ホンダGB350とGB350S、違いはほんの少しでした(でもSは確かに少しスポーティ)。

「H'ness CB350」&「CB350 RS」として2020年9月にインド市場に登場するや、短期間で販売実績1万台を突破する人気を獲得して話題を集めた単気筒スポーツ。国内にはネーミングを改めて、4月にGB350、7月に同Sがデビュー。ホンダがリリースするブランニューモデルとして大きな期待と注目を集めている。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 ホンダモーターサイクルジャパン

ホンダ・GB350 S…….594,000円

ホンダ・GB350 S
ホンダ・GB350 S
ホンダ・GB350 S
ホンダ・GB350 S
ホンダ・GB350 S
ホンダ・GB350 S

パールディープマッドグレー

ホンダ・GB350 S
ホンダ・GB350 S

ガンメタルブラックメタリック

常識的デザインのスチール製セミダブルクレードルフレーム
リヤスイングアームは、角断面スチール鋼管製。

 GB350の概要は今春の発表時に報告済み。いかにも独自性のある個性派シングルスポーツの新登場はかなり大きなインパクトがあった。一方ロングセラーとして知られたヤマハSR400は3月投入のFinal Editionと同Limitedを最後に生産終了が決定されている。
 つまり251~400cc迄のミドルクラスで、唯一と言えた単気筒エンジン搭載の国産スポーツバイクは、SRからGBがバトンタッチされる形となり一気に脚光を浴びる存在になっている。

 今回の試乗車は、GB350S。スチールパイプのセミダブルクレードル・フレームや空冷SOHCエンジンはGB350と共通ながら、外観デザインは別物に仕上げられている。
 ザックリと違いを列記すると、要所要所に直線的なアクセントラインがあしらわれ、全体のフォルムが引き締められた。爽快感漂うスポーツバイクである。
 前後共にショートフェンダーを装備。横に細長いコンパクトなウインカーの採用で軽快なフォルムを構築。上質なシート表皮を採用しタックロールを入れたダブルシートも別のオリジナルパーツが採用されている。
 それでいて後輪には150サイズの17インチワイドラジアルタイヤを履く。フロントフォークには黒いラバーブーツを装着。リヤショックもブラックのコイルスプリングを装備。サイドカバーも黒いオリジナルデザインになっている。そしてエキゾーストパイプからマフラーまでブラックアウト。
 とりわけ低い位置の斜め後方から眺めるスタイリングが逞しい。
 
 搭載エンジンで見逃せないのは、ボア・ストロークが70×90.5mmと言う超ロングストロークタイプである事。
 今やロングストロークタイプも決して珍しい存在ではないが、ここまでストロークを長くしたエンジンは貴重である。結果的に20psの最高出力と29Nmの最大トルクを発揮。
 ちなみにショートストロークタイプエンジンを搭載するSR400の性能諸元と比較すると排気量が小さいだけにGBは最高出力が少し控えめながら、最大トルクは逆にSR400を凌いでいるから驚きである。
 総減速比に着目するとGBの方がSRより高めに設定されている。一般論で言えば排気量が小さくなれば、パワーを補う意味で低めのレシオがマッチされるのが常識的だが、ここに逆転現象が表れているのは、エンジントルクの太さを如実に物語る結果ではないだろうか。
 

 また、長いストロークで往復運動を繰り返す直立の単気筒エンジンは、そこに発生する振動対策も欠かせないが、GBにはクランク軸前方に1軸1次バランサーシャフトを装備。さらにクラッチと同軸上にあるミッション側メインシャフトにもバランサー機能が折り込まれている。
 ピストンが上下する時に生じる勢いの50%をクランクウェブの回転で、1次バランサーが35%、後方のメインシャフト・バランサーは15%の割合で往復運動時の振動エネルギーを打ち消すと言う。
 単純な上下振動だけでなく、クランク軸を中心にした回転方向に発生する揺動、つまりエンジン自体がピッチングする動き(振動)に対しても巧みな制振作用を発揮させているのである。
 果たしてその乗り味は如何なるものだろうか!? この試乗はいつも以上にワクワクさせられた。

ミッション側のメインシャフトに同軸バランサー機構を搭載。クランク前方にセットされた1軸1次バランサーと相まって、シングルエンジンの振動を大幅低減している。

いつでも、いつまでも楽しめる太く穏やかな乗り味。

   

 試乗車に跨がると、アレッ?と少々不思議な感覚を覚えた。以前に跨がった経験のあるGBと比較するとその雰囲気に微妙な違いがある事に気づいたからだ。
 800mmのシート高は同じハズなのに地面に足を着く踵の浮きが少し大きく感じられた。これは後退したステップが脛に当たるのを回避するため両足を左右に開く幅が大きくなった事に起因している。
 GBでは足をステップの直後に下ろすことができ、向こう脛が触れる程度なので、シートから地面への最短距離で両足を着地させることができる。その点に違いが生じていた。
 ステップ位置の違いから、ニーブリップ接点と下半身の踏ん張り加減も微妙に異なり、峠道での切り返しや、交差点の旋回操作等で下肢の筋力を発揮しやすく、左右へより積極的な体重移動のしやすさにも寄与している。
 それと共にハンドル位置も若干遠くにあるようで、背筋の直立具合がごく僅かながらも前傾ぎみ。ドッカリと腰を落としてリラックスしきって座る感覚のGBと比較すると、Sの方はいくらかスポーティなセンスが加味されていることがわかるのである。
 またシフトペダルはGBのシーソー式に対してSは普通の1ダウン4アップのリターン式が採用されていて、そもそも扱い方が普通のバイクと同様。気楽にフォーマルシューズでも乗れるGBとは、微妙に異なる乗り味と個性がそこにも存在しているわけだ。

 エンジンを始動するとトントントントンと低い回転数で安定して回る。後で外付けの回転計を装着してチェックすると、アイドリングは僅かに1,000rpmであった。
 それほど大きくない排気量の単気筒エンジンで、ここまで低い回転をキープしながら平然と回るエンジンは珍しい。いかにもロングストロークらしい悠長な雰囲気に溢れている。
 昔のように大きなクランクマスを備えて重いイナーシャで回転の安定性を求めた当時のフィーリングとは異なっている。あくまで規則正しく緻密で正確に爆発を刻む様は、燃料噴射が賢く電子制御される最新エンジンならではだろう。
 ポンポンポンとデシベルの低い軽妙なエンジン音も、スロットルを開けた瞬間、マフラー後方から歯切れの良い弾ける様なメリハリのある排気音が加わり、耳に心地よい。
 決して煩くはなく、それでいて聴く人の耳に響かせる単気筒サウンドの演出が上手。実際街中を走ると、道ゆく人が振り返って見てくれる事が多かった。特に年配の人はかなり大きな興味を示してくれたのである。
 考えて見るまでもなく、こんなロングストロークのシングルエンジンは、現状では他に例を見つけることができない珍しい存在としても魅力的だ。

 発進すると中低速域のトルクは予期した以上に太く柔軟な出力特性を発揮する。タタタッと軽いダッシュを決めながらセカンドへシフトアップしてクラッチを繋ぐと、さらに力強く、ググッ前へ出る加速感が独特。
 ロングストロークエンジンや、ワイドレシオミッションらしいそうした乗り味は、何とも頼もしいのである。
 おおよその速度で20km/h以上なら2速で、30km/h以上なら3速、40km/h以上なら4速ギヤでも十分に粘ってくれるから、エンジン回転を欲張ることなく、常に余裕で走ることがき、その平然とした乗り味が気持ち良い。
 ローギヤで5,000rpm回した時の速度はメーター読みで43km/h。そのまま全開にすると50km/h手前でレブリミッターが作動するから、上まで回しても5,500rpm強というレベル。
 ピークトルクは3,000rpmで発揮され、5速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数も3,600rpm、120km/h時でも4,400rpmで、ビッグバイク並に穏やかなフィーリングで走れてしまう。
 さらにその上の高性能を望めるかと言うと実は余力はあまり残されていないのだが、感覚的に非力感は全くなく、常にゆったりと余裕をもって走っている感覚がとても印象的なのである。
 ごく平然と、常に力半分で走る感覚はとても快適である。心穏やかな走りを好むライダーにはお薦めできる新鮮な乗り味が魅力的。まわりの景色が長閑な雰囲気に見えてくるから不思議である。
 ふと頭の中には、イギリスのローカルロードを走る光景がイメージされた。

 動力性能を始め、操縦性も含めて、スポーティなパフォーマンスに欲張る気持ちはもともと無いから、何も不満には感じられない。
 あえて言えば、90km/h(3,200rpm)付近で微振動が発生した事と、シートの座り心地が硬めだった点が多少気になった程度。適度な重さが伴う操縦性も素直で扱いやっすかった。
 ちなみに今回の撮影&試乗距離は高速や郊外一般道と市街地のトータルで約110km 。実用燃費率は満タン法計測で、何と50.7km/Lをマーク。低地燃費データを上回る好結果にビックリ。次回はロングツーリングで試してみたい。
 バイクの走りに鋭さよりも穏やかさを好むユーザーにはピッタリ。その乗り味は長く愛用できる魅力的な物だったのである。

両車の違いが示されたイラスト。ステップとハンドルの位置が微妙に異なっている。

足つき性チェック(ライダー身長168cm/体重52kg)

ホンダ・GB350 S
ホンダ・GB350 S
ホンダ・GB350 S
ホンダ・GB350 S

ご覧の通り、両足の踵は少し浮いてしまうが、確実に地面を捉えられる安心感は十分。バイクを支える上で特に不安はない。ちなみにシート高は800mm。それなりに堂々と立派な雰囲気が漂う。

ディテール解説

ホンダ・GB350 S

LED式ヘッドランプはGB350と共通デザインだが、ランプハウスは別物。リムもブラックアウトされている。またLED式ウインカーも細身の横長デザイン。

ホンダ・GB350 S

φ41mm正立式フロントフォークのインナーチューブにはラバーブーツを採用。シングルディスクブレーキはφ310mmローターとNISSIN製2ピストンのピンスライド式油圧キャリパーを装備。

ホンダ・GB350 S

超ロングストロークの単気筒エンジン。冷却方式が空冷である事も貴重である。

クロームメッキマフラーのGB350に対してGB350 Sはブラック仕上げ。クロームメッキのカバーデザインも独自の物が採用されている。

リヤサスペンションはオーソドックスな2本ショックタイプ。ブラックのダブルピッチスプリングが採用されている。ピンスパナを使用して5段階のプリロード調節ができる。

ホンダ・GB350 S

φ240mmのシングルディスクローターには、NISSIN製1ピストンのピンスライド式油圧キャリパーを装備。タイヤはメッツェラー製TOURANCE NEXTの150/70R-17インチサイズを履く。

ホンダ・GB350 S

ハンドル周辺はほとんど共通デザインに見えるが、グリップ位置はGB350より若干遠くて低い。

ホンダ・GB350 S
下がプッシュキャンセル式ウインカー、上のグレーがホーンスイッチ。ディマーとパッシングは人差し指で扱う。
ホンダ・GB350 S
赤いシーソースイッチがキルスイッチ兼、エンジン始動用スターター。下のグレーボタンはハザードスイッチだ。
シンプルで見やすいアナログ式のスピードメーター。右側には液晶表示ディスプレイと各種パイロットランプがレイアウトされている。
ホンダ・GB350 S
着座位置に自由度の大きなロングタイプのダブルシート。タックロールを入れたスウェード調の表皮と赤のダブルステッチで上質に仕上げられている。
左サイドカバーはキーロック付き。
左はバッテリースペース。下方に6角レンチが収納されている。
ホンダ・GB350 S

テールエンドが軽快なフィニッシュを魅せている。LED式テールランプはシートエンド下部に組み込まれ、シュッとスマートなショートアップフェンダーがマッチされている。

ホンダ・GB350 S

それなりに立派なサイズ感が印象的。見た目は至ってオーソドックスである。

主要諸元

 車名・型式:ホンダ・2BL-NC59
  
 全長(mm):2,175
 全幅(mm):800
 全高(mm):1,100
 軸距(mm):1,440
 最低地上高(mm):168
 シート高(mm):800
 車両重量(kg):178
 乗車定員(人):2
 燃料消費率(km/L):47.0(60km/h)〈2名乗車時〉
 WMTCモード値(km/L):41.0〈1名乗車時〉
 最小回転半径(m):2.3

 エンジン型式:NC59E
 エンジン種類:空冷4ストロークOHC単気筒
 総排気量(㎤):348
 内径×行程(mm):70.0×90.5
 圧縮比:9.5
 最高出力(kW [PS] /rpm):15[20]/5,500
 最大トルク(N・m [kgf・m] /rpm)  29[3.0]/3,000
 燃料供給装置形式:電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉
 始動方式:セルフ式
 点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火
 バッテリー:12V-6Ah(YTZ7S)
 潤滑方式:圧送飛沫併用式
 潤滑オイル容量(L):2.5
 燃料タンク容量(L):15
 クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング式
 変速機形式:常時噛合式5段リターン
 変速比:
  1速      3.071
  2速      1.947
  3速      1.407
  4速      1.100
  5速      0.900
 減速比(1次/2次):2.095/2.500

 キャスター角(度):27゜30′
 トレール量(mm):120
 タイヤ(前/後):100/90-19M/C 57H / 150/70R-17M/C 69H
 ブレーキ形式(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク
 懸架方式(前/後):テレスコピック式/スイングアーム
 サスペンションストローク(前/後mm):120/120
 フレーム形式:セミダブルクレードル

試乗後の一言!

歴史に残る個性的乗り味は、飽きずに長く愛用できそう。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…