快適性のみならず、運転の面白さにもフォーカスして開発が進められた。

その土台になっているのが、モーター駆動ならではのトルクである。前後モーターを足すと525Nm。フロントがYM52型で151kW(205PS)/330Nm、リヤがMM45型で100kW(136PS)/195Nm。

先代と並べると差がはっきりする。E52の頂点はV型6気筒3.5LのVQ35DEで、206kW(280PS)/344Nmだった。新型はその1.5倍を超えるうえ、V6が4400rpmまで回さなければピークに届かないのに対して、モーターは0rpmから最大トルクを出す。新型エルグランドの車両重量は2440kg(G e-4ORCE)とヘビー級だが、このもりもりトルクのおかげで、箱根の坂道を苦もなく…どころか、その気になれば結構な勢いで登っていく。

もうひとつのポイントは、トルクをどう路面に伝えるか、である。

新型にe-4ORCE以外の選択肢はなく、前輪駆動の設定はない。素人考えでは「前輪駆動モデルも出して、ラインナップを広げたほうが売れるんじゃないのかな」と思っていたが、e-4ORCEオンリーの設定には確固たる理由があった。

その理由は、乗り心地にある。前輪駆動では前側を起点にピッチングとバウンシングが起き、ホイールベースのぶんだけ後席の上下動が大きくなってしまうのだ。ここで日産が持ち出すのが、長くFRを作ってきた経験である。後席が不快でないのは、後ろから背中を押してくれる駆動が後ろにあるからだという。

加減速で姿勢が崩れないのも、前後にモーターがあればこそだ。加速時は穏やかな出力特性と前後モーターの駆動トルク制御で車両の前上がりを、減速時は前後モーターの回生トルク制御で前のめりを抑え込む。カクッという挙動が出ないので、後席でスマートフォンを操作したり、本を読んだり、飲み物を口に運んだりしても煩わしくない。

ふたつめの理由は、曲がり方である。e-4ORCEは旋回中の駆動力とブレーキを細かく制御し、クルマが外に膨らむのを抑える。制御がなければ、ノーズが外を向きながら膨らんでいくぶん、ドライバーはハンドルを切り増さなければならない。進みたい方向を向いたまま曲がれるから、ハンドルが「ピタッと決まる」というわけだ。

つまりe-4ORCEは、雪道のためだけの生活四駆ではない。普通の道を快適に走らせるためにリヤの駆動を積極的に使うもので、リヤモーターの駆動力は他社車A比で40%大きい。新型エルグランドはリヤモーターを制御に使うぶんの余裕が持たせてあるのだ。

静粛性と走りを支える第3世代e-POWER、乗り心地と走りに効くe-4ORCE、そして乗り心地を受け持つIDS。IDSはダンパー単独では完結せず、ワインディングではe-4ORCEの駆動力制御があってはじめて狙いどおりに働く。日産が「世界初」「唯一無二の組み合わせ」と呼ぶ組み合わせだが、その走りを体感してみれば、LL型ミニバンのイメージが覆ること必至である。

7名が乗車の状態で、機内持ち込みサイズのスーツケースを7個積載することが可能。
3列目シートは、前方と後方の2カ所で跳ね上げて荷室を拡大可能となった。
グレードエルグランド G e-4ORCE(4WD)
全長4995mm
全幅1895mm
全高1975mm(プロパイロット 2.0装備車は1970mm)
室内長3165mm
室内幅1730mm
室内高1315mm(ツインガラスルーフ装備車は1310mm)
乗員人数(名)7
ホイールベース3000mm
最小回転半径5.8m
最低地上高165mm
車両重量2440kg
パワーユニット1.5L直列3気筒ターボ+e-POWER(第3世代)
エンジン型式ZR15DDTe
エンジン最高出力103kW(140PS)/5000rpm
エンジン最大トルク228Nm(23.2kgm)/3600rpm
燃料(タンク容量)レギュラーガソリン(67L)
モーター型式・種類フロント:YM52/リヤ:MM45(交流同期電動機)
モーター最高出力フロント:151kW(205PS)/リヤ:100kW(136PS)
モーター最大トルクフロント:330Nm(33.7kgm)/リヤ:195Nm(19.9kgm)
バッテリー種類リチウムイオン電池
燃費(WLTCモード)16.8km/L
サスペンション前:ストラット式 後:マルチリンク式
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク 後:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ235/60R18
価格757万9000円