50代ライダーこそ乗りたい、ヤマハ・XSR900GP。苦手なのはタイトなUターンだけ?

1980年代のグランプリマシン「YZR500」をオマージュしたモデルとして、昨年のジャパンモビリティショー2023で話題沸騰となったヤマハのXSR900GP。スポーツヘリテージのXSR900をベースに、専用外装をまとうだけでなくフレームや足周りにまで手を加えるなど、ヤマハの並々ならぬ意気込みが伝わってくる。レーサーレプリカ世代の筆者が、その世界観をお伝えしよう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ヤマハ・XSR900 GP ABS……143万円(2024年5月20日発売)

近年、ネオクラシックやヘリテージなどと呼ばれるジャンルが人気を集める中、ヤマハが特定のモデルをオマージュしたのはこれが初。ベースとなっているのはXSR900で、1980年代のYZR500を彷彿させる専用外装をまとうだけでなく、シャシーの剛性チューニングまで実施している。
XSR900GP(2024年)
XSR900(2022年)

ベースとなった2022年型XSR900と並べると違いは一目瞭然だ。なお、XSR900の2024年型は車体色の変更のみで、価格は125万4000円となっている。

心地良い汗をかけるハンドリング。前後サスの動きは上質だ

インプレッションに入る前に、まずは簡単な自己紹介をさせていただきたい。筆者は1986年に高校へ入学。1988年に原付免許を、卒業間近の1989年に中型二輪と四輪の免許を同時に取得しており、人生で最も多感な時期に1980年代レーサーレプリカブームの影響をダイレクトに受けた世代である。このころのレプリカの元ネタとなったグランプリレーサーは、ホンダならNSR500/250、ヤマハならYZR500/250などだ。当時のヤングなライダーたちは、どうにか手に入れたNSR250RやTZR250をベースに、ハンドルを下げたりバックステップを付けるなどして、憧れのレーサーに似せるためのカスタマイズを楽しんだ。それがどんなに乗りづらくなろうとも、である。

そんなレーサーレプリカ世代の筆者だからこそ、XSR900GPにまたがった瞬間、当時の記憶が次々と蘇ってきた。燃料タンクを抱きかかえるようなライディングポジションは、1985年に登場したスズキのGSX-R750を彷彿させるものであり、また足着き性が極端に悪くないのも当時のレーサーレプリカに通じる要素だ。確かに前傾姿勢は深く、お世辞にもロングツーリング向きとは言いがたいが、もしこれがスズキのKATANAのように極端なアップハンドルで登場していたら、間違いなく「コレジャナイ!」という大合唱が聞こえてきただろう。なお、ステップは防振ラバー付きであり、ここだけが個人的に興醒めポイントではあるが、おそらくXSR900やMT-09からの純正流用で何とか解決できそうだ。

RZ250RRやTZR250(1KT)に乗っていた当時の思い出とダブらせつつ、ワクワクしながら発進したところ、駐車場から路地に出る段階で早くも戸惑った。ハンドルを大きく切ると、手がタンク(正確にはエアクリーバーボックスカバー)に当たってしまうのだ。そう、セパハンゆえに実質的なハンドル切れ角が少ないのである。最小回転半径は、ベースとなったXSR900と同じ3.5mを公称するが、ストッパーに当たるまでハンドルを切るには、そのたびに手を握り変える必要があるのだ。ちなみに、スーパースポーツYZF-R1の最小回転半径は3.4mなので、XSR900GPがどれほど小回りが苦手かは想像できるだろう。

とはいえ、戸惑ったのは低速域でのタイトターンぐらいで、それさえ理解してしまえば、ハンドリングは極めてニュートラルだと分かる。何より感心したのは、XSR900GPのために専用開発されたKYB製の前後ショックで、スロットルのオンオフやブレーキングによって、スムーズかつ自在にピッチング姿勢が作り出せる。そして、そのピッチングの中心にライダーがいることが直感的に理解できるので、マシンとの一体感が非常に高いのだ。

旋回性については、ホイールベースの長いXSR900をベースとしている上に、キャスター角もそのベース車よりわずかに寝ているので、フロントから積極的に向きを変えるようなタイプではない。特にタイトなワインディングロードでは、アップハンドルのXSR900の方がはるかにイージーに扱えるだろう。とはいえ、積極的な荷重移動やハンドル操作など、ライダーがすべき仕事量が多いのは、このマシンにおいて決してネガティブな要素ではない。没入感とでも言おうか、いつしかマシンを操ることに集中し、気が付けば山奥の峠道で心地良い汗をかいていた。ソロでも完結できる速さと楽しさ。これこそがヤマハの狙いなのだろう。

888ccのCP3エンジンは、当時のYZR500に迫る最高出力を発揮

XSR900GPに搭載されているパワーユニットは、2024年型MT-09と共通の888cc水冷並列3気筒、通称“CP3”エンジンである。現行XSR900との違いは、ライディングモードが4種類の「D-MODE」から、プリセット3種類+カスタム2種類の「YRC(ヤマハ・ライド・コントロール)」になったことと、双方向クイックシフターが第3世代に進化したこと。それと、クルーズコントロールの設定が「4速以上かつ約50km/h~、速度昇降が2km/h毎」だったのが、「3速以上かつ約40km/h~、1km/h毎」になったことだ。つまり、基本的な違いは電子制御のエリアであり、ハード面ではセパハン化に伴いエアクリーナーボックスの形状が変わった程度だ。

さて、YZR500がアルミ製デルタボックスフレームを採用したのは、1983年シーズンの0W70から。ヤマハの公式サイトによると、このグランプリレーサーの最高出力は120ps/11,000rpm以上とされており、奇しくもXSR900GPの120ps/10,000rpmとほぼ同じなのだ。

当時のGP500に限りなく近いパワーと考えると、このCP3エンジンを起用したことに意味があると思えるはずだ。997ccのYZF-R1が200psを発揮する昨今、888ccで120psなんて大したスペックではないと反論する人もいよう。しかし、このパワーユニットは公道においてワイドオープンするのをためらうレベルの加速力を発揮するので、レーサーライクなスタイリングに惚れてオーナーになった人をガッカリさせないと断言できる。

峠道を含む一般公道で使うのはせいぜい7,000rpmまで。PWR(パワーデリバリーモード)のレベルは4段階で、出力が制限されないレベル1~3では、7,000rpm付近を超えると弾けるかのごとくパワーが盛り上がる。今回、市街地で感じたのは、4,000rpm以下でも力強く加速できることと、その領域での微振動の少なさだ。より洗練されたとでも言おうか、CP3エンジンの電子制御系はさらに熟成が進んだような印象だ。

なお、個人的に電子デバイスで気に入ったのは双方向クイックシフターである。スロットルを開けながらのシフトダウン、閉じながらのシフトアップにも対応するようになり、しかも変速ショックは相変わらず少なめだ。クラッチレバーの操作力が軽いことも含め、変速系に不満は一切ない。

最後にブレーキについて。YZF-R7が登場して以降、ヤマハにおいてブレンボのラジアルマスターシリンダーの採用例が増えており、XSR900GPもそれに含まれる。これのいいところは、入力方向だけでなくリリース方向にもコントロール性に優れており、だからこそ安心してコーナーへ進入できることだ。なお、BC(ブレーキコントロール)をオンにすると、標準の統合型ABS制御に加えてコーナリングアシストブレーキが有効になり、旋回中にホイールがスリップするのを抑制してくれるのだ。

セパハンによる前傾姿勢の深さについては、レーサーレプリカブームをリアルタイムで経験したライダーにとっては、むしろご褒美のようなものだろう。直近で改善すべきと感じたのは、サイドスタンドでの車体の傾斜角が深すぎることぐらいだが、これもいずれ社外パーツで何とかなりそうだ。皆さんが想像している以上に周囲からの注目度が高いので、オーナーになられた方はライダーが多く集まる道の駅などでは覚悟してほしい。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

XSR900GP(2024年)
XSR900(2022年)

シート高はXSR900の810mmに対して835mmを公称し、その分だけ腰高に感じられるが、足着き性はさほど悪くはない。両車のハンドル位置の違いは歴然としており、XSR900GPは昨今のスーパースポーツよりもセパハンの垂れ角が大きいような印象だ。ステップはXSR900比でややアップ&バックしているが、膝の曲がりからも分かるように、さほど窮屈には感じなかった。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…