「おもちゃに見えないこと」を条件に、張りのあるラインで初代のシルエットを描く
2CVコンセプトは、シトロエンが今後2年以内に発表する市販モデルのコンセプトを示したクルマだ。市販モデルは欧州で生産し、価格は1万5000ユーロ前後からを目指す。欧州で新たに導入される小型EVの規則「E-Car」に適合させる予定となっている。

開発の出発点は、2CVをそのまま復刻することではなく、日常の短い移動に使う小型EVを考えることだった。2CVの原型は1937年に「TPV(Toute Petite Voiture=とても小さなクルマ)」として構想され、「4人と50kgのジャガイモを載せ、60km/hで走り、運転しやすく、整備が簡単で経済的であること」を条件に開発された。1948年のパリモーターショーで発表され、1990年にマングアルデ工場で生産を終えるまでに500万台以上がつくられている。


2CVコンセプトの全長は3.76mで、初代2CVの3.85mより短い。車両重量は1tを目標とし、軽くすることでバッテリーを小さくし、コストも抑える。
エクステリアは、ひと目で2CVとわかるシルエットを保ちながら、ラインに張りをもたせ、ボリュームを豊かにした。複雑なキャラクターラインは使わず、曲線とシンプルな面で構成している。

シトロエンのデザインディレクター、ピエール・ルクレール氏はこう語る。
「リバイバルモデルがオリジナルより短くなったのは、これが初めてです(初代2CVの全長は3.85m)。フロントは、おもちゃのように見えないようにしながら、魅力のあるものにする必要がありました」
フロントの丸いヘッドランプはボディから離して置き、宙に浮いているように見せた。形は初代をもとにしつつ、下端を削ぎ落とした形状とし、LEDのシグネチャーを組み合わせている。ボンネットにはTPVを思わせるリブとエアインテークを設け、ワイパーはあえて見える位置に置いた。

デザインは生産や修理のしやすさも考慮している。フロントウインドウまわりなど一部の面は平らにし、フロントウインドウの根元には初代と同じように外気を直接取り入れるインテークを備えた。バンパーはボディから張り出させてボディを守る役割をもたせ、ぶつけたときはバンパーだけを交換すれば済む。

立ったフロントウインドウ、丸みのあるフェンダー、黒いテールゲート。サイドとリヤに残る2CVの記号
サイドでは、ボンネットからつながるフロントウインドウを立て、弧を描くルーフラインで初代の輪郭を再現した。丸みのあるフェンダーと張りのあるボディサイドの組み合わせで、踏ん張りの効いたスタンスをつくっている。
18インチのスチールホイールは初代の形状をもとにしたデザインで、ミシュランと共同開発したタイヤには、ミシュランの「ヘリテージ」ロゴとシトロエンのダブルシェブロンを組み合わせたグラフィックが入る。

リヤでは、黒い樹脂製のテールゲートが目を惹く。テールゲートのハンドルは外に見える形で付け、ナンバープレートの位置には、各国での2CVの愛称を表示するデジタルディスプレイを置いた。また、リヤウインドウの両側にLEDのリヤランプを配置することで、下がっていくルーフラインを強調している。


コンセプトカーマネージャーのアントワーヌ・ガイヨ=ドルボン氏は、次のように話す。
「アイコンをもとにデザインするときに難しいのは、すでにあるクルマのラインをシンプルに表現しながら、細部をひとつずつ手直しして、現代のクルマにすることです。たとえば手で巻き取るファブリックルーフのように、デザインに人の手の感覚を取り入れ、子どものころのようなワクワクする気持ちを思い出してもらえるようにしました」

従来のダッシュボードをなくし、ステアリングや表示類をひとつのシリンダーにまとめたインテリア
インテリアには従来のダッシュボードがない。代わりにシリンダーを置き、そこに1本スポークのステアリング、ワイパーやウインカーを操作するレバー、8インチの正方形タッチスクリーン、シフトセレクターをまとめた。シフトセレクターは押して操作する方式で、スタート/ストップボタンを内蔵する。シリンダーは収納としても使えるのがユニークだ。


ドライバーの視界に入る位置には、ヘッドアップディスプレイの「シトロエン スマートビジョン」を備える。速度表示はシトロエンGSのドラム式スピードメーターをデジタルで再現したもので、バッテリー残量やナビゲーション、天気なども表示する。
タッチスクリーンのグラフィックはコミックの表現をもとにしており、ベルギーの漫画家で2CVの愛好家でもあるジャン=リュック・デルヴォー氏が手掛けた。隣には取り外して持ち運べるラジオ兼スピーカー「Radioën(ラディオエン)」を置く。


シートは前後ともベンチ式で、シトロエンの「アドバンスト コンフォート」の技術を用いている。フレームはパイプ構造で、ヘッドレストはない。フロントのベンチは初代と同じように取り外せ、ピクニックでくつろぐときにも使える。センターコンソールの代わりには、取り外せるバスケットを置いた。ドアの開閉には、ドアパネルに付けた柔らかいストラップを使う。


インテリアデザイナーのアンドレアス・シュトゥンプ氏は、次のように語る。
「室内をデザインする際には、初代2CVのキャビンがもっていた機能性とミニマリズムを指針にしました。それを、今のシトロエンの快適性と明るい雰囲気に結びつけています」
オレンジのボディ色に黄色のタータン、ベークライトを思わせるベージュ。カラーと素材でも初代とつなぐ
ボディ色は、シトロエンの象徴的な色「インフラレッド」をもとにしたもの。オレンジをベースに、光の当たり方によって黄色や赤に見える効果を加えた。ライトグレーのスチールホイールには、「2CV」の文字が入った黄色のカラークリップを付けている。


シートには、1953年から1990年まで2CVに使われたタータン柄を黄色系で採用した。ステアリング、操作系、シリンダー、ベンチシートのパイプには、初代のベークライト製部品を思わせるベージュを使う。フロア、ダッシュボード、ドアパネルは、籐細工やかご編みをモチーフにした織り目のある素材で覆った。センターのバスケットは木とバイオ由来のプラスチックを組み合わせた素材を3Dプリントでつくり、Radioënの周囲には木を用いている。

カラー&マテリアルデザイナーのマドレーヌ・テルニジアン氏はこう説明する。
「2CVコンセプトのキャビンには、ゆとりがあります。黄色のカラーと素材が、暖かさと明るさをもたらしています。プルースト(の小説『失われた時を求めて』)のマドレーヌのように記憶を呼び起こす効果をねらい、2CVのベークライト製の操作部品を思い出させるベージュを加えました。編んだ素材は、フランスの伝統工芸である籐細工へのオマージュです」
クラクションの音、「48/90/26」のステッカー、卵が収まるドアポケット。各部に隠された初代へのオマージュ
細部にも初代にちなんだ仕掛けが多い。クラクションと、起動時に鳴らすモーターの音は初代2CVを再現したもの。フロントウインドウに貼った「48/90/26」のステッカーは、初代を発表した1948年、生産を終えた1990年、このコンセプトを公開した2026年を表す。リヤには「Life feels better in a Citroën」の文字が入る。
ペダルには、ブレーキにカメ、アクセルにウサギのマークを付けた。ドアポケットは卵を収められる形状で、2CVを開発したときの条件に由来する。







