スーパーカブばかり3台も所有して、全車を自らカスタムしているカイキチさんのことは前回の記事で紹介した。カイキチさんがスーパーカブに入れ込むきっかけがその時に紹介したオレンジのC50で、フロントフォークをテレスコピック化したのを皮切りにハンドルのショート化やサブフレームの追加などを施した。このC50でカフェカブミーティングin青山に参加すると、見事に人気投票で上位入賞。2017年にはホンダのホームページにエントリー時の写真まで掲載された。
オレンジのC50で毎年のようにカフェカブミーティングin青山に参加していたが、転機が訪れる。C50を譲ってくれた会社の同僚がC50を手放して手に入れたJA10を乗り換えるために手放すというのだ。C50も下取り価格で入手したカイキチさんだから、今回の話にも同様のセリフを返した。こうしてまたカスタムベースのスーパーカブが手に入ったのだ。
JA10スーパーカブ110はあまり人気のあるモデルではなく、生産期間が短かったため残存数も少ない。希少ではあるけれど、そもそもノーマルで乗る気なんてなかったからすぐさま分解することにした。ボディカウルをすべて取り去り、C50同様に2液性ウレタン塗料でグリーンに全塗装する。自宅ガレージにコンプレッサーやガンを揃えているからできた技だが、どこにも塗料が垂れた様子はなくプロ並みの腕前だ。
カウルの無くなった状態だと整備性が良いのでエンジンを下すことにする。ただ下すのではなくチューニング開始だ。海外製のメーカー不明ボアアップキットを入手して124ccにまで排気量を拡大。さらにはポートを加工して多くの混合気を吸えるようにした。さらにさらにスロットルボディを加工して径をφ23.4mmにまで拡大するとともに、ECUに抵抗をかませてエンジン温度が高いように認識させる。すると冷感時からガソリンが濃い状態になるので、ボアアップとともに効果的なチューニングとなる。
もちろん排気側にもこだわり、自作したエキゾーストパイプにC50で効果があったサブチャンバーを装着。サブチャンバー自体も自作したもので、排気管長を長くしたかったからエキパイはレッグシールドの内側で大きく弧を描かせた。サイレンサーこそアクラポビッチを使うが、マフラーステーまで自作したワンオフパーツの嵐なのだ。
ボディにはあまり手を加えていないが、面白いのがリヤキャリア。純正を分断してサイズを小型化しつつ、デザイン自体を大変更。溶接機までガレージに揃えているので、こうした製作が苦にならない。さらにはステーを自作してリヤをフェンダーレスにしている。こうすると純正ウインカーが使えなくなるのを見越して、ステーに小型LEDウインカーが付くように専用ブラケットまで作り出した。
こうしてチューニング&カスタムを進めたが、興味深いのはクラッチカバー。純正だと中央が凹み、そこへHONDAの文字が鋳込まれているのだが、平らな面にHONDA RACINGの文字がある。車種は秘密だがホンダの他車からカバー部分だけくり抜き、純正カバーと入れ替えているのだ。アルミ溶接を駆使した技でお見事というほかない。
エンジンの反対側を見るとスーパーカブの特徴でもあるチェーンケースが見当たらない。その代わりに見慣れぬスプロケガードが組み込まれている。これもカイキチさんが自らデザインしてアルミ板から製作したもの。ただ、それ以上にすごいのが前後のスプロケットを自作しているのだ。非常に硬度が高い超々ジェラルミン材からレーザーカッターで切り出したもので、独自の丁数にすることが可能だ。
当初はノーマルのフロントフォークを使っていたが、ここもC50同様にDio純正フォークを使ってカスタムしている。エンジンチューンによるパワーアップで純正フォークが役不足になったこともあり、さらには車高を変える目的もあってのこと。
仕上げはメーターだ。ギアシフトインジケーターは汎用のものがネット通販で1000円ほどで買える。そこで純正メーターを外してニュートラルランプ付近に移植。純正ハーネスにはギアポジションの信号を出力するカプラーがそもそも付いているので、6本のハーネスを作れば差し込むだけで機能するのだ。カブオーナーには参考になる話がてんこ盛りのJA10カスタムだ。