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カワサキNinja ZX-10RR……328万9000円
リッタースーパースポーツの2つの派閥
近年のリッタースーパースポーツは、ドゥカティ・パニガーレV4やアプリリアRSV4を筆頭とするサーキットにかなり特化した派と、スズキGSX-R1000RやBMW S1000RRが代表格になるストリートもOK派の2種に大別できる、と僕は感じている。とりあえずここでは、前者をA、後者をBとして話を進めると、2020年にガチ1000km試乗で取り上げた2台の日本製リッタースーパースポーツ、ホンダCBR1000RR-Rは先代のBからAにガラリと転身し、ヤマハYZF-R1は2020年型でAの枠内でややB寄りに移動?……という印象だった。
では2015~2020年のSBKで前代未聞の6連覇を達成した、カワサキZX-10R/RRはどうかと言うと、先代以前のキャラクターはAとBのちょうど中間だったように思う。ただし、ライバル勢の動向やカワキ自身の現状のラインアップを考えると、2年ぶりの大幅刷新を受けた2021年型は、Aに入るだろうと僕は想定していた。
ところが意外にも2021年型は、先代以前と同様にツーリングユースやビギナーにとっての扱いやすさを意識して開発され、快適性を考慮してクルーズコントロール機能を追加し、しかもグリップヒーターを純正アクセサリーとして設定しているのだ。一方で動力性能に直結する最高出力や最大トルク、軸間距離といった数値に劇的な変更はない。ということは、2021年型の特性は微妙にB寄りになったのだろうか?
そのあたりを探るべく、と言っても当記事の舞台はストリートなので、限界性能はわからないのだが、今回は上級仕様のRRをじっくり乗り込んでみることにした。
なお2016~2020年型ZX-10Rには、R:スタンダードとRR:レース用ホモロゲーションモデルの間に位置するモデルとして、電子制御式前後ショックのSEが存在したものの、2021年型にSEの設定はナシ。また、RRの特徴はパンクル社の軽量ピストンとチタンコンロッド、サーキット指向のカムシャフト、マルケジーニ製アルミ鍛造ホイール、シングルシートカウルなどだから、パッと見では278万3000円のCBR1000RR-R SPや319万円のYZF-R1Mを上回る、日本製スーパースポーツでトップの高額車であることは理解しづらいかもしれない。
意外な乗り心地とライディングポジション
2021年型ZX-10RRで市街地を走り始めて、僕が最初に驚いたのは乗り心地のよさ。前述したように、この車両の前後ショックは電子制御式ではないから、とりあえずの様子見として、パパッとボタン操作で柔らかい設定からスタートすることはできないし、そもそもRRの前後ショックはスタンダードのRより高荷重域重視のセッティングなのである(部品番号は異なるけれど、RRとRの前後ショックは基本的に同じユニットのようだ)。にも関わらず、ショーワが独自に開発したバランスフリータイプの前後ショックは、実に巧みに路面の凹凸を吸収してくれる。いわゆる“動き出しがいい”というヤツで、電子制御式ではなくてもこういう特性は作れるのか……と、僕はしみじみ感心してしまった。
続いては、乗りやすさを左右するライディングポジションについて。事前に読んだ資料で、先代に対して、ハンドルバーの位置が10mm前身し、ステップが5mm高くなり、シート座面後方の傾斜角度が強くなったという情報を仕入れていた僕は、ある程度スパルタンな雰囲気をイメージしていた。ところが実際の2021年型の乗車姿勢は、相変わらずAとBの中間という印象で、GSX-R1000Rよりはレーシーだけれど、CBR1000RR-RやYZF-R1よりはフレンドリー。この感触なら、ストリートでもそれなりに楽しめそうだ。
カワサキならではのエンジンフィーリング
近場のプチツーリングや日常の足として使って、面白いと思ったのはエンジン特性。まずは大前提の話をしておくと、2020年型CBR1000RR-Rに乗った時点で、オーソドックスなフラットプレーンクランクの並列4気筒で高回転高出力化を追求すると、最終的に低中回転域は味気がなくなってしまう……と僕は感じていた。逆にリッタースーパースポーツで常用域が楽しいエンジンを作るためには、GSX-R1000RやS1000RRが採用する可変バルブタイミング機構、あるいは、YZF-R1やイタリアンV4勢のような不等間隔爆発が必要なんじゃないかと。
ところが、フラットプレーンクランク+等間隔爆発+可変バルブ機構ナシという構成なのに、レッドゾーンのはるか手前の領域を使っていても、ZX-10RRは楽しい。この車両のエンジンには二面性が備わっていて、燃焼が適度にバラついている(個人的には内燃機関らしくて好感触だが、人によっては雑?と感じるかもしれない)6000rpm以下と、4つの気筒が力を合わせるかのようにシャープに回って行くそれ以上の回転域では、異なるフィーリングが味わえる。だから無理をして高回転域を使わなくても、ドラマチックな特性が満喫できるのだ。
改めて考えるとこういった感触は、カワサキ初の並列4気筒車となった1973年型Z1や、初代ニンジャの1984年型GPZ900R、ZX-10Rの先祖に当たる1994年以降のZX-9Rなどに、通じるところがある気がしないでもない。もちろんそれらとは異なり、ZX-10R/RRはレースでの勝利を前提にして生まれたモデルだから、開発陣は二面性や味わいなどということは考えてないはずだが、乗り手の感性に訴えかけてくるという意味で、やっぱり同社の並列4気筒は侮りがたい資質を備えていると思う。
絶妙の一体化が味わえる
一方の車体に関して、距離が進むに連れて感心したのは、マシンの中心のベストと思える位置に常に身体があること。これは単純にライディングポジションの問題ではなく、剛性バランスやサスセッティングなども関係のある話で、ZX-10RRで加減速を繰り返していると、フロントアクスルを両手で握っているような、リアアクスルに両足が乗っているような、絶妙の一体感が得られて、その結果として車格感がどんどん小さくなってくる。
もちろん峠道でスポーティに走ると、他のリッタースーパースポーツと同様に、コーナー進入ではフロント、出口ではリアが主役になるのだが、どちらかのタイヤに依存している感触は希薄だし、前輪荷重と後輪荷重を極端に意識する必要もない。この特性は乗りやすさだけではなく、安全にも貢献するんじゃないだろうか。
そんなわけでZX-10RRに好感触を抱いた僕だが、当記事の主な目的は、日本の道路事情でどれだけ楽しめるかを検証すること。近日中に掲載予定の第二回目では、約500kmのツーリングに使っての印象をお伝えしたい。
車名:ZX-10RR
型式:8BL-ZXT02L
全長×全幅×全高:2085mm×750mm×1185mm
軸間距離:1450mm
最低地上高:135mm
シート高:835mm
キャスター/トレール:25°/105mm
エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列4気筒/DOHC 4バルブ
総排気量:998cc
内径×行程:76.0mm×55.0mm
圧縮比:13.0
最高出力:150kW(204PS)/13200rpm
ラムエア加圧時最高出力:157.5kw(214.1ps)/14000rpm
最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/11700rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ点火
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板
ギヤ・レシオ
1速:2.600
2速:2.157
3速:1.882
4速:1.650
5速:1.476
6速:1.304
1・2次減速比:1.680・2.411
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:スイングアーム・ホリゾンタルバックリンク
タイヤサイズ前後:120/70ZR17 190/55ZR17
ホイールサイズ前後:3.50×17 6.00×17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:207kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:17ℓ
乗車定員:1名
燃料消費率国交省届出値:20.3km/ℓ(1名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:16.5km/ℓ(1名乗車時)