達人御用達のミドルバイク、スズキGSX-8R。路面蹴飛ばす270度パラツイン搭載でアクセルを開けるのが楽しい!!

スズキ『GSX-8R』は排気量775ccのパラツインエンジンを積むニューモデル。街中やワインディングに寄り添う扱いやすさを持ちつつ、ロングツーリングやサーキットでのスポーツ走行を爽快に楽しめるなど、1台で幅広い用途に対応する。日本国内で販売されるボディカラーは「トリトンブルーメタリック」をはじめ、「マットソードシルバーメタリック」や「マットブラックメタリックNo.2」も選べ全3色。今回、スズキらしいブルーの車体に乗ってみた。

REPORT●青木タカオ(AOKI Takao)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

近頃人気の“オトナ向け”ミドル

排気量で言うなら700〜900ccくらい、リッタークラス未満のアッパーミドルが活気づいている。1000ccの4発では、正直なところ持て余し気味と見栄をはらず背伸びをしない“オトナ向け”であり、かなり“ツウ”な選択とも言えるが、近年このセグメントの人気がひときわ高い。

 そもそもスズキの大型二輪クラスには、いぶし銀な名車『SV650』(V型2気筒)があり、生産終了の『GSX-S750』(並列4気筒)もまた然り根強い人気を誇っている。他メーカーにも中間排気量と呼ばれる“良いところどり”をしたこのセグメントは大型ビギナーをはじめ、ベテランにも高く支持されている。

『SV650』からすれば「もう少しだけ上のクラスへ」、『GSX-S750』からすれば「ナナハンの後継機種に」というニーズとなる。そこへきてスズキは、排気量775ccのパラレルツインエンジンを新開発し、2022年秋のEICMA(ミラノショー)で『GSX-8S』と『Vストローム800DE』を発表。翌23年より欧州・北米にて順次発売され、日本でも同年3月24日に両車が揃って販売をスタートした。

さらにスズキはフルカウルのロードスポーツ『GSX-8R』を2024年1月25日に発売。競合にはヤマハ『YZF-R7』やカワサキ『ニンジャ650』らがある。

ニーズ高まるフルカウルスポーツ

冒頭でリッタークラス未満のアッパーミドルが活気づいていると書いたが、新型で目立つのはパラレルツインエンジン搭載車であることだ。

1986年の『GPZ500S』をルーツにER-6系を経て進化と熟成を繰り返してきた『ニンジャ650』の並列2気筒エンジンは180度クランクだが、『YZF-R7』や『GSX-8』系のパラツインは不等間隔爆発によってトラクションを稼ぐ270度位相クランクを採用している。

ヤマハが1996年に発売した『TRX850』で注目を集めた並列2気筒270度位相クランクが、いま再び脚光を浴びているのだ。

パラツインに注目!

GSX-8シリーズおよびVストローム800系のために新開発されたのが、水冷4ストロークDOHC4バルブの776cc並列2気筒エンジンだ。スズキのパラレルツインは、現行車でこそ『GSX250R』と『Vストローム250』に積まれているが、他は見当たらない。

いつ以来なのか調べてみると、1970年代後半から発売された『GS400』や80年代の『GSX400E』までさかのぼることができ、大型二輪枠なら世界初の可変マス式フライホイール機構を持つ『GR650』(1983年)まで並列2気筒エンジンはなく、いずれも180度位相クランクだ。

ちなみに、ターボチャージャー付きSOHC588ccの「Recursion(リカージョン)」が2013年に、DOHC700ccの「XE7」が2015年の東京モーターショーに出品され、いずれも話題を呼んだが、その心臓部が並列2気筒であった。

長きに渡って大型車にパラツインがなくとも、スズキには秀逸な『SV650』系のVツイン、あるいは名機と名高い“K5”エンジン(2005〜08年GSX-R1000並列4気筒)があるから、不利になることはなかったのだろう。しかし、ついに新作パワーユニットが満を持して投入されたのだ。

アグレッシブなマスフォワードスタイル

ストリートファイター『GSX-8S』をベースにフルカウル化した『GSX-8R』は、アグレッシブなマスフォワードのスタイリングで、フロントカウルからリヤにかけてのラインが流麗でスリム。

鋼管製ダイヤモンドフレームに吊り下げられるエンジンはカウルに隠れず、そのほとんどを見ることができる。サーキットに特化したスーパースポーツではなく、幅広い用途に使えるモデルであると見た目でもわかるのは、こうしたところからだろう。

それでいながら、フロントマスクは戦闘的。六角形のLEDヘッドライトを縦列に2灯配置した上に、LEDポジションランプをレイアウトし、一度見たら忘れない独創的なツラがまえ。

フェアリング(灯火器類を含む)はフレームマウントだから、ステアリング機構にはまったく干渉していない。ハンドリングが軽快で、クセがなく素直。身のこなしが軽く、800ccもの大型バイクを操っているというプレッシャーを感じないことも報告しておきたい。

幅広いシーンで快適なライポジ

俊敏性は車体の軽さやスリムさからも感じられる。車体重量は205kgで、ネイキッドの『GSX-8S』からわずか3kg増しに抑えられている。

シート高は810mmで『GSX-8S』と変わらない。身長175cm/体重66kgの筆者の場合、通常走行時の片足立ちならカカトまでベッタリと地面に足が届く。

両足を下ろした場合はカカトが浮くものの、押し引きするときはつま先でしっかりと地面を蹴り出せ、踏ん張りが効く。

キャスター/トレールは『GSX-8S』と同一の25°/104mmで、異なるのはテーパー付きアルミ製バーハンドルが、アルミ鍛造のセパレートハンドルとなっていることだ。フロントへの荷重が自然にかかる。

それに伴い、前傾姿勢がきついかと言えばノー。トップブリッジから上方へ引き上げられ、グリップ位置は高めに設定されている。窮屈さのないゆとりあるライポジで、ツーリングでも疲労感が少ない乗車姿勢だ。

トラクション稼ぐ270度クランク

心地良い鼓動感を伴いつつ、エンジンは低回転域から滑らかでギクシャクせずにコントロールしやすい。アクセルを大きく開けても、駆動輪が路面を掴む感覚がしっかりとあり、力強い加速フィールを堪能できる。

前後長が短いパラレルツインはエンジン搭載位置の自由度が高く、最適な重量配分とライディングポジションを実現できる。また、ライダーの着座位置を前方に動かせることができ、フロントへの荷重がよりしやすい。

並列2気筒270度位相クランクの点火タイミングは、270度-720度を繰り返し、90度Vツインと同じ燃焼間隔となる。シリンダー点火間のクランク回転(270度から720度の間/450度)は、駆動輪がトラクションを回復するのに必要な時間が得られる。

コーナー立ち上がりの低回転からレスポンスが良く、そして回転数が上がるにつれてトルクが旺盛に立ち上がっていく。トラクションが分かりやすく、アクセルを開けるのが楽しい。

また、270度位相クランクにより発生する1次振動と偶力振動を打ち消すため、2つのバランサーをクランクシャフトに対して90度に配置する2軸1次バランサーを搭載している。振動を抑え、スムーズな走行に貢献するとともに、前後方向をコンパクト化し、軽量化も実現した。「スズキクロスバランサー」と名付け、特許を取得している。

パルス感がとても心地良いのは、排気音も含めて言えることで、ショートタイプマフラーを持つ2in1エキゾーストシステムは、コレクター内に2段式触媒コンバーターを装備。排出ガス規制に対応しながら出力など性能面、そしてライダーが感じるフィーリングを大切に、設計・開発が進められた。

電子制御も最新版

クラッチ操作が軽いのは、スリーブハブとプレッシャーディスクに設けたアシストカムとスリッパーカム構造によるもの。加速時にアシストクラッチとして機能し、エンジントルクを効率良く伝達しつつレバー操作力を低減。減速時のシフトダウンでは、後輪からのバックトルクによるエンジンブレーキと、後輪のホッピングを低減するスリッパー機能を有する。

ドライブモードセレクターやトラクションコントロール、電子制御スロットル、双方向クイックシフト、イージースタートシステム、ローRPMアシストを総合的にコントロールする「スズキインテリジェントライドシステム(S.I.R.S.)」も自慢の電子制御システムだ。

スズキの上級スポーツバイクに乗るユーザーには、もはや定着しつつあるスズキドライブモードセレクター(SDMS)は3つの走行モードから任意のモードを選択し、エンジン制御マップの切替えが可能。最高出力は変わらず、スロットルレスポンスなど出力フィーリングの違いが体感できる。3つのモードは以下の通りで、ここに記しておこう。

・Aモード(アクティブ)
最もシャープなスロットルレスポンスであり、すべてのスロットル開度において最大のエンジン出力が得られる。スポーティな走りを味わうことができる。

・Bモード(ベーシック)
Aモードより中間のスロットル開度においてスロットルレスポンスがややマイルドな特性。市街地走行やツーリングなどに適用するようセッティングされており、コントロール性が高いモードになっている。最高出力値は変わらない。

・Cモード(コンフォート)
Bモードより高いスロットル開度まで、スロットルレスポンスがマイルド。最高出力値は変わらないが、非常に滑らかな加速が得られる。ライダーのスロットル操作による負担を軽減。また、タンデムライダーに急なスロットル操作等で与えてしまうギクシャク感をできる限り抑える、スムーズな出力特性となる。

前後輪の速度やスロットルポジション、クランクポジション、ギヤポジションの各センサーからの情報により、リヤタイヤのホイールを検出した際、瞬時に出力を低減するトラクションコントロールは3モード+OFFからシステムの介入度を設定できる。

操る楽しさを知ることができる

車格も圧倒されるほどではないし、実際、サイドスタンドを払って車体を直立させるだけでも重さを感じさせない。それでいて、800cc/最高出力80PSと余裕のパワーを持つ。

幅広い層がさまざまな用途に使えるスポーツバイク『GSX-8R』は、操る楽しさを知ることができ、またそれを熟知するベテラン/上級者にも支持されるに違いない。

冒頭にも少し書いたが、“良いところどり”をしたクラスであり、その最新モデルが『GSX-8R』だ。重ねて言うが、“ツウ”で賢いチョイスと言える。

ディテール解説

フロントブレーキは対向4ピストンラジアルマウントキャリパーと、310mmフローティングディスクの組み合わせ。強力な制動力とコントロール性を発揮する。

 SHOWA SFF-BP(セパレートファンクションフロントフォーク・ビッグピストンフォーク)は、右にダンパーとスプリング、左にスプリングを配置し、機能を左右で分けている。フロントフォークの内部構成部品を減らすことができ、軽量化に貢献。ダンパーピストンの大径化によって、高い減衰力が発揮可能だ。

5インチカラーTFT液晶マルチインフォメーションディスプレイを採用。両サイドにはLEDインジケーターが見やすくレイアウトされた。

直感的に各種操作ができるコントロールスイッチ。モード/セレクトスイッチは左に配置され、「スズキインテリジェントライドシステム(S.I.R.S.)」をメーター画面を見ながら設定できる。ハンドル右にはスターター/キルスイッチとハザード灯のボタンスイッチが配置された。

直進安定性や機敏性、乗り心地の良さに貢献するリンク式モノショックサスペンションは、『GSX-8S』ではKYB製だが、『GSX-8R』では日立Astemo SHOWA製としている。スプリングプリロードの調整が可能だ。

クラッチやスロットル操作をしなくともシフトアップ&ダウンができる双方向対応型のクイックシフターを標準装備。システムはOFFにすることもできる。

前後長の短縮化を達成するパラレルツインエンジン搭載のため、ライダーのヒップポイントをより前方に配置することができた。シート表皮はグリップ力が高く、スリムな形状とエッジを滑らかにカーブさせたことで、足つき性に優れる。

ETC2.0車載器が純正オプションで設定されているが、キーロックで開閉のできるリヤシート下のスペースに収まりそうだ。

縦、横、ねじれ方向、いずれにも高い剛性と強度を備えるアルミ製スイングアームを採用。1465mmのホイールベースは直進安定性に寄与する。また、軽量アルミ製キャストホイールには、ダンロップ「SPORTMAX Roadsport 2」ラジアルタイヤを履く。リヤブレーキはピンスライド式のシングルピストンキャリパーに240mmディスクローターをセット。効きもタッチも申し分ない。

コンパクトなデザインのLEDライセンスランプ一体型LEDテール&ストップランプを採用。リヤビューをよりスポーティに演出している。

GSX-8R 主要諸元

全長×全幅×全高 2155×770×1135mm
ホイールベース 1465mm
最低地上高 145mm
シート高 810mm
車両重量 205kg
エンジン形式 水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒
総排気量 775cc
ボア×ストローク 84.0×70.0mm
圧縮比 12.8:1
最高出力 59kW(80PS)/8500rpm
最大トルク 76Nm/6800rpm
燃料タンク容量 14L
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式(前・後) Φ310mmダブルディスク・Φ240mmシングルディスク
タイヤサイズ(前・後) 120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W)
燃料消費率 WMTCモード値 23.4km/L
新車価格(税込み) 114万4000円

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著者プロフィール

青木タカオ 近影

青木タカオ

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。最新バイク情報をビギナーの目線に絶えず立ち返…