ホンダGB350は、スポーツモデルと言うよりも実用車。なのに走りがメチャ楽しい!

350ccと言うミドルクラスに「GB」ブランドを復活させたホンダ。GB350発表時のレポートと同Sモデルの試乗インプレは既に報告済み。今回はそのベーシックモデルに試乗した。インド市場で「H'ness CB350」として昨年9月にデビューし、早々に1万台突破の高い人気ぶりが話題に登ったが、国内では空冷シングルのロングスローク・エンジン搭載が、注目を集めている。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 ホンダモーターサイクルジャパン

ホンダ・GB350…….550,000円

ホンダ・GB350
ホンダ・GB350
ホンダ・GB350
ホンダ・GB350
ホンダ・GB350
ホンダ・GB350

キャンディークロモスフィアレッド

ホンダ・GB350
ホンダ・GB350
ホンダ・GB350

マットジーンズブルーメタリック

ホンダ・GB350

マットパールモリオンブラック

「GB」のルーツはこれ。

GB250クラブマン
GB400TT Mk2
GB500TT(ツーリスト・トロフィー)

 今の若い世代にとって、GB350はどの様なバイクに見えるのだろうか。半世紀以上前の古い時代を知る筆者にとっては、至って“普通のバイク”である。
 黒いキャストホイールは前19、後18インチサイズを採用。比較的細めのタイヤを履く。そしてスチールパイプ製セミダブルクレードルフレームと2本ショックのリヤサスペンションを採用。そのフォルムは、如何にもオーソドックス。古き当たり前のロードスポーツ車としてどこか懐かしさを覚えた程だ。
 しかしながら、そんな古き時代を知らぬ世代にとっては、何処かドッシリと身構える落ち着いた風情のスタイリングに、むしろ新鮮な雰囲気が感じられるのではないだろうか。
 
 GBブランドのルーツを探ると、1983年12月に発売されたGB250クラブマンに端を発している。基本的にネイキッドスポーツという意味では共通ながら、前後ホイールサイズは18インチ。
 プレスリリースを読み返すと「1960年代の伝統的なスタイルを継承しながら」(中略)半球型燃焼室に放射状4 バルブ(RFVC) を備えたツインカム単気筒エンジンを搭載。最新技術の投入が謳われていた。
 1985年7月には兄貴分のGB400ツーリストトロフィーが、8月にはロケットカウルにシングルシートを標準装備する同MkⅡと最上位機種のGB500ツーリストトロフィーを発売し同シリーズが拡充されたのである。
 これら往年のGBと比較すると、今回のGB350は明らかに毛色が異なり、少し異彩を放つ別次元の存在感を漂わせている。
 決定的に違うのは、ユーザーニーズや市場環境が日本とは大きく異なるインド市場をメインに開発された事。経済成長の兆し等では1960年代の日本に似た部分もあるかもしれないが、同じではない。
 イメージして欲しいのは基本的にインド市場で主流を占めているのは125~150ccクラスであって、250ccはかなり高級な贅沢品。
 そんな中でホンダが投入したH’ness CB350はさらに上の“ビッグバイク”にジャンル分けされたゴージャスな逸品なのである。
 注目したいのは、H’ness CB350が、“古典的な衣を身に纏った先進的モデル”として販売訴求され、ユーザーのハートをしっかりと射止めた事。その点に日本の初代GBと共通する要素があると思えたわけだ。
 両車の基本構造は同じだが、製品のキャラクターや装備内容、そして市場での位置付けは明らかに異なっている。H’ness CB350は豪華仕様、GB350はシンプルな“素”のモデルと言えるだろう。
 “古典的な衣を身に纏った先進的モデル”としたH’ness CB350のコンセプトワークとユーザーへの訴求方法が、まさに時代を隔てたかつてのGBブランド創設時を彷彿とさせた点が実に興味深いのである。
 
 ちなみに車体やエンジンについての解説は過去記事をご参照頂くとして多くは割愛するが、前回掲載のGB350Sとの主な相違点については簡単に触れておこう。
 フェンダーやマフラー、サイドカバーやシート等、外観デザインや色使いの違いは写真を見比べればわかる通り。
 諸元値の比較で明快なのは、GB350Sのリヤタイヤが150/70R-17インチに対してGB350は130/70-18インチを履いている。
 また車両重量はGB350の方が2kg重い180kg。燃料消費率では、WMTCモード値は共通ながら、定地燃費率では、GB350Sの47km/Lに対して49.5km/LのGB350が勝っている。おそらく細い大径タイヤを後輪に履くGB350の方が転がり抵抗が少ない故の結果だろう。
 この他、ライディングポジションも図で示すように、微妙ながらもそれぞれのキャラクターに合わせてきちんと差別化されているのも見逃せないところである。

スポーツ性の追求以外にも魅力的なバイク作りはできる。

    

 試乗車を目前にすると、同じミドルクラスの単気筒スポーツという事で、頭の中ではついついヤマハ・SR400と比較してしまう。どちらかと言うとスマートに洗練されたスタイリングのSRに対して、GBはちょっと無骨なイメージだが佇まいには落ち着きがある。
 実際、サイズ的にも大きく車重も重めで、見た目はもちろん、取り回したり跨がった時の印象は如何にも“鉄馬”的な堂々たる存在感を覚えた。
 ライディングポジションにつくと、何とも普通。特に身体の筋力を使う事なく、リラックスできる乗り味はとても気楽。上体は直立に近く自然体で乗れる。足もライダーが積極的に踏ん張ると言うよりは、フートレストに乗せて寛ぐ感覚になれる。
 端的に言うとスポーツモデルと言うよりは実用車に違い雰囲気が印象的なのである。この点がひとつ貴重な存在と成る所以だろう。
 左足のシフトは5速リターン式だが、ペダルはシーソー式。通常のスポーツ車同様に爪先で蹴上げてシフトアップできるが、後部を踵で踏み込むことで同じ操作が可能。つまりシフトアップ/ダウンの操作が、靴底だけでコントロールできる。バイク用のシューズを履いていなくても靴を痛める心配から開放される。
 GB350Sと比較すると堀が深く長さも十分なフェンダーの装備も印象的。何ならフルチェーンケースを装備してくれても似合うだろうと思えた程、機能本位の充実したデザインを魅せてくれているのが印象深い。
 
 特にスポーツライクに身構える必要の無いリラックスできる乗り味が自由気ままな走り方にピタリと似合い、近所までの足代わりから、高速を使ったロングツーリングまで、何処にでも気楽に対応できるのが魅力である。     
 諸元表に現れるエンジンパワーはわずか20psに過ぎないが、トルクはSR400を凌ぐ。しかも3,000rpmで29Nmのピークトルクを発揮するだけでなく、中低速域から幅広く柔軟な出力特性を発揮しており、その悠然たる走りが何とも心地よい。
 グイグイと飛ばす様なスポーツ走行には向いていないが、ごく当たり前に公道を走る限り、走行性能に不足は感じられない。むしろ単気筒の鼓動感は逞しさがあり、常に余裕のある走りっぷりを披露してくれた。
 操縦性やブレーキ性能もその雰囲気と上手くマッチしており特に不満は感じられない。もっとも峠道のコーナーを攻め込む様な走りが似合うわけではないので、スポーツ車に要求される様なレベルの走りをしないでチェックした事も補足として書き加えておきたい。
 ともかく普通に走る限り、市街地から高速まで、何も不満は感じられないのである。むしろ出力特性の豊かさや、穏やかにして頼り甲斐のあるスロットルレスポンスは、そこかしこで発揮され、いちいちハートに心地良いのである。
 過激なパフォーマンスの向上で凌ぎを削りあう昨今のネイキッドスポーツ等と比較すると、GB350の乗り味はとても豊かな物に感じられ、それが新鮮な魅力として印象に残るわけだ。

 シートが固めで座り心地はシッカリしている。ロングツーリングでの快適性がどんな物なのか気になる所だが、今回は130km程度の試乗だったので、また改めてジックリとチェックしてみたい。
 他に気になったのは、5速トップギヤの90km/h前後でハンドル他に少しビビリ振動が発生した。もっとも、欠点と言える程の大きさではなく、他の領域では単気筒エンジンとは思えない程に振動が抑えられており、バランサーが上手く機能していると思えた。
 
 単気筒独特の鼓動感とズ太く歯切れの良い排気音を楽しみながらストリートを悠長に走らせると風の心地良さや周囲の景色がこれまで以上に目に飛び込んでくる。
 アクセクと先を急ぐのではなく、あくまでマイペース。それでいて周辺交通の流れを楽々とリードできる性能に満足感を覚える。
 1速飛ばしでロー、サード、トップとシフトアップしても良し、あえてエンジン回転を下げ気味にして穏やかに発揮されるズ太いトルクを楽しむのも良い。
 いずれにせよ、これほど悠然と走る豊かな味わいが楽しめるバイクは他になかったと思えたのが正直な感想である。
 なお、実用燃費率も驚異的に良く、前回のGB350Sは50.7km/Lを記録。今回はそれ以上だった事は間違いないが、満タン法計測の信憑性に自信が持てなかったので、数値はまた改めてロングツーリングで検証の上ご報告したい。

足つき性チェック(ライダー身長168cm/体重52kg)

ホンダ・GB350
ホンダ・GB350
ホンダ・GB350
ホンダ・GB350

ほぼベッタリと地面を捉えているように見えるが、踵はほんの少し浮いている。シート高は800mm。車体はそれなりの重量感を覚えるが、支える上で不安は感じられない。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…