東京の原付ナンバープレートは5桁。自転車通学禁止の「長崎市」も5桁。【全国の独自ローカルルールを知る】

長崎市は東京都内の各区に比べて人口は少ないが、原付一種(50cc以下)の登録台数は国内有数(ナンバープレートが5桁)。なお坂道や階段が多いためか、長崎県における1世帯あたりの自転車保有台数は約0.5台で全国最下位。「自転車に(多分)乗れない」の回答割合は、長崎市内の居住者が14.3%で全国1位。これらの因果関係と実情を徹底リサーチ。
東京都23区の原付の中には登録台数が累積し、4桁では間に合わず5桁のナンバープレートへ移行。5桁の原付ナンバーは広島市や静岡県浜松市などでも導入中。都内で5桁の原付ナンバーを調査し、そのことを筆者の兄に話すと「長崎市も原付のナンバーは5桁だったなあ…」とつぶやいた。ここでは他エリアとは明確に異なる、急坂や階段の多い長崎市ならではの自転車の利用率低の低さ(長崎県における1世帯あたりの自転車保有台数は約0.5台で全国最下位/日本自転車産業振興協会調べ)。それに伴う原付人気の秘密についてレポートしよう。
PHOTO/REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)

登録台数の累積が増えれば4桁から5桁に移行。バイクやクルマのナンバープレートの常識

筆者は千葉県某市に在住。駅前の原付駐輪場をチェックすると、原付一種(50cc以下)のナンバープレートは4桁がメイン。昔から「それが当たり前」と思っていた。

普段は気にも留めていなかったが過日、所用で東京都内を歩いていると、ムムム!? 停まっていた原付のナンバープレートが5桁であることに気付いた(地域によっては今も3桁)。

原付一種(50cc以下/カラーは白)と原付二種(90cc以下/カラーは黄。125cc以下/カラーは桃)のナンバープレートは、市区町村が発行・管理する。形状は各市区町村に委ねられているため、場所により微妙に異なるのがユニークなところ(上記参照)。

形状はともかく、国内のすべてのバイクや自動車のナンバープレートの番号は、“累積”が原則。つまり「廃車になった番号を、新しい車両に割り振る」ということをしない。防犯上や整理上、地域表示を除き、1枚たりとも同じ番号表示はないのである。

都内を合計20kmリサーチし、5桁の原付ナンバープレートを探索!

全国の原付の中には、登録車が積もり積もって4桁では間に合わず、5桁のナンバープレートを採用している地域がある。編集部が調べたところ、東京23区内のほか、広島市や静岡県浜松市などが導入中だ。

今回は“戸越銀座商店街”というスポットでもおなじみの戸越駅(東京都品川区戸越)をスタートし、しばらく西へ進行。続いて都内の大動脈である環状七号線を右折し、ひたすら北上。5桁の原付ナンバープレートを求め、大田区~世田谷区~杉並区~練馬区の約20kmの距離を、自らの足で調査してみた。

●歩行ルート
スタート地点:都営地下鉄浅草線「戸越駅」
ゴール地点:都営地下鉄大江戸線・西武池袋線「練馬駅」
歩行距離:約20km
東京都品川区戸越にある都営地浅草線・戸越駅をスタート。
写真は原付一種(50cc以下)。
写真は原付一種(50cc以下)。
写真は原付二種のピンクナンバー(125cc以下)。

今回リサーチして驚いたのは、都内ではどのバイクよりも、原付二種(特にピンクナンバー)が圧倒的に多いこと。庶民の足であるはずの原付一種を見つけるのに、とってもとっても苦労した。

都内で原付一種が減った理由は、原付一種に適用される最高速度30km/h規制や、二段階右折義務を回避するためだと推測。特に今回リサーチした環状七号線など、交通量が多く、道路の広い幹線道路では、コスト安で便利な原付二種が、とにかく重宝されている。

都内の主要道路である環状七号線において何かと制限の多い原付一種は、もはや便利とはいえず、利用者は少ないのだろう。繰り返すが、道路沿いで発見するのに難儀した(あまりに見つからず、環七をそれて住宅街にも侵入)。

後日…

お盆休みの時に実家へ帰省した折、筆者は「酷暑の中、都内で5桁の原付を探し回った。日焼けして真っ黒だろ」などと褐色の腕を、同じく帰省していた兄に披露したところ、「そういえば長崎市も原付のナンバーは5桁だったなあぁぁ…」と、褐色の肌には見向きもせず、彼は懐かしむようにつぶやいた。

形状に工夫をこらした長崎市のご当地ナンバープレート(原付一種と原付二種の形状は各市区町村に委ねられている)  写真は「葵工業株式会社」HPより https://www.aoii.co.jp/ 

坂道や階段が多くて道の狭い長崎市。原付一種の登録台数が多く、街中でも重宝!

写真左)長崎市平和公園内に設置された「平和祈念像」  写真右)長崎県長崎市東山手の旧居留地時代につくられた石畳の坂道・石段「オランダ坂」

某一般企業のサラリーマンである兄は、2023年3月までの数年間、転勤で家族(奥方と子供2人)とともに長崎市内の高台(社宅のマンション)に在住し、長崎市街にある低地の支店に勤務していた。「長崎市は住みやすく、とってもいい街だった(現在は移動で福岡県の博多に勤務)」という兄によると、

・長崎市内への通勤にはバスや路面電車。もしくはクルマや原付を使用するのが定番。道が狭いためか、クルマは軽自動車が人気だった

・長崎市の前は大阪府堺市(大阪府は日本屈指の自転車大国)に居住。ガソリン代を浮かすため。また高台の社宅から最寄りのバス停までは距離があったため、長崎市に転勤となった兄は、大阪で愛用していたスポーツ自転車での通勤(片道約8km)を検討

・しかし社宅入居時の懇親会で知り合った皆さんから、「自転車での往路は下りの勾配がきつくて危険。しかも急坂が続く復路は体力を消耗する。なので毎日の通勤に自転車の利用は無謀。クルマか原付にしなさい」、「その通り」等々との忠告を受けた

・あれこれ思案した結果、兄はガソリン代を節約するため、原付のスズキ・レッツ(原付一種)を中古で購入。悪天候時はバス、もしくは家族車のダイハツ・タントカスタムで通勤

・兄の愛車であるスズキ・レッツのナンバープレートは5桁。購入したショップは自転車も販売していたが、自転車はあまり売れていなかった模様

長崎市の公式WEBサイトによると、2024年8月現在の長崎市の人口は38万9194人。なお、5桁ナンバーを導入している東京都大田区は73万9640人、世田谷区は92万2740人、杉並区は57万7236人、練馬区は74万5417人(すべて2024年8月現在)。

長崎市は長崎県の県庁所在地。とはいえ、人口は同じ5桁を導入した東京都の各区よりも少ない。だが長崎市は5桁のナンバープレートを導入。以上の事実から、原付一種の登録台数は東京都の各区に匹敵。言い換えれば原付一種の利用者が、4桁では追いつかない大都会の東京並みに多いということだ。

一般社団法人・日本二輪車普及安全協会が行った調査によると、原付免許取得率が日本一の都道府県は和歌山県がトップ(1万人当たりの原付免許取得者は37.1人)。長崎県は24位(1万人当たりの原付免許取得者は10.7人)。
https://www.jmpsa.or.jp/safety/license/mi2103b.html

長崎市では自転車通学・通勤がほぼ皆無。地元民は「危ないからやめておけ」とも

坂道や階段の多い長崎市で自転車に乗る人は極めて少ない。写真はイメージ。

兄の話では、

・当初はかなり長崎市の道路事情をみくびっていた。大阪から持参した愛車のスポーツ自転車で試しに社宅周辺や長崎市内を走ってみたが、急坂は想像以上に険しく、しかも歩道は階段が多い。車道は道路が狭いため、クルマやバスの存在が恐怖だった。なお自転車に乗る人には一切遭遇せず、「オレだけ?」という一人ポツ~ンと浮いた感じがした

・社宅のマンションに自転車置き場はなかった(他の集合住宅もそうだった)

・長崎市在住時、大人が自転車に乗る姿を見たのは、たまーに市街地の平地くらい。「自転車は公園などで子供が遊びで乗るもの」という認識が強くなった

・一時期、ガソリン代のさらなる節約のため、電動アシスト自転車での通勤を模索。しかし長崎市在住歴の長い同僚A氏から、「電動アシスト付きとはいえ、長崎市内の道路は基本的に自転車向きではない。危険だからやめなさい」と止められた

・別の同僚B氏からは、坂道の多く、道路の狭い長崎市内は自転車が少ない=長崎市内を走る自動車のドライバーは、一般的に「道路に自転車が走っている」という意識が希薄。自転車をスルーするのに慣れていないので、自転車の乗車はオススメできないと助言された

引っ越し業者比較サイト「引っ越し侍」が2014年に行った調査「自転車の保有率ランキング!自転車を一番持っている都道府県は?」では、学生の街である京都府が保有率44.5%でトップ。最下位は沖縄県で13.7%、下位2位は長崎県15..2%、下位3位は秋田県23.7%だった。
https://hikkoshizamurai.jp/report/report037/
一般財団法人・日本自転車産業振興協会による「2022年・自転車保有実態調査」によると、長崎県における1世帯あたりの自転車保有台数は約0.5台で全国最下位。なお下位2位は沖縄県で約0.6台。全国平均は約1.2台。
https://jbpi.or.jp/business/report/domestic/possession/
長崎市内の坂道を登る原付と制服姿の高校生。

兄の話で筆者がもっとも驚いたのは、長崎市では自転車で通学する高校生がほぼ皆無なこと。ちなみに兄の末娘が通っていた高校は、自転車通学が禁止。これは筆者的には衝撃的であり、「日本でそんなことがあるの?」と思ってしまった。

長崎市内における高校生の通学は、路面電車やバス、そして徒歩が基本中の基本。急坂や階段が多く、狭い道路の多い長崎市の多くの高校には、そもそも自転車置き場が設置されていない。昔から「自転車で街中を移動する」、「自転車で通学する」という概念が、ほぼないのだという。

上記を聞いた筆者は当初、「おいおい、いくら何でも話を盛りすぎだろ?」と懐疑的だった。しかし兄の話をネット情報やSNS、関連団体の調査資料、図書館の文献などで調べてみると、決して嘘ではないことが分かった。

公益財団法人・自転車駐車場整備センターが行った「第11回 国勢調査からみる通勤通学時の自転車利用の動向②」によると、全国の通勤通学手段のうち、「自転車のみ(ドアツードアで自転車により通勤通学すること)」は、大阪府が20.39%でトップ。もっとも少ないのは長崎県の2.40%。
https://www.jitensha.jp/%E3%80%90%E7%AC%AC11%E5%9B%9E%E3%80%91%E5%9B%BD%E5%8B%A2%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%BF%E3%82%8B%E9%80%9A%E5%8B%A4%E9%80%9A%E5%AD%A6%E6%99%82%E3%81%AE%E8%87%AA%E8%BB%A2%E8%BB%8A%E5%88%A9/
(株)長崎経済研究所が展開する「ながさき経済web」の調査によると、「自転車に乗れない」と回答した人は10.4%、「多分乗れない」が2.2%で、「(多分)乗れない」の合計が12.6%と全国1位。これを居住地(長崎市内/長崎市外)でみると、「(多分)乗れない」の回答割合は、「長崎市内」居住者が14.3%、「長崎市外」居住者が10.0%で、4.3ポイント高くなっていいるのが特徴。
https://nagasaki-keizai.jp/survey/researchan/8152
長崎市では見られない風景。高校生の自転車通学と大規模な自転車置き場。写真はイメージ。

以上は数年間、長崎市に転勤で在住していた筆者の兄の体験談。長崎市を訪れた折には、その真偽を自分の目で確かめるべく、現地の原付事情をじっくり観察してみようと思う。

まとめ:あなたの住む地域には、どのようなローカルルールが存在する?

都市部では「集合住宅の場合、隣に住む人の名前や顔は不明」、「在宅中でも玄関の施錠は当たり前」が常識。一方で、「在宅中の日中は自宅の鍵を閉めない」、「自転車に乗る小学生や中学生が皆、半キャップ風の白いヘルメットを被っている」、「自宅から5km圏内に住む住人の苗字・名前・顔・家族構成・勤務先・学歴・子供たちが通う高校・下宿先の大学を知っている」という地域もある。

日本列島は狭いながら、そのエリアならではの、他エリアの人間が「えぇ!」と思うような独自の“あるある”が存在する。あなたの住む地域には、どのようなローカルルールが存在しますか?

※注:上記は2023年までの数年間、転勤で長崎市に赴いた実兄の体験と感想。あくまでも個人の体験と感想であり、現況、現地で実際に暮らす人々や、昔から暮らす人々の、個々の生活形態や生活様式とは異なる場合があります。

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