新型MT-09|4代目でついに完成の領域へ。フォルム刷新で、ビギナーにも勧められる秀作へと進化

「シンクロナイズド・パフォーマンスバイク」をコンセプトに、2014年に誕生したヤマハのMT-09。10周年を迎えた今年、待望の4代目がリリースされた。トレーサー9やXSR900、ナイケン、そしてXSR900GPと、CP3シリーズとして次々とバリエーションモデルを増やす中、ベースモデルはどのように進化したのか。今回はSTDモデルを紹介しよう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ヤマハ・MT-09 ABS……125万4000円(2024年4月17日発売)

モデルチェンジにおける主軸はライディングポジションの変更で、ハンドルを下方へ移動し、ステップはアップ&バックしている。この新しいライポジの採用に伴って車体の剛性バランスを見直し、サスもリセッティングしている。車両価格は直近の114万4000円から11万円アップした。
今回試乗したのはSTDモデル。専用開発のKYB製フロントフォークとオーリンズ製リヤショック(両方ともフルアジャスタブル)、ブレンボ製Stylemaキャリパー、スマートキーを採用する上位仕様のSPは、18万7000円高の144万1000円だ(2024年7月24日発売)。

ライポジ変更で一体感アップ、手の内にあるような操縦性へ

ヤマハのMT-09は、3年前の2021年8月26日に発売された3代目において、排気量をアップしたりフレームを刷新するなどフルモデルチェンジを実施している。自分が執筆した当時のインプレッションを読み返すと、進化の歩幅の広さに驚きつつ、「乗りやすいとか扱いやすいことが善とされる現代において、乗りこなすことに喜びを見出せる稀有な存在だ」などとまとめている。
そう、MT-09は一見ストリートファイター的なフォルムだが、もともとはネイキッドとスーパーモタードをハイブリッドさせた異種交配造形として誕生し、走りの方も「ザ・ロデオマスター」というコンセプトに合致した、トリッキーなハンドリングを特徴としているのだ。2014年に登場した初代はそれを消化しきれなかったのか、旋回中にどこかへ飛んでいってしまいそうな危うさがあった。84万9960円という安さこそ魅力だが、とてもビギナーには勧められないというのが正直な感想だった。

さて、先の3代目のインプレの中に、「個人的には後退気味のステップに対し、ハンドルがやや高いように感じた」という記述を発見。そうそう、あれは変だったし最後まで慣れなかったよなぁ、などと思い返しつつ新型のMT-09にまたがったところ、ハンドルの高さもステップの位置も不思議と違和感がない。それに、心なしか下半身の収まりもいいような……。新型のプレスリリースを読むと、ハンドルは先代比で約3.4cmも下がり、ステップは約3cmバック&約1cmアップしているという。また、新製法で作られた燃料タンクはニーグリップ部分が先代よりもスリムになり、新設計のシートレールは最大で14mmも幅が絞り込まれているとのこと。こうした数々の変更がファーストコンタクトでの違和感解消につながっており、これなら乗れそうだという印象の源になっているのは間違いない。

乗車ポジションから見えるワイドな燃料タンクに圧倒されつつ、マシンをスタートさせる。今回試乗したのはSTDモデルであり、上位仕様のSPよりもサスペンションのグレードは下だが、そうと感じさせないほど作動性がいい。具体的には、荷重の少ない低速域でもスロットルのオンオフで車体がスムーズにピッチングし、その動きは初代ほど過敏ではないのだ。峠道では自由自在感が際立っており、フロントブレーキを残しつつ軽い入力でスイッとコーナーへ進入でき、スロットルを開ければ力強く立ち上がれる。このクラスとしてはホイールベースが短いので、あまり深く寝かさなくても高い旋回力が引き出せる上に、コーナリング中のライン変更も驚くほど容易だ。

新型MT-09が醸し出す自由自在感の要因の一つに、前後左右に動きやすいライディングポジションが挙げられる。一般的なネイキッドよりも着座位置は前寄りで、両腕を含む上半身に余裕があり、何が起きても姿勢変更で対処できる。加えて、4輪の後ろなどで流しているときの乗り心地も優秀で、これならあえて高価なSPを選ばなくてもいいのではと思ったほどだ。

3代目で刷新されたCFアルミダイキャストフレームは、縦方向の強い減速Gをしっかり受け止めつつも、旋回時に突っ張りすぎる感がなく、総じてしなやかに感じられる。そして、標準装着タイヤのブリヂストン・S23は、ナチュラルなハンドリングと高いドライグリップを持ち合わせており、MT-09とのマッチングは当然ながら優秀だ。

888ccのCP3エンジンは、アグレッシブさと扱いやすさが共存

搭載されている888cc水冷並列3気筒“CP3”エンジンは、吸気音を強調するために4代目で吸気ダクトを3本から2本に変更。エアクリーバーボックスカバーには、「アコースティック・アンプリファイア・グリル」と名付けられた開口部を設けている。電装系では、ライディングモードが4種類の「D-MODE」から、プリセット3種類+カスタム2種類の「YRC(ヤマハ・ライド・コントロール)」となり、新たに減速時やシフトダウン時のスリップやロックを抑制するBSR(バックスリップレギュレータ)が追加されている。なお、エンジン諸元に変更はなく、最高出力は120psを公称する。

このCP3エンジン、先代で排気量が846ccから888ccに増えているのだが、そのタイミングで特に低~中回転域がスムーズになったように思う。この4代目もそうで、846cc時代は3気筒らしい粒立った鼓動感が印象的だったが、今は直4かと思うほどに微振動が軽減されている。ジェントルと表現してもいいほどで、特に一般道を流しているときは心地良いとすら感じる。

YRCは、ハンドル右側に設けられたYRCモードボタンで切り替えられる。プリセットされているモードはスポーツ、ストリート、レインの3種類で、それぞれPWR(パワーデリバリー)、TCS(トラクションコントロール)、SCS(スライドコントロール)、LIF(リフトコントロール)の4つが連動して切り替わる仕組みだ。これらの制御には6軸IMUが関与しており、電子制御システムとしてはかなり高度な部類に入る。

これらが素晴らしいのは、万が一介入したとしても、それをライダーにほとんど感じさせないことだ。例えばトラコン。これがバイクに採用されはじめた当初は、滑りやすい路面でスロットルを大きく開けると、明らかに失速したりエンジン音に変化が生じたりした。対してこのMT-09では、介入したことすら気付かないほどに自然であり、しっかりと車体が前進する。そして、どのライディングモードにおいてもスロットルの動きに対する反応はスムーズで、今回の試乗では最も力強いスポーツモードを多用してすら疲労しにくいと感じた。

本領を発揮するのは7,000rpmから上の領域で、官能的なサウンドとともに弾けるようにパワーが盛り上がる。リフトコントロールがなければ、おそらくスロットルワークだけでフロントを持ち上げることはたやすいだろう。そうしたアグレッシブな面に磨きをかける一方で、一般公道で常用するのは4,000~5,000rpmまで。峠道でも7,000rpmまでがせいぜいだ。それだけ低~中回転域に豊かなトルクがある証拠であり、この二面性こそが最新CP3エンジンの魅力と言えるだろう。

ブレーキについては、フロントのブレンボ製ラジアルマスターシリンダーがいい仕事をしており、入力方向だけでなくリリース方向もコントローラブルだ。ブレーキシステムには通常の統合型ABSのほかに、BC(ブレーキコントロール)が搭載されており、これをオンにするとコーナリングアシストブレーキが有効になる。どのように介入するかまでは確認できなかったが、これも大きな安心材料にはなるだろう。

個人的には、3代目までのテールカウルが存在しないスタイリングに馴染めなかったというか、個性的であっても歪さを感じていただけに、4代目は素直にカッコいいと思っている。アグレッシブというMT-09のアイデンティティを大切にしつつ、ビギナーにも間口を広げてきた新型MT-09。価格は11万円アップしたが、それ以上の価値があると断言できる秀作だ。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

MT-09(2024年)
XSR900(2022年)

MT-09はXSR900比でシート高が15mm高く、ホイールベースは65mm短い。純ネイキッド的なライポジのXSR900に対し、MT-09の着座位置はやや前寄りで、ハンドルとの距離が近い。シート前方が絞り込まれていることもあって、足着き性は良好だ。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…