WRXに“STI譲り”の高耐久MT、BRZにはコンプリートカーを開発

スバルが、スポーツモデルの開発に対する姿勢を大きく変えようとしている。

スバル インプレッサ TX 予想CG

近年のスバルは、安全性能やAWD技術を磨く一方、電動化への対応も加速させてきた。しかしその裏で「WRX STI」の生産終了など、かつてブランドを象徴していた高性能モデルは減少。現行WRXにもSTIモデルは存在せず、往年のWRX STIに相当する高性能フラッグシップは不在となっている。 

スバル パフォーマンス E STI

そんな状況が変わろうとしている。

きっかけとなったのが、スバルのCTO(最高技術責任者)を務める藤貫哲郎氏の発言だ。藤貫CTOは従来の開発について「古いやり方はやめることにしました」と語り、その理由を「退屈だから」と説明している。

もっとも、「退屈」という言葉はスバル車そのものを指したものではない。問題視したのは、確認のために会議を開き、別の会議でも似たような資料を持ち寄るといった従来型の開発プロセスだ。そこでスバルは開発のデジタル化を進め、意思決定を高速化。従来のやり方や部署間の壁に縛られず、商品企画へ素早く反映できる体制への転換を進めている。

その改革を象徴する存在が、2026年に新設された「スポーツ車両企画室(Sports Vehicle Planning Office)」である。モータースポーツ部門と量産車開発の垣根を低くし、レースで得た技術や知見を市販車へより早く反映することが狙いだ。

そして2026年6月、富士スピードウェイで開催されたスーパー耐久富士24時間レースの場で、スバルは2027年までに3台の新しいMTモデルを市場投入する計画を明らかにした。公開されたのは「WRX with TY85 Transmission」「SUBARU BRZ Complete Car」「5-door Hatchback」の3台で、いずれもモータースポーツで培った技術を盛り込む計画だ。 

なかでも注目されるのがWRXである。開発中のモデルには「TY85」と呼ばれる6速MTを搭載する。TY85は歴代WRX STIにも使われてきた高耐久・高信頼性を特徴とするトランスミッションで、スバルはこれをカタログモデルとして開発している。現行WRXの国内ラインアップはこれまでCVTが中心だっただけに、本格的な6速MTの復活は大きな動きとなる。 

ただし、TY85を搭載するからといって「WRX STI」がそのまま復活すると決まったわけではない。エンジン出力や車名、価格なども現時点では明らかにされておらず、往年のWRX STIと同じポジションになるかはまだわからない。

2台目は「SUBARU BRZ Complete Car」である。現行BRZ自体にも6速MTは設定されているが、今回予告されたのは通常モデルとは異なるコンプリートカーだ。2025年に発表された「BRZ STI Sport TYPE RA」をベースに、その走りをさらに軽快で意のままに操れる方向へ磨き上げるとしている。

BRZは2026年7月の商品改良でも、MT車にスーパー耐久参戦から得た知見を生かしたシフトレバー構造を採用。さらにMT車のアイサイトへ初めて広角単眼カメラを追加するなど、走りだけでなく安全性能も進化している。レース活動で得た技術を市販車へフィードバックする流れは、すでに始まっている。

そして3台目が、詳細な車名すらまだ明らかになっていない「5-door Hatchback」だ。スバルによれば、2025年のジャパンモビリティショーで公開した「Performance-B STI concept」の市販版として開発を進めているモデルで、WRXやBRZとは異なるキャラクターを与えるという。高価な高性能車だけではなく、より気軽に走りを楽しめる5ドアMT車を用意することが狙いとみられる。 

この3台が興味深いのは、単に「MT車を残す」という話ではない点だ。WRXにはかつての高耐久MTを復活させ、BRZではコンプリートカーを開発し、さらに新たな5ドアハッチバックまで用意する。電動化が進みMT車の選択肢が減るなか、スバルはあえて「自分で操る楽しさ」を商品戦略のひとつとして残そうとしている。

もちろん、これがそのままWRX STIの復活を意味するわけではない。高性能なガソリン車は、燃費や排出ガス規制への対応が年々難しくなっている。従来と同じ手法で大出力の水平対向ターボ+AWDを作れば済む時代ではなくなった。 

だからこそ、今回の開発改革には意味がある。スポーツ車両企画室を軸にモータースポーツと量産開発を近づけ、レースで試した技術を商品へ素早く反映する。そして2027年までに、その成果を3台のMTモデルとして市場へ送り出す計画である。

「退屈だから」という藤貫CTOの言葉が向けられたのは、スバルのクルマではなく、時間のかかる古い開発の進め方だった。その仕組みを変えた先から、どんな“スバルらしい”スポーツモデルが出てくるのか。まずはTY85を積むWRX、BRZコンプリートカー、そして謎の5ドアハッチバックの3台が、その答えを示すことになりそうだ。