Ninja ZX-10RR・1000kmガチ試乗2/3「意外に少なかった、我慢のステージ」

本領を発揮できる快走路以外では、忍耐が必要。近年のリッタースーパースポーツに対して、そんなイメージを抱いている人は少なくないだろう。ただし2021年型ZX-10RRをじっくり乗り込んだ筆者は、ガマンのステージが予想以上に少ないことに、感心することとなった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

カワサキNinja ZX-10RR……328万9000円

純正指定タイヤは、RRがピレリ・ディアブロスーパーコルサSPで、RはブリヂストンRS11。この2つのブランドはCBR1000RR-R/SPも同じだが、ホンダの場合はグレードによる指定はない。

高速道路で気づいた3つの特徴

 ZX-10RRで撮影を兼ねたロングツーリングに出かけて、ちょっと意外だったのは高速道路である。実は僕にとって高速道路のプライオリティは、峠道と市街地に次ぐ3番目なのだが、このモデルではハイスピードでの巡航中にいろいろなことに気づき、考えさせられたのだ。

 最初に興味を惹かれたのは空力性能。スーパースポーツの空力性能と言ったら、ライダーは上半身を伏せた状態が前提で、話題の中心は最高速付近の安定性になることが多いのだけれど、このバイクは上体が起きた姿勢で常識的なスピードで走っていても、カウルが程よい塩梅で走行風を整流し、ライダーへの負担を減らしていることが伝わって来る。もちろん単純な防風効果という面では、スポーツツアラーのH2SXやニンジャ1000SX、ヴェルシス1000などには及ばないのだが、スーパースポーツという枠の中なら、ZX-10R/RRの高速巡航は快適な部類と言っていいだろう。

 なお快適と言えば、スロットルグリップの保持から解放されるクルーズコントロールも、2021年型ZX-10R/RRを語るうえでは欠かせない要素だ。世の中には、スーパースポーツにそんなものは必要ない、と言う人がいるようだが、今回の試乗を通して僕は、乗車姿勢が安楽ではないスーパースポーツにこそ、快適アイテムは必要じゃないかと思った。欲を言うならBMWのS1000RRのように、グリップヒーターとオートキャンセル式ウインカーも標準装備になれば理想的なのだけれど、日本製リッタースーパースポーツ初のクルーズコントロールの導入は、僕としては大歓迎したい気分なのである。

 一方で印象が悪化したのは、第1回目で絶賛したバランスフリータイプのショーワ製前後ショック。低速域の上質さとは裏腹に、高速域では路面の継ぎ目を通過すると露骨に跳ねるし、荒れた路面の峠道を走ってみると、凹凸を越えた際の衝撃がダイレクトに身体に入って来て、そのまま走り続けると腰痛になりそうな気配を感じる。

 もっとも、その原因はサーキットを前提とした設定のようで、後にスタンダードのRと同じセッティングに変更したら、問題はおおむね解消。さらに減衰力を弱める方向で調整すると、良好と言って差し支えない乗り心地が獲得できた。ちなみにRとRRのセッティングの違いは、フロントのプリロード(R:7回転戻し、RR:8と1/2回転戻し)、圧側ダンパー(R:2と3/4回転戻し、RR:2と1/2回転戻し)、リアの圧側ダンパー(R:2と3/4回転戻し、RR:2と1/2回転戻し)、伸び側ダンパー(R:1と1/2回転戻し、RR:1回転戻し)で、数字的には微々たるもの。とはいえ、その程度で明確な差異を感じるほど、バランスフリータイプの前後ショックは、わかりやすい資質を備えていたのである。

オーソドックスでドラマチックなエンジン

 続いては、荒れた路面の舗装林道からサーキットを思わせる快走路まで、さまざまなワインディングロードを走っての話。言うまでもなく、スーパースポーツにとってのメインステージは後者で、逆に前者は我慢のステージになることが多い。でもZX-10RRの場合は、2つの場面の落差が意外に少ないのだ。もちろん、本領を発揮するのは見通しのいい快走路だが、地元の人しか通らないような舗装林道でも、それはそれでという感覚でスポーツライディングが楽しめる。

 その一番の理由は、回転数によって異なるフィーリングが味わえる、ドラマチックなエンジンだろう。第1回目で述べたように、この車両のエンジンは本領の高回転域だけではなく、助走区間と言うべき低中回転域も楽しいから、回せないストレスを感じづらい。それどころか、先代に対して1~3速がショート化されたミッションを駆使して、シャープで力強くて滑らかな高回転域と、適度な燃焼のバラツキと振動を感じる低中回転域を、行き来するようにして使っていると、自ずと気分が高揚してくる。

 近年のリッタースーパースポーツで低中回転域が楽しいエンジンと言ったら、これまでの僕にとってはクロスプレーンクランク+不等間隔爆発のYZF-R1がベストだったのだが、ZX-10RRも相当以上に魅力的で、昔ながらの並列4気筒好きなら、カワサキに軍配を上げる人が多いのではないかと思う。いずれにしてもこのバイクのエンジンにとって昔ながらの構成、クランクがオーソドックスなフラットプレーンであることや爆発が等間隔であること、可変バルブタイミング機構を採用していないことは、まったくマイナス要素ではないようだ。

操安性に多大な影響を及ぼす、クランク軸と重心

 エンジンに加えてもうひとつ、ZX-10RRがさまざまなワインディングロードを楽しめる理由は、懐が深いハンドリング。僕は現代のリッタースーパースポーツのハンドリングに関して、旋回性重視の曲がりたがり:YZF-R1、RSV4、安定性重視で乗り手がきちんと指示を出さないと曲がらない:CBR1000RR-R、パニガーレV4、ニュートラル:GSX-R1000R、S1000RR、という3種が存在すると感じていて、ZX-10R/RRはニュートラルでありながら、GSX-R10000RやS1000RRとはどことなく趣が異なることが以前から気になっていた。

 その答えを教えてくれたのは、僕が尊敬する大先輩ジャーナリスト、和歌山利宏さんが他媒体で記したインプレである。和歌山さんの見解によると、ZX-10R/RRはライバル勢よりクランク軸が前方かつ低めでありながら、エンジン重心が高めで、その構成のおかげで、1次旋回ではジャイロ効果が程よい抵抗になって安定性を生み出し、舵角を入れやすく、2次旋回では高めの重心のおかげで自然なリーンを実現しているとのこと。もっとも過去にその記述を読んだ際の僕は、そういうものなのか……くらいの認識だったのだが、今回の試乗では和歌山さんの見解に共感。コーナー前半の絶大な安心感と、それ以降のシャープで気持ちいい旋回性は、ライバル勢とは異なる、クランク軸と重心位置のおかげだと思えた。

ジョナサン・レイの気分が味わえる

 第一回目の冒頭で述べたように、先代以前のZX-10R/RRのキャラクターは2つの派閥、サーキットに特化した派と、ストリートもOK派のちょうど中間で、その位置づけは2021年型でも変わっていないようである。と言っても、今回の試乗では限界性能は把握できていないので、サーキット性能がどうなっているのかは定かではないのだが、おそらく2021年型は、サーキット性能とストリート性能の両方にきっちり磨きをかけているのだろう。

 もっとも、約500kmを走った今回の試乗の終盤、僕の頭にふと浮かんだのはカワサキの他のリッター並列4気筒車、H2SXやニンジャ1000SX、ヴェルシス1000だった。べつにZX-10RRに対して、猛烈にツラいとか疲れると感じたわけではないけれど、いや、それなりには感じたけれど、いろいろな意味でフレンドリーなあの3台なら、長距離をもっと楽に走り続けられることは間違いない。となるとZX-10R/RRは、やっぱりツーリング好きでストリート指向のライダーにとってベストな選択ではないのである。

 じゃあどんなライダーにこのバイクが向いているかと言うと、それはもちろん、SBKで大活躍しているマシンをストリートで存分に乗りまくりたい、あるいは、年に何度かのサーキット走行会でジョナサン・レイ気分を味わいたい、という人だろう。そういう指向のライダーなら、ZX-10R/RRを買って後悔することははずだ。


近年のリッタースーパースポーツ界では、空力性能に貢献するウイングレットの扱い方が重要なテーマになっている。欧州勢は大胆に露出させるモデルが多いが、2021年型ZX-10R/RRはアッパーカウルに内蔵するという手法を選択。

主要諸元 

車名:ZX-10RR
型式:8BL-ZXT02L
全長×全幅×全高:2085mm×750mm×1185mm
軸間距離:1450mm
最低地上高:135mm
シート高:835mm
キャスター/トレール:25°/105mm
エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列4気筒/DOHC 4バルブ
総排気量:998cc
内径×行程:76.0mm×55.0mm
圧縮比:13.0
最高出力:150kW(204PS)/13200rpm
ラムエア加圧時最高出力:157.5kw(214.1ps)/14000rpm
最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/11700rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ点火
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板
ギヤ・レシオ
 1速:2.600
 2速:2.157
 3速:1.882
 4速:1.650
 5速:1.476
 6速:1.304
1・2次減速比:1.680・2.411
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:スイングアーム・ホリゾンタルバックリンク
タイヤサイズ前後:120/70ZR17 190/55ZR17
ホイールサイズ前後:3.50×17 6.00×17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:207kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:17ℓ
乗車定員:1名
燃料消費率国交省届出値:20.3km/ℓ(1名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:16.5km/ℓ(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…