「500」だけじゃない! フィアットのもうひとつの象徴「パンダ」がSUVへと進化

「フィアット」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、こと日本においては「ルパン三世」で有名な2代目「ヌオーヴァ」または2008〜24年に販売された3代目の「500」(チンクエチェント)ではないだろうか。
その丸く小柄で愛らしいスタイルは、これら2世代の「500」をルーツとして、クロスオーバーモデルの「500X」やその後継モデルとなった2代目「600」、また4代目「500」(日本では原稿執筆時点でBEV仕様「500e」のみ販売)にも色濃く受け継がれている。

だがフィアットには、「500」よりも実用的な庶民の足として本国イタリアをはじめとした各国で「500」以上に販売され、かつフィアットのもう一つのデザインアイコンとしても知られているコンパクトカーがある。それが、1980年に誕生した初代のデザインをジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインが手がけたことで知られる「パンダ」だ。



現在も欧州では「パンディーナ」と名を変え販売されている3代目「パンダ」まではAセグメントに属していたが、2024年6月に世界発表された新型4代目「グランデパンダ」は全長4m級のBセグメントへとサイズを拡大。またパッケージングも、2〜3代目の背高ワゴン的なものから、全高も最低地上高もより高く取られたクロスオーバーSUVへと大きく様変わりした。
これは端的に言えば、欧州では2023年10月以降、BEVモデルの「e-C3」より順次発表された4代目シトロエン「C3」と、「スマートカープラットフォーム」をはじめ、ハイブリッドモデルでは1.2L直列3気筒DOHCガソリンターボエンジンや48Vマイルドハイブリッドシステム、6速DCTといった主要メカズムの多くを共用する姉妹車、というお家事情によるもの。

ボディサイズも、C3ハイブリッドの全長×全幅×全高=4015×1755×1590mm、ホイールベース2540mmに対し、グランデパンダは全長×全幅×全高=4010×1765×1585mm(ルーフレールを装着しない「アイコン」の数値)、ホイールベース2540mmと、ほぼ同じだ。


一方でタイヤサイズは、C3ハイブリッドが205/50R17なのに対し、グランデパンダハイブリッドは受注生産の標準グレード「アイコン」が205/60R16、上級グレード「ラ・プリマ」が205/55R17と、一回り大きくなっている。


初代パンダのデザインを現代風にアレンジ! 遊び心あふれる内外装と実用性は?
そして決定的に異なるのが、内外装のデザインだ。
現行世代のシトロエン各車はC3を含め、よく言えばシャープかつモダン、悪く言えば日本人好みのポップさが失われた平凡な内外装デザインとなっている。
だが、初代パンダのモチーフを随所に採り入れたグランデパンダは、そのボクシーな全体のシルエットから、凝りに凝った細部の処理に至るまで、個性の塊と言っていい。

見る角度によって絵柄が変わるレンチキュラーグラフィックを用いたCピラーをはじめ、FIATロゴと4ストライプスのフィアットマークを随所にあしらったエクステリアは、ピクセルデザインの前後ランプやフロントグリル、PANDAロゴがプレス加工された前後ドアなど、それぞれが極めて強力なアイキャッチとして機能している。



1923年に操業開始し現在も建物が残されているリンゴット工場の屋上テストコースをモチーフにした楕円形のインパネおよびセンターコンソールは、レトロモダンな雰囲気を醸し出すのみならず、水平で車両感覚を掴みやすい前方視界と、各操作系の明確なゾーニングにも寄与。青を基調に黄色のアクセントを各部にあしらった色使いも華やかかつ前衛的だ。
上級グレード「ラ・プリマ」はさらに、天然竹繊維(バンブーファイバー)を約33%使用した「バンボックス・バンブー・ファイバー・テックス」をインパネ上部に使用しており、環境に優しいだけではなく質感も上々だ。
しかもそれらが別個に自己主張しすぎることなく、1台のクルマとして見事に調和していることに、デザイナーの極めて高い力量を感じずにはいられない。ただし、手で触れる頻度の高いセンターコンソールやドアハンドル周辺に、スリ傷が目立ちやすいピアノブラック加飾を用いていることだけは、配慮に欠けていると断じざるを得ない。

前後シートも、「アイコン」ではPANDAロゴ、「ラ・プリマ」ではピクセルパターンをあしらったデザインで滑りにくく、またクッションに弾力がありサイドサポートも大きいため、フィット感も上々。


後席はボディ全体のスクエアなフォルムも相まって、ヒップポイントが高めに取られながら頭上空間も広く、その高いヒール段差のおかげで足元の空間にも余裕があるなど、居住性や見晴らしについては姉妹車のシトロエンC3よりも明確に優れていた。

しかし荷室の使い勝手は悪い意味でC3と違いがない。バックドア開口部の地上高が高いうえ、フロアとの段差は20cm以上あるため、重く大きい荷物の出し入れは率直に言えば困難だ。
また後席の背もたれを倒せば10cm以上の段差が生まれ、しかもその段差を埋める術はディーラーオプションにも存在しない。
フロアボードの上下調整を可能にするか、フロアをかさ上げできるボックスを設定するなどの対策が強く望まれる。

先代パンダとは走りも別物! 力強い加速と軽快なハンドリングが印象的
では、肝心の走りはどうか。結論から言えば、とりわけ先代パンダと大きく異なる、スポーティな性格に生まれ変わっていた。
1.2L直列3気筒DOHCガソリンターボ+モーター+6速DCTがもたらす加速は、モーターらしいトルク感こそ薄いものの、とりわけ先代パンダとは比較にならないほどレスポンスに優れ力強い。アクセル操作に対して6速DCTが素早く的確に変速することもあり、1270kgの車重に対し充分すぎるほどだ。

またハンドリングも、ステアリング操作に対し素早くヨーが立ち上がり、その後のロールもややクイックながら絶対的な量は少ない。ゆったり反応して粘り腰でロールした先代パンダとは、これまた隔世の感がある。
乗り心地に関しても、特に前席では路面の凹凸を正直に乗員へ伝える傾向があるものの、入力のピークは上手く丸められるため、橋の継ぎ目などで若干ジャンプするような状況でも不快な衝撃は感じられなかった。

なお、今回ADAS(先進運転支援システム)を試す機会は得られなかったが、ACC(アダプティブクルーズコントロール)やブラインドスポットモニター、前後のクロストラフィックアラートがオプションでも装着できない点は、早急な改善が待たれる。
409万円の価格は高い? 姉妹車シトロエンC3との価格差をどう考えるか

このように、荷室の使い勝手やADASを除けば非の打ち所が少なく、しかも内外装のデザインに圧倒的な付加価値を備えているグランデパンダではあるのだが、「アイコン」で369万円、「ラ・プリマ」で409万円という車両価格の高さは如何ともしがたい。
これに対し姉妹車のシトロエンC3ハイブリッドは、標準グレードの「プラス」が357万円、上級グレード「マックス」で382万円と、少なくない開きがある。しかもグランデパンダ「ラ・プリマ」で5万5000円のメーカーオプションとなる「ウィンターパッケージ」の前席シートヒーター&ステアリングヒーターなどがC3「マックス」では標準装備のため、両車の価格差は32万5000円にまで開く。
このC3との価格差に加え、諸経費やディーラーオプション込みの総支払額が国産Cセグメントカーの水準に近い500万円弱に達することを、グランデパンダが持つ唯一無二のデザインに対する付加価値費用として許容できるかどうか。それが、グランデパンダを欲しいと感じた潜在ユーザーにとって、大きなボトルネックとなるのは間違いない。
「フィアット・グランデパンダ」車両スペック

■フィアット・グランデパンダハイブリッド ラ・プリマ(FF・6速DTC)
全長×全幅×全高:4010×1765×1630mm
ホイールベース:2540mm
最低地上高:182mm(欧州仕様の数値)
車両重量:1270kg
乗車定員:5名
エンジン形式:直列3気筒DOHCガソリンターボ
総排気量:1199cc
最高出力:74kW(101ps)/5500rpm
最大トルク:205Nm/1750rpm
モーター最高出力:15kW(20ps)/4264rpm
モーター最大トルク:51Nm/750-2499rpm
使用燃料・タンク容量:無鉛プレミアムガソリン・44L
バッテリー種類:リチウムイオン
バッテリー総電力量:0.876kWh
WLTCモード燃費 :20.8km/L
市街地モード :14.8km/L
郊外モード :24.1km/L
高速道路モード:22.8km/L
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:205/55R17
最小回転半径:5.5m
車両価格:409万円
