125cc相当の電動ニンジャ、eブーストで立ち上がりビューン! 圧倒的なマスの集中感!|カワサキ・ニンジャe-1試乗記

2023年9月、カワサキは自社初となる電動モーターサイクル「ニンジャe-1」と「Z e-1」を正式発表。この2モデルは今年1月に国内販売がスタートした。どちらも欧州A1ライセンスに対応した最高出力に設定され、日本では原付二種登録となる。今回はフルカウルのニンジャe-1に試乗した。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●カワサキモータースジャパン(https://www.kawasaki-motors.com/)

カワサキ・ニンジャe-1……106万7000円

車体はニンジャ250/400をベースに開発されているが、動力源が異なるためフレームは専用設計となる。外装はニンジャ250/400と瓜二つで、ホイールのデザインとタイヤの細さはかつてのニンジャ250SLを彷彿させる。マフラーが存在しないことの違和感は、エンジン音がしないことに比べれば些細な問題だ。
駆動系はオートマチックのため、クラッチレバーとシフトペダルが存在しない。車体色は写真のメタリックブライトシルバー×メタリックマットライムグリーンの1種類のみ。

ロードモードでの加速感は150ccクラスのスクーターに比肩

見た目はニンジャ250/400とそっくりなニンジャe-1。17インチのタイヤはニンジャ250に対して前後とも1サイズずつ細く、電動バイクなので当然ながらマフラーはなし。そして、ナンバープレートは原付二種枠であることを示すピンク色。専用のカラーリングと相まって、何とも不思議なオーラを漂わせている。

エンジンの代わりに動力源として採用されているのは、最高出力12psのコンパクトなブラシレス電動モーターだ。取り外し可能なリチウムイオンバッテリーを2個搭載しており、1回の充電で走れる距離は72kmと公称している。ライディングモードは、通常走行用のロードモードと、電力消費を抑えるエコモードの2種類で、15秒間だけ出力が向上するeブースト機能を採用。さらに、駐輪場などで取り回す際に便利なウォークモードを設定しており、これは前進(約5km/h)だけでなく後退(約3km/h)も可能だ。

メインスイッチをオンにし、モータースタートボタンを長押しするとメーターの画面が切り替わり、これで運転が可能に。スロットルを開けてすぐ、開度で言うと1~2%の段階から駆動力が発生するが、開け始めの立ち上がりは非常にスムーズだ。理論上、電動モーターは0rpmで最大トルクを発揮することから、この発進時の滑らかさは駆動電流の制御が緻密であることの証だ。

ロードモードでの加速感は125ccのスクーターを上回り、150ccクラスに匹敵する。しかもほぼ無振動かつ静かなモーター音が聞こえるのみなので、高級なバイクに乗っているような印象すらある。回生システムが搭載されているが、右手を戻した時の減速フィールはスクーター並みで、スロットルの開け閉めでギクシャクしにくいのはうれしい。なお、エコモードはだいぶ出力が制限され、加速感としては50ccのスクーターに近い。バッテリーの消耗をセーブするためとはいえ、流れの速いバイパスなどではあまり使いたくないというのが正直な感想だ。

15秒間だけ使えるeブーストの加速力は、想像していたよりもはるかに力強かった。250ccクラス並みと言うとやや大げさだが、とはいえニンジャ250の7,000rpm付近でトルクが盛り上がるぐらいの加速感は十分にある。実際、スタートから法定速度の60km/hまではあっという間で、公称最高速の88km/h(ロードモード)なんて軽く超えてしまいそうな勢いだ。なお、電動モーターの特性上、回転数が上がるほどトルクが減っていくので、内燃機関のようなエキサイトメントは薄く、また振動がない代わりに鼓動感や脈動感といった感性に訴える要素はゼロに等しい。足代わりのスクーターならまだしも、モーターサイクルは趣味性の高い乗り物なので、EVについてはこのあたりの作り込みが今後の課題となるだろう。

澄み切ったハンドリング、eブーストで鋭い立ち上がり加速も

ハンドリングについては、車体がニンジャ250/400をベースに開発されているので、その扱いやすさを継承。さらにマスの集中が増していることで、特にワインディングロードので走りはスポーティそのものだ。

ホイールベースはニンジャ250と同じ1,370mm。同じ原付二種のフルカウルスポーツ、スズキ・GSX-R125が1,300mm、ヤマハ・YZF-R125が1,325mmなので、それらよりは長めだ。車重は140kgで、GSX-R125の137kg、YZF-R125の141kgとほぼ同等。ちなみにニンジャ250は166kgなので、26kgも軽いことになる。

見た目のボリューム感とは裏腹に車重は原付二種と同等。しかも電動モーターが低い位置に搭載されているのと、先にも記したようにタイヤサイズがニンジャ250に対して前後とも1サイズずつ細いので、ロール方向の動きが非常に軽快だ。それでいてフロントの操舵はクイック過ぎず、ホイールベースも軽二輪並みに長いので、街中からワインディングロードまで非常に扱いやすい。

何より感心したのは、路面からのインフォメーションが潤沢なことだ。おそらくエンジンの微振動によってアスファルトの凹凸の様子がかき消されないからだろう。この澄み切った手応えは、ロードバイク(自転車)で峠道を下っているようでもあり、電動におけるメリットの一つになろう。

そして、ワインディングロードではeブーストが活躍する。コーナー進入時にeブーストボタンを押すと、上り勾配がきついコーナーでも鋭く立ち上がることができる。ただし、旋回中にスロットルを一度でも戻すとeブーストが即キャンセルされるので、多少の慣れは必要だ。

さて、電動バイクではやはり航続距離が気になるもの。今回は標高差のあるワインディングロードをメインに走行したため、電費に大きなバラつきがあった。出発時、バッテリーの残量は90%台だったが、峠道の上りに入った途端、充電レベルゲージが一つ、また一つと減っていき、目的地である峠の茶屋に到着したときにはRANGE(航続可能距離)が17kmに。出発地点まで真っ直ぐに戻れば10km足らずだから、ギリギリ間に合うはず……。祈りながら峠道を下っていたら、今度は回生システムがいい仕事をしてくれたらしく、市街地に入ったときにはRANGEが50km台まで回復した。無事に出発地点に戻り、バッテリーのインジケーターを確認したら二つとも40%台で、峠の茶屋での焦りはいったい何だったんだろうという気分に。

それと、取り回しに便利なウォークモードについて。スロットルを開ければゆっくりと前進、スロットルをゼロ位置からさらに閉じればゆっくりと後退するのだが、ブレーキレバーを握る動作でどうしても閉じる方向へ手が動いてしまい、峠道のUターンで崖から落ちそうになり非常に焦った。慣れれば問題ないのだろうが、ここは何かしらの対策が必要かもしれない。

車両価格は106万7000円。ニンジャ650(104万5000円~)よりも高いが、国からのCEV補助金12万円をはじめ、各地方自治体の補助金も受けられるのは見逃せない。ちなみに東京都に住民票がある人は、都から46万円もの補助金がもらえるので、国からの分と合わせて58万円となる。結果、車両は48万7000円となり、YZF-R125よりも安くなることに。

電動モーターによるエキサイトメントこそ薄いが、動力性能そのものは原付二種枠を超越。しかもハンドリングは内燃機関では成し得ない領域へ。電動モーターサイクルの未来は明るいことを証明してくれる秀作だ。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

原付二種登録ながら車体のボリューム感は軽二輪。セパハンを採用しているが、上半身の前傾は深くはなく、またステップ位置も前寄りで、オールラウンダーといった雰囲気だ。
シート高は785mmで、ニンジャ250より10mm低い。ご覧のとおり足着き性は良好で、ステップも邪魔にならない。座面の高さが30mmアップするハイシート(1万8480円)を用意。

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