走りに惚れるXSR900GP。伝統のヤマハのハンドリングを感じられるバイクだった

XSR900GPが登場してから、周囲のベテランライダーたちの食いつき方が凄い。80年代のレース黄金期に大活躍していたYZR500のデザインをイメージし、しかも往年のマルボロカラーを背負っての登場である。そりゃあオヤジライダーたちの話題にならないほうがおかしいというもの。しかし、実際に乗ったらどんなマシンなのか。今回はストリートから高速道路、ワインディングまで走ってみることにした。

REPORT●後藤 武
PHOTO●山田俊輔

 

変わったのは外装だけじゃない

車体は80年代にサーキットで活躍したGPマシン、YZR500を彷彿させる。ポジションも前傾になっていてXSR900の面影はない。

前後サスペンションもこのバイクのため完全に作り変えられた。フレームは2022年型XSR900をベースにヘッドパイプ左右を連結。板厚やピボット部とフレーム連結部の剛性、エンジンマウントなど様々な部分がこのマシンに合わせて最適化されている。フロントフォークやリアショックも新設計だ。

アッパーカウルのステーがベーターピンで固定されていたりメーターのステーが肉抜きされているあたりは当時の雰囲気がプンプンと漂う。メーターはデジタルだがアナログを模したタコメーターが表示されていることを知って思わずニンマリとしてしまった。
丸型のアナログ式タコメーターだったらテンションが更に上がっただろうが、XSR900ーベースにしたバイクでそこまで望むのは贅沢というものだろう。

前傾はけっこうキツイかも

最初に市街地から高速道路を走ってみた。スーパースポーツほどではないがそれでも前傾姿勢はそれなりにきつい。ライダーによって個人差はあるけれど、テスターの後藤は前傾姿勢が苦手ということもあって、1時間ほど走ると首が辛くなってくる。ただ、このポジションが特に苦痛でないのならストリートも高速道路もかなり楽しく走ることができる。

サスペンションの動きが良いので乗り心地は悪くないし、3気筒のエンジンの排気音を聞きながらこのポジションで走っていると、それだけでテンションが上がる。高速道路では下からトルクがあるのでクルージングも追い越しも楽。ただし微振動は出る。振幅は大きくないけれど硬質なので気になる人は気になるかもしれない。ハンドルはどの回転数でも細かく振動が出ていて、スロットルを開けて爆発力が大きくなったときは振動が増える。ステップとタンクの振動は 5000回転位から大きくなってくる感じだ。

試しにパワーモードを変えてみるとレスポンスとパワーの出方ずいぶん変わる。結局ストリートはスタンダードモードで走っていたが、ストリートでもう少しエンブレを抑えたい感じはする。スロットを開けたときのマイルドさは悪くないのだが、トルクがあるので開け閉めをするとちょっとぎくしゃくする感じがする。
シフターがスムーズに作動するのは3000rpm位から。ハンドルはフルロックさせるとタンクに手首が当たってしまうためにUターンはしにくいが一般的なスーパースポーツに比べると概してストリートでは乗りやすく、扱いやすい。

ヤマハファン感涙のハンドリング

このバイクの本当の素晴らしさを体感できたのはワインディングに入ってからである。コーナリングが最高に楽しかった。バンクさせるときの車体の動き、サスペンションの動きや、ステアリングの舵角のつきかた、すべてがしなやかでしっとりとしていて不安感がなく、気持ちよいのである。これぞ、80年代に多くのライダーを魅了したヤマハのハンドリングという感じだ。

もちろん最近のスポーツバイクならどれも乗りやすい。でもXSR900RGPのコーナーリングは別。単に乗りやすいだけではなくライダーの感性に訴えかけてくるような楽しさがある。これはたぶんテスターの後藤が80年代からヤマハのバイクでレースに参戦していた経験があるからかもしれない。当時、ヤマハのレーシングバイクで走っていた感動が呼び起こされるのである。
このコーナリングと3気筒エンジンの相性も抜群に良い、中速域でトルクがあるからエンジンを高回転まで回さず、常識的な速度で走っても楽しむことができる。

XSR900GPは、デザインだけではなく、ハンドリングも往年の時代を彷彿させるバイクになっていた。当時を知るライダーであれば、このマシンでワインディングを走っただけで感動することだろう。若いライダーでもこの素晴らしさは感じられることと思う。ぜひ一度乗っていただきたいと思うバイクだ。

ポジション&足つき(身長178cm 体重74kg)

スーパースポーツほどではないが前傾はきつめ。人によっては長距離を走ると首や肩、背中が疲れてくるかもしれない。

リッターバイクの割に足つき性は悪くない。テスターの身長だと両足がベッタリと踵までついて膝が若干曲がる。

ディテール

フロントブレーキは対抗4ポットキャリパーをラジアルマウント。制動力、コントロール性共に良好。スポーツライディングでも不満は出ない。
888cc 3気筒エンジンは120ps/10000rpm,9.5kgf/7000rpmを発揮。低中速からの太いトルクのおかげで回していなくてもスポーティな走りが楽しめる。高回転でのエキサイティングな排気音も魅力だ。
サイレンサーはエンジンの下。十分な容量を確保するとともに低重心化にも寄与している。ライダーの高揚感を高める3気筒のサウンドが素晴らしい。

 

湾曲したスイングアームがGPスタイルを引き立てている。リアブレーキは小型だがとても使いやすく、コーナーリング中のスピードコントロールが容易。

 

クイックシフターはスポーツライディング時にありがたい装備。途切れない加速とシフトダウン時のフィーリングがスポーツマインドを刺激する。
リアショックはこのマシンのディメンションや性格を加味して新設計された。イニシャルアジャスターは油圧ダイヤル式の24段。圧側減衰は高速が5.5回転。低速が18段階。伸び側2.5段階で調整が可能。
スポーツライディングのしやすさを考えられたシート。ワイズギアから発売されているシングルシート風のカウルを装着するとYZR500的なイメージがさらに強くなる。
シート下にはバッテリーとヒューズボックスを配置。サスペンション調整用ツールが収納されている。 高機能の6軸IMUはバンク角を反映したトラクションコントロールシステム、旋回性をサポートするスライドコントロールシステム、前輪の浮き上がりを制御するリフトコントロール、バンクしているときのタイヤの横滑りを検知してブレーキ圧力を制御するブレーキコントロールを装備。
左スイッチボックスにはセレクターとクルーズコントロール、ウインカー、ホーンなどのボタンを配置。ボタンの数は多いが操作性は悪くない。
右スイッチボックスにはキルスイッチ、セル、モード切替スイッチを配置。
セパレートハンドルはトップブリッジの上に装着されている。ステムシャフトはアルミ素材となった。バーエンドミラーは後方の視認性がとても良好。
フロントフォークはフルアジャスタブル。減衰力は圧側が低速側で18段、高速で5.5回転。伸びが26段階に調整可能だ。
シート下にテール&ブレーキランプを配置。ワイズギアからフェンダーレスキットが発売されているのでシングルシートカウルとセットで交換するとリアビューがスッキリしてレーシーなイメージになる。
フロントカウルに小型のヘッドライトを装備。明るさは十分だ。
5インチTFT液晶のディスプレイの表示方法はライダーの好みで色々なスタイルをチョイスすることができる。この表示は回転数とパワーを直感的にイメージすることができる。バイクに乗っていないときでもスマホでエンジンのセッティングを作り込み、走行時にデータを転送するという使いかたもできる。
アナログ式のタコメーターをイメージさせる表示。当時を懐かしむファンには嬉しい。

 

加速力に関係するトルクと回転数をイメージしやすい表示。最大トルク発生回転である7000rpm付近の幅が広くなっている。
速度と回転数を同レベルで見やすくした表示

 

 

アッパーカウルのステーはカウルとベーターピンで固定されている。当時のレーシングマシンを彷彿させる部分。

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