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KTM・1290 SUPER ADVENTURE R……..2,640,000円
ブラック×ブルー×ホワイト
ストリートモデルでは5つのカテゴリーに全19種のバリエーション展開を持つ中、同社最高の価格が付けられた筆頭モデルである。
欧州に始まったアドベンチャーブームを牽引してきた象徴的モデルのひとつであり、オーバー1Lクラスの中では、最もオフロード走行に的を絞ったキャラクターを誇っている。 何よりも特徴的なのは、フロント21/リヤ18インチのスポークホイールに、ブロックパターンのオフロード用タイヤを採用している事。さらに乾燥重量で221kgと言う軽い車体も見逃せない。 このクラス(1L以上のビッグエンジンを搭載)のアドベンチャー系モデルは、一般的に19インチサイズの前輪を履いている。そんな中、21インチの大径サイズを採用しているのは唯一の存在。
その点が、スーパーアドベンチャーRのキャラクターを象徴しているのである。
補足するとモトクロッサーやエンデューロマシン等の競技用車両は、フロントに21インチサイズを履くのが常識的。凹凸路面の基本的な踏破性能が高いからである。
フレーム構造や搭載エンジンは基本的に本誌掲載済みのスーパーアドベンチャーSと共通。Rのフレームはコーポレートカラーのオレンジ色で、リヤのサブフレームは白が組み合わされている。渋い黒で統一されたSと比較すると、Rはワイルドな仕上がりを誇っている。左右に振り分けられたガソリンタンクの両サイドをガードするオレンジのクラッシュバーも標準装備だ。
また両車で大きく違うのは、一段と背の高いフォルムにある。ロードクリアランスもSの223mmに対してRは242mm。約20mm高い。その差は、WP製の前後サスペンションの違いにある。Sは電子制御されるアクティブ・サスペンションが装備されているが、Rには電子制御を持たないシンプルなタイプを装着。
なお、フロントフォークの長さはSの885mmに対してRは913mm。前後共に長いストロークを稼ぐセッティングが成され、ホイールトラベルはいずれも20mmアップの220mmになっている。
またキャスターはSよりもRの方が少し寝かされ、ホイールベースもRの方が21mm長い。大径ホイールの採用と相まって、直進安定性を強める設定が成されているわけだ。
クロモリステンレス鋼管製トレリスフレームには、LC8と呼ばれる水冷DOHC4バルブの横置き75°Vツインエンジンを搭載。 ボア・ストロークは108×71mmのショートストロークタイプ。
前バンクは左側、後バンクは右側にカムチェーンを持つ。細部のパーツはDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン・コーティング)が施され低フリクション化と高耐久性を追求。
レーシングエンジンのそれを彷彿とさせる鍛造ピストンにはF1の技術が活用されているそう。クランクウェブ形状にも運動ロス低減が徹底されていると言う。
左右にセパレートされたツインラジエターを持つ冷却システムや、気筒当たり2つのスパークプラブを持つツインインジェクションシステムを採用。排気量は1301ccで、最高出力は160hp、最大トルクは138Nmを発揮する。
オフロードフリークを納得させる高性能
1L以上のアドベンチャーモデルとあれば予め想像できるが、試乗車を受け取ると改めてそのサイズの大きさに驚かされる。特に背の高さは印象的で、シートの高さにも閉口してしまう。自身の運動能力や身長の低下がある筆者にとってそのボリューム感には圧倒されてしまったのが正直な印象である。以前試乗したSよりも増して今回のRは大きく立派。
ただ、バイクを押し歩く時の印象は、意外と軽め。車輪の転がりも軽く感じられた。車重が220kg以上あるバイクを軽めと表現するのは適切ではないのかもしれないが、この類のライバル達の中では軽く扱え明らかにフレンドリー。そこに大きな魅力がある事は間違いないのである。
とは言えまたがると両足は爪先立ちになる。しっかりとしたグリップが得られる平坦な舗装路なら問題ないが、それでもバイクの垂直を保ちながら、サイドスタンドを跳ねたり、乗り降りでリヤシートやキャリアに足を引っかけない様、かなり気をつかう。場合によっては左足をステップに乗せて発進しながら股がったり、降りながら停止する(ガストン・ライエ乗り)方が気軽に扱える感じ。信号停止でも地面より高い歩道の段差を探す等の工夫が必要と思えた。
仮にオフロードで滑っても、足を着いてバランンスやタイヤのグリップ力を建て直す等、上手に扱いこなす芸当は、少なくとも筆者にはできないのである。
それでもフラットダートで遊べたり、砂にパワーを食われてしまうデザートツアーに参加する機会があったなら、真っ先にこのRを選択すると思えた。
ミドルクラスより重いが、エンジンのパフォーマンスは圧倒的に優位にあり、重さのハンデを凌ぐ豪快さに魅力が感じられたからだ。どうせならKTM最高峰のモデルを操ってみたいという想いにかられるのもまた正直な感想なのである。
豪快なエンジンパフォーマンスは、常に図太く逞しいスロットルレスポンスを発揮。いかにもショートストロークエンジンらしい、吹き上がり。絶妙なクランクマスが組み合わされて高速域までの伸びも気持ちよい。
低回転域まで良く粘る柔軟性と瞬発力にも長けたエンジンフィールは、頼り甲斐がありかつ扱いやすいのである。
ローギヤで5,000rpm回した時のスピードはメーター読みで46km/h。このクラスのバイクとしては低めなギヤリングで、加速力は本当に強烈。
また6速トップ100km/hクルージング時のエンジン回転数は3,500rpm。Vツインエンジンの回転はスムーズで気になる振動もなく、クルーズコントロールを効かせて快適なロングツーリングが楽しめる。
ただし、Sには標準装備されていた前車の速度に自動追従するハイテク機能は無い。
試乗は舗装路のみだったが、操縦性は至って素直。ただし、操舵レスポンスはゆったりと穏やかな挙動に終始する。コーナー進入でバイクを傾けた時に向きを変えて行く旋回力もゆっくりと訪れる感覚。
ブロックパターンのオフロード用タイヤが装着されているので当然ながら、一般的ロード用スポーツバイクと比較すると、動きは穏やかで舗装路でのグリップ力も控えめ。
交差点で右左折する様なシーンでも濡れた路面等では、車両の傾け(バンク角)具合やスロットル開度を控えめにする必要はある。もっとも、電子制御も働いているので、アクセル開け過ぎによる後輪のスリップは巧みなパワーセーブ(電子制御)で失敗する事も無いだろう。
乗り味としてはむしろ直進安定性がしっかりしている。その落ち着きは高速ツーリングでも実に快適。
豊かで逞しいエンジンパフォーマンスと共にゆったりと流していると、ついつい頭の中では妄想の世界が広がってくる。
地中海を渡った先の砂漠を、グリップの良いステップに立ち上がり、前荷重気味のライディングスタイルで、テールを滑らせながら豪快にダッシュ。時に大きなジャンプシーンも難なくクリアして、道無き道を自由自在に駆けめぐる。
体力と技量が伴わない事が実に残念だが、そんな夢を見ることができる。オフ好きにはたまらない至高のポテンシャル。そんな楽しさを備えていることは間違いないのである。
足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)
シート高は880mm。この手のモデルとしては、低めに設計されているとは思うが、筆者の体格では両足つま先立ちになる。平坦な舗装路なら良いが、条件の悪い路面でバイクを支えるには不安が募る。