ロータリーエンジンの魅力であるコンパクトさや高出力を維持しながら、排出ガス性能を改善

マツダが開発を進めるロータリーエンジンに、新たな動きがあった。米国で公開された特許出願から、高出力と排出ガス性能の両立を目指す新しいEGR(排気再循環)システムの存在が明らかになった。ロータリースポーツ復活に向けた技術的な課題を解決する、重要な一手となる可能性がある。

マツダ ロータリー特許画像

今回注目されているのは、2026年8月13日に米国で公開された「EGR SYSTEM FOR ROTARY ENGINE」と題する特許出願だ。出願日は同年1月20日、公開番号は「US20260235067A1」。ロータリーエンジン特有の構造を利用し、排気ガスの温度を効率よく下げる技術が盛り込まれている。

マツダ RX-7 次期型 予想CG

ロータリーエンジンは、小型・軽量でありながら高出力を実現できる一方、燃費や熱効率、排出ガス性能などが長年の課題とされてきた。特に高負荷時には排気温度が上昇しやすく、触媒の保護と高出力をいかに両立するかが重要になる。

今回の特許で中心となるのは、ロータリーエンジンのサイドハウジング内部にEGRガスの通路を設け、エンジン冷却水を利用して排気を冷却する仕組みだ。

特許に描かれたエンジンには、「サイド排気ポート」と「ペリフェラル排気ポート」という2系統の排気口が設けられている。サイド排気ポートは比較的早いタイミングで開き、ここから排出される高温・高エネルギーの排気をターボチャージャーへ送り、過給に利用する。一方、少し遅れて開くペリフェラル排気ポートからは、相対的に温度の低い排気が排出される。この排気の一部をEGRガスとして吸気側へ戻すことで、燃焼温度の上昇を抑える構成となっている。

ただし、2系統の排気ポートを使い分ける考え方自体は、今回初めて登場したものではない。マツダは以前から同様の構造を研究しており、今回の特許はその仕組みをさらに発展させたものといえる。

新たな工夫が盛り込まれているのは、EGRガスを冷却する経路だ。従来の構造では、排気を吸気側へ戻す途中にEGRクーラーを配置していた。しかし、EGRガスの温度を大幅に下げようとすると、クーラーの大型化が必要になる。コンパクトなロータリーエンジンでは、周囲に大きな補機類を配置するスペースを確保しにくいという問題があった。

そこで今回の特許では、サイドハウジング内部にEGR通路を形成し、エンジン冷却水が流れる通路と接するように配置している。

排気ガスは、この内部通路を通過する際に冷却水と熱交換することで温度が下がり、その後、別に設けられたEGRクーラーでさらに冷却される。つまり、エンジンのハウジング自体にEGRクーラーの一部としての役割を持たせる仕組みだ。

これにより、大型のEGRクーラーを追加することなく、吸気側へ戻す排気ガスを効率よく冷却できる。エンジン周辺の限られたスペースを有効活用できる点も、ロータリーならではの利点となる。

特許では、吸気ポートを持たない側のサイドハウジングにEGR通路を設ける構造も示されている。内部の空きスペースを利用して通路長を確保し、冷却効果を高める考え方だ。

この技術が特に効果を発揮すると考えられるのが、高回転・高負荷での運転時である。冷却したEGRガスを多く吸気側へ戻すことで、燃焼温度や排気温度の上昇を抑制。高出力を維持しながら、排出ガス性能の改善を図ることができる。

また、ペリフェラル排気ポートから排出されたガスのうち、EGRに利用しない分をタービンの下流側へ流す構成も盛り込まれている。排気の流れを分けることで、過給効率と排出ガス浄化性能の両立を目指している。

今回の技術は、単に既存のEGR装置をロータリーエンジンへ取り付けたものではない。排気ポートの特性を生かしながら、ハウジング内部の冷却構造まで一体化した点に特徴がある。

こうした開発が注目される背景には、マツダが進めるロータリーエンジン復活への取り組みがある。マツダは2024年2月、36人の技術者によるロータリーエンジン開発グループを復活させた。ロータリーエンジンの研究開発を強化し、排出ガス規制への対応や燃費、耐久性などの課題解決に取り組んでいる。

マツダ VISION-Xクーペ

さらに2025年のジャパンモビリティショーでは、次世代ロータリーの可能性を示すコンセプトカー「MAZDA VISION X-COUPE(マツダ ビジョン クロスクーペ)」を世界初公開した。同車は、2ローターのロータリーターボエンジンにモーターとバッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHEV)だ。システム最高出力は510psに達し、モーターのみで160km、エンジン併用で800kmの航続距離を実現するとしている。

発電専用ロータリーエンジンを搭載する「MX-30 Rotary-EV」とは異なり、VISION X-COUPEは高性能なロータリーターボを組み込んだPHEVとして提案された。ただし、エンジンから車輪への具体的な動力伝達方式については、現時点で詳細が明らかになっていない。

マツダ アイコニック SP コンセプト

マツダはこれまでにも、ロータリースポーツの将来像を示す「MAZDA ICONIC SP」を発表している。こうしたコンセプトカーの存在から、将来的なRX系スポーツカーの復活にも期待が集まっている。

もっとも、今回公開された特許がVISION X-COUPEやICONIC SP、あるいは将来の市販スポーツカーに採用されると決まったわけではない。特許出願は技術開発の方向性を示すものであり、実用化や新型車の発売を保証するものではない。

それでも、今回の出願が示す技術的な意味は小さくない。ロータリーエンジンの魅力であるコンパクトさや高出力を維持しながら、排出ガス性能を改善するための具体的な構造が検討されているからだ。特に、エンジン内部の空きスペースを冷却経路として利用する発想は、ロータリー特有のパッケージング上の制約に対応するものといえる。

ロータリースポーツの市販化については、依然として不透明な部分が多い。しかし、厳しさを増す環境規制のなかで、高性能ロータリーエンジンを成立させるための技術開発は続いている。今回の米国特許は、その取り組みを具体的に示す新たな材料となった。